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    tomohiro_037

    @tomohiro_037

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    tomohiro_037

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    勢いの駄文でもちょっと載せやすい気がする、ポイピクの魔力。
    モブ(医者のイメージだった)と本誌の一般人女性の目線しかない。

    自虐でも何でもなく、天職だと思っていた。

    目を開ければ蝋燭が揺れている。俺の個性。人の残された時間がよく見える。

    「ここは危険です!」
    外で何人かの年端もいかないヒーローが叫んでいる。いや、きっとあれは学生だろう。
    「早く避難所へ!」
    冗談じゃない。
    助ける前に助かるかどうかが分かるんだ。こんなにも、消えそうな蝋燭をたくさん見る日々など想像したこともなかった。
    俺は所詮、ただの人間だった。蝋燭にしか見えていないと思っていたその炎が次々と消えて行く現場がフラッシュバックする。もう保たない、そう思ったことは人生で数え切れないほどある。だから動揺もなかった。はずだった。あるいは、慣れたと思っていただけで、どこかでそれは蓄積されていただけなのかもしれない。
    あの瞬間、無数の消えゆく炎の揺らぎが、なぎ倒されて行くビルが崩れゆくスピードに合わせて、俺の脳裏に焼き付いていった。

    「まだ、まだ間に合います!」
    ああ、叫ばないでくれ、ヒーロー。
    そいつの蝋燭は今にも消えるんだ。あと1時間も持たない。
    諦めないから、苦しいんだ。
    本人に、家族に希望を持たせないでやってくれ。裏切られた時の絶望が深くなるだろう。
    体は応急処置に奔走しながら、消える瞬間のその炎はいくつも俺の脳を焼いていった。


    ***


    「とても、ヒーローには見えないんだって」
    ユミちゃんは避難所で私にそう話を締めくくった。
    「面白いね、都市伝説?」
    「あ、本気にしてないでしょ! 本当なんだって、カスミだってここに来る途中、いろんな個性を使ってるところを見たって言ってたんだから」
    ごめん、疑ってるわけじゃないよ。
    そういって私は笑みを浮かべた。
    トトトトン。
    避難所の屋根は雨の音をよく反響する。
    脳裏に浮かぶ、傘を差し伸べてくれた小さなマスクの子。
    「化物め」
    そう私のことを呼んだ彼らはどうなったのだろう。
    私たちは、この国は、これからどうなってしまうのだろう。
    避難所に充満している空気は、まるでこの季節外れの長雨のように息苦しく、少しずつ体温を奪っていってしまう。


    ***


    「ここは危険です!」

    何回目の警告だったか。いつしかそこの声すらも幻聴のように、昨日がいつだったのか、今日があれから何日経ったのか、そんなことすら曖昧に、泥のような日がいくつか過ぎていった。

    「避難所へ向かいましょう!」

    腕を引かれて顔を上げる。は、と乾いた声が出た。

    「盗賊か? そんななりじゃヒーローになりすますのも流石に限界があるぜ」
    ガチャン、体を起こした拍子に酒瓶が音を立てて倒れる。
    「僕は何も盗みません。お願いします、大型の敵が近づいているんです」
    ボロボロのマスクに、血や泥で汚れて何色かもわからなくなった服。かわいそうに、こいつも俺と同じようにイカれちまってるのかもな。
    ドゴオオン、とほど遠くない場所で轟音。
    なるほど、イカれちまっててもこいつの言うこと自体はどうやら本当らしい。
    「……! 物陰に隠れていてください!」
    そう言うが早いか、そいつは飛び出していった。
    見るな。
    反射でそう思った。
    もう、たくさんだ。蝋燭が消えるのは見飽きた。
    あんな、ヒーローの妄想に取り憑かれた、ホームレスのガキの最期なんか。
    それでも、やたらと眩しい緑の閃光が否応なしに視界の端に入り込む。

    「まだ、まだ間に合います!」

    不意に体が宙に持ち上げられる。ぽつぽつと頬にあたる水滴がアルコールに溶けた脳みそを冷やして行く。
    ああ、ヒーローもどき。不思議だなあ。
    雨雲に覆われた空は星一つ映さない。
    ただ、その夜落ちた緑の雷は。
    あの時見た蝋燭の炎は、不思議なことに、いつまでたっても――。


    ***


    「ちょっと、はみ出てるよ!」
    隣のスペースから声をかけられて、慌てて振り返る。
    「すみません、今……」
    戻します。
    言いかけた言葉が引っかかりながらも、荷物を寄せる。
    「ただでさえ大きいんだから、気をつけてくれないとねえ」
    仕切りの向こうから聞こえる声が耳に入りながらも、その引っ掛かりが抜けず、私は少しの間固まってしまった。
    「もー、聞こえるように言うなんて最悪!」
    ユミちゃんが小声で耳打ちしてくれる。
    私は少し微笑んで頷いた。
    「……うん」
    あ、思い出した。
    そう思いながら、先ほどよりも気にならなくなった雨の音に耳を傾ける。
    彼は、まだ雨の中にいるのだろうか。
    荷物を引き戻しながら、濡れそぼった小さな姿を脳裏に思い浮かべる。
    この状況で、あんなことを言う人、初めて見た。
    誰かが、でもなく、いつか、でもなく。
    「そろそろ、私も戻るね」
    小声で耳打ちするユミちゃんに手を振って、支給の毛布を頭から被る。
    雨の中で、駆けつけてくれたあの子。
    濡れていてよく見えなかったけれど、緑色のコスチュームを着ていたあの子。

    もう一度会えたなら、お礼を言いたいのだけれど。

    トトトン。
    屋根を叩く雨の音を聞きながら、そう願って瞼を閉じた。
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