Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    秀二🐻‍❄️

    ヘキの墓場🪦
    現在はくるっぷメインのため、通常は更新していません

    ☆quiet follow Send AirSkeb request
    POIPOI 89

    秀二🐻‍❄️

    ☆quiet follow

    私は私の鯉月を書くしかないですね!前向き!

    鯉月不在 現代 フシギバナシ
    観測する少女 焼けついた思念

    ヴァーチュアル・ラヴァーズ 江戸川乱歩の「押絵と旅する男」を知っていますか。はい、本は好きなのでよく読みます。もし知らないなら後で調べてみてください。ネットですぐに見つかりますよ。要はそういう話です。いや……実際には少し違うかも。でもなんとなくあのお話に似ている気がしたので。夢か幻か、私の頭がおかしくなってたのか。実際にいたのか。本当はどうだったのかな。

     田舎のおじいちゃんのうちには古いテレビがあります。ブラウン管っていうんですかね。私の家にある薄いテレビとは違う昔の形のものです。しかも昔のテレビの中でもさらに古いような型でした。それこそ歴史の教科書で見た古いテレビと変わりありませんでした。おじいちゃんが買ったものじゃなくておじいちゃんのおじいちゃんだか、それか誰かが知り合いのところから貰ってきたとか。はっきり分からないんですけどとにかく昔からおじいちゃんの家にありました。
     当たり前ですけど、今そのテレビは映りません。でもとにかく大きくて重くて、さらにおじいちゃんも頓着しないのでそのまま家に放置されています。田舎の家って広いから使わないテレビがあるくらいは気にしないみたいです。例えばうちのマンションだったらとても取っておけないですよ。

     昔から夏休みにはおじいちゃんの家に遊びに行きました。お父さんとお母さんと一緒に。夜になると近くに住んでる他の親戚もやって来て皆で宴会してました。でも、子供にとっては退屈なんですよね。私でも食べられるような揚げ物やおにぎり、あとお刺身を少し食べてお腹いっぱいになった後は、賑やかな部屋を抜け出しておじいちゃんの家を探検しました。田舎の家って比較的広いですよね。子供にとっては果てしない迷路のようでした。成長した今でもそう思うんですから、子供にとっては尚更です。月明かりが照らす青白い廊下をヒタヒタ歩きました。他に誰もいないけれど何となく静かに。庭にはちょっとした池があって鯉が泳いでました。白地に朱色の模様が入った立派な鯉でした。おじいちゃんはその鯉をやたらありがたがっねいました。大きくて綺麗な鯉。薄明るい夜の池に浮かぶ彼は、少し神様みたいでした。

     遠くに大人たちの笑い声を聞きながら、私はひとつひとつ部屋を覗いていきました。おじいちゃんはどこを見てもいいと言ってくれていたので好きに見て廻ります。客間なのか誰も使わない部屋はがらんとしていてその静けさが不思議と心地よく感じました。私、特に夜とか暗闇は怖くないんです。子供の頃から。お母さんなんかは気味悪がって夜は私たちの寝室にいましたけど。

     順番に部屋を見ていって、最後にとある部屋に行き着きました。さっき話したテレビがある部屋です。部屋にはテレビと古いちゃぶ台、小さな本棚がありました。何冊か本が入っていたんですけど読めませんでした。子供の頃は勿論、今も。本というよりは日記みたいな、人が直接書き込んだものです。でも今と昔では文字の書き方が違うし、それは殴り書きという感じで理解できなかったんです。
     障子を全て開けると月明かりが部屋に差し込みました。暗い部屋に青白い光が差し込んで、テレビを照らしました。ぼんやりと明るく照らされるテレビは何も映しませんが、なんとなく幽霊に見えましたね。テレビの幽霊。
     私はちゃぶ台の横に腰掛けて、宴会から貰ってきた缶のオレンジジュースを開けて飲み始めました。自分でもどうしてそんな妙な行動を取ったのかは分かりません。ただ、不思議と心が落ち着く空間で、そうしてしまったんだと思います。少しぬるくなったジュースが喉をすべり落ちていきます。夏の夜にしては涼しい風が吹いていて、ふわりと部屋の中にも入ってきました。一際強い風が吹き込んできて私は無意識に風の流れを目で追いました。首を動かしてテレビの方を見ると、これまた不思議なものが目に飛び込んできました。テレビの灰色の画面が薄茶色、いわゆるセピア色というやつです、それになってました。そして人が映っていたんです。ふたりの男性でした。ひとりは少し髪の長い若い男性で、もうひとりは坊主頭で年上の人に見えました。昔の映画って音も色もなくて写真が連続して映るような感じでしたよね。ふたりは時折動いてました。ふたりで肩を並べていたり向き合って何か話していたり。言葉がないけれど仲が良さそうだなと当時の私は思いました。今思えば、ふたりはそういう特別な関係なんだなと分かります。大人なんですから、それくらい分かりますよ。
     幼い私はその光景を不思議に思いながらも自然に受け入れていました。テレビの受信方法が変わるずっと前に、私が生まれる前からそのテレビは何も映さなくなっていたのに。夢か幻か、私には区別がつきませんでした。

     ふたりはそれぞれ色違いの、軍服のようなものを着ていました。画面の中のふたりはゆっくりと歳をとっていきます。坊主頭の男性の方が年上のろうなので、やはり老けるのも早かったです。彼は軍服を着なくなったと思えば着流しを着るようになりました。もうひとりは軍服を着たままでしたが時間を経るごとに服装が変わっていきました。あまり詳しくないんですが、たぶん階級が上がってあったんじゃ無いでしょうか。顔つきもどんどん威厳のある雰囲気になっていきました。昔の偉い人の写真にいそうな感じでしたよ。
     
    Tap to full screen .Repost is prohibited

    recommended works