グースを失って持ち直したように見えて、ときどき戦地から帰っては危うい顔をするようになった。アイス以外は気づいていないぐらい、顔色に出るわけでも態度がおかしいわけでもなく、ただふいに揺らぐように遠くにいる気がする。
あるとき無理にでも引き戻してみるかと肩を掴んで引き寄せたら、びくりと跳ねた後に断罪を待つみたいに目を伏せた。殴るとでも思ったのかと腹が立って、逆に殴らせてやってもいいというつもりで触れるだけのキスをした。ばちんと開いた緑の目が鮮やかに戻ってきたのを見て、殴られる甲斐があると思った。
ゆらゆら揺れたあと、ほっとしたように伏せられた睫毛が思いのほか繊細に震えていて、ただ冷たい人形に息を吹き込むみたいに何度か子どもじみた口づけを重ねた。それからときどき、そういうことがあった。アイスが始めることもあれば、マヴが懐に潜り込むようにしてすくっていくこともあった。
色も情もなく、キスと呼ぶのもためらうほどただ形を確かめるだけのような、絶対に誰も来ない閉じられたドアの内側だけで起こる出来事だった。アイスが婚約した後、帰任したマヴは手が届く距離にさえ近寄らなくなった。揺らぐ瞳に少しでも手を伸ばそうとするとわずかに後ずさって、まぶしげに、困ったように少し笑ってみせた。自分には触れる資格がないものを見るみたいに。
"あの子"との断絶が起きたとき、死にかけの星のように暗く光る瞳がおそろしくて伸ばした手は、明確な動きで避けられた。乾いて色をなくした唇は、誰にも触れられることのない陶器の人形のようだった。
というようなことがあったのを、ルスに「ほんとに男としたことないの?キスのひとつも?」と聞かれて、「うーん……キス……ではなかったような……?うーん?」と思い返して首をひねるマヴと「なにそれあるって言われるより余計に気になるんだけど!?!?」ってなるルス