ふつうのバレンタイン 独歩はそれほど甘いものを好む体質ではないし、独歩が知る限り、銃兎もそうであった。コーヒーはブラック、カレーは辛口、ワインは白より赤。だから独歩は、自分が言い出したこととはいえ、どうしてこんな場所に来ることになったのかとても不思議に思っている。
「チョコといっても、色々あるんですねぇ」
銃兎は展示されたたくさんのチョコレートを見ながら、感心したように言った。ここはチョコレート展覧会の会場。世界中の珍しいチョコレートが集まる場所。
「これ見てください、ひとの顔を模したチョコですよ」
意外にも銃兎は、楽しそうにガラスケースの中にある精巧なチョコを観察していた。美術品が好きだと言っていたから、興味があるのだろうか。
2994