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    orangeOhayou

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    orangeOhayou

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    ベイビーとマンドーのお話。S1最終話後です。
    構造が多い……マンドーへの願望が詰まりすぎている感が否めない。

    #マンダロリアン
    mandalorian
    #グローグー
    glogoo.

    おやすみベイビー 寡黙なマンダロリアンが、星の海を渡る。視界は良好、敵機なし。穏やかな飛行だった。
     マンドーはふと、自分の体に目をやった。彼の誇りであるベスカーの鎧は薄汚れ、マントには血がしみ込んでいる。治療してもらったおかげで痛みなどはないが、喧噪から離れ一息つくと途端に気になり始めた。恐らくヘルメットの中も血まみれだろう。髪は血で固まってしまっているに違いない。
     船を自動操縦に切り替える。さっさと落としてしまおう。今の今まで忘れていたが、腹も減った。食糧は何が残っていたかと思考を巡らせながら、マンドーは操縦席を降りた。
    「あぅ」
     小さな喃語が聞こえた。赤ん坊だ。彼を乗せていたホバープラムは壊れてしまったから、どこか居心地が悪そうだった。もし船が攻撃でもくらったらとたんに椅子から転げ落ちてしまいそうだった。
    「仕方ない」
     マンドーは赤ん坊を抱きあげた。大きな目が嬉しそうに瞬く。ぎゅ、と縋りつかれれば、悪い気などしない。ぽんぽんと背中をたたいてやると、ますます嬉しそうに耳をぴくぴくと動かした。
     予備の毛布はあっただろうか。この子をくるんでいた青い毛布は、敵にさらわれた時、どこかへ行ってしまった。あれはマンドーが持っている中では一番柔らかな手触りのものだった。
    「お前も疲れたろう。飯を食べたら、今日はもう寝ろ」
    「んあぃ」
    「……眠くなさそうだな」
     寝かしつけるのには以前も苦労したが、今回は少し違うような気がした。マンドーは赤ん坊を抱えなおし、倉庫へ向かう。その間ずっと、赤ん坊はマンドーから離れたくないと言うかのように抱き着いていた。
    「具合が悪いのか? そういえば、あの念力も使っていたな……スープはどうだ、食べれそうか」
    「んん、あ!」
    「……どこか痛むのか?」
     マンドーは赤ん坊を木箱の上に座らせ、分厚い服を脱がせた。血らしきものはない。そのことに安心したが、すぐに別の異変に気が付いた。
    「ここ……どうした」
     緑色の肌、腹の辺りが、少しだけ変色している。人間と同じ仕組みかどうかはわからないとはいえ、普通ではない。十中八九殴られたのだろうとマンドーは考えた。
     マンドーは項垂れた。元気そうに歩いていたから、無事だと思っていた。それに、奴らが赤ん坊を傷つけることは無いだろうと勝手にタカをくくっていた。
    「痛むか?」
     軽く患部を押す。赤ん坊は「ぃ~」と顔をしかめたが、幸い、あまり重大なものではなさそうだ。軽い打ち身で、特に治療せずともそのうち治るだろう。けれど、赤ん坊の柔らかい肌にとっては大きな問題だった。なにより考えが至らなかったということがマンドーの心を締め付ける。この先しばらくはこの子を世話していかなければならないのに、これで良いのだろうか、と。
     寒がり始めた赤ん坊に服を着せなおす。抱っこをせがむので、マンドーは赤ん坊を片腕に抱えたまま食事の用意をした。食欲はあるようだった。スープをぐびぐびと飲み干して、おかわりまでした。マンドーは、本当はもう少ししっかりしたものを食べたかったが、赤ん坊が離れたがらないので諦めた。
     食事を終えても、赤ん坊は眠りたがらなかった。疲労はあっても、色々なことがあって興奮して眠れないのだろう。マンドーにもそれはよくわかった。
    「もう大丈夫だから、大人しく寝てくれ。ここには敵は居ない。俺だけだ」
    「ぷうぇ」
    「……一瞬だけ、離してくれないか? 体の汚れを落としたいんだ」
    「んーん」
    「頼む、お前が居るとヘルメットを取れない」
    「ぅぅるっ」
    「よし」
     赤ん坊を毛布にくるんで、そっと寝床に座らせる。ドアを閉めて、やっとマンドーは一息つくことが出来た。
     鎧を脱ぎながら考える。昔は自分も眠れない夜があった。まだマンダロリアンに拾われて間もない頃だった。恐ろしい出来事がたくさん、抱えきれないほどたくさん、少年を襲った。その記憶がいつまで経っても追いかけてきて、離してくれない。夜になると意思に反して精神は興奮していき、夜通し両目をぎらつかせて苦しみに耐えた。そんな時、自分はいったいどうやって乗り越えていただろうか。
     赤ん坊は自分とは違う。まだ分別もつかない小さな命。それでも怖かったことだろう。クイールが殺され、殴られ、IGが自爆して、色んなことがあった。肝の据わった子供だが、襲い掛かった負担を考えると計り知れない。
    「待たせたな」
     体も鎧もきれいになった頃には寝ているかもしれない、という淡い希望はあっけなく散り、寝床には毛布を投げ出して遊んでいる赤ん坊がいた。
    「眠れないか」
     ぱっちりと大きな瞳がマンドーを捉える。これを殴れる奴の気がしれないな、と思った。
    「仕方ない、俺も付き合ってやるか。夜更かしは今日だけだぞ」
     ごろんと寝転んで、赤ん坊ごと毛布にくるまった。昔、同じように夜通し付き合ってもらったことがある。その時は一つの毛布を共有したりなどせず、焚火を眺めながら昔のこと、これからのこと、楽しいことや嫌いなこと、色々な話をした。それだけで気持ちが落ち着いて、マンドーは気付くとぐっすり眠っていたのだ。
     その時のことを思い出し、赤ん坊が眠るまで、適当に何か話すのも良いと思った。
    「んえ、う」
    「お前はいったい何者なんだろうな」
    「んー?」
    「俺はお前の名前も知らない。どんな名前をつけてもらったんだ? 言えるか?」
    「うぉーうぅ!」
    「……わからん」
     鎧とくっついて眠るのは苦しかろうと赤ん坊との間に少し空間を設けていたが、そんなことは知らないとでもいうかのように赤ん坊はぎゅっと縋りついてくる。だがふと寝返りをうった時につぶしてしまいそうな気がして、マンドーは顔をしかめた。仕方なしに赤ん坊を抱え上げ、仰向けになって胸の上にのせた。これなら即座に踏みつぶすようなことにはなるまい。
    「お前、カエルを食べるのは良いとして、なんで丸のみなんだ。その歯は飾りか」
    「いー」
    「目を離した隙にどこかへ行くのは辞めろ。驚くだろう」
    「きゃふぅ」
    「返事だけは立派だな」
     ぽんぽんとあやすように背中を叩いてやる。 赤ん坊はマンドーの胸の上でぱたぱたと両手を動かしたり、毛布を口に入れようとしたりと忙しい。
    「落ち着け……今日は怖かったな。あの時は助けてくれてありがとう」
     意識が朦朧としていたが、赤ん坊があの不思議な力で炎を跳ね返すところを見た。あれがなければ全員丸焦げになっていただろう。
     お前はすごいよ、と言うと、赤ん坊は「あょ」とまたなんだかわからない声を出した。
    「今五十歳なら、いつ頃喋れるようになるんだろうな。俺が爺さんになるぐらいか」
     もし喋れたなら、この子はなんと呼んでくれるだろうか、とマンドーは想像する。
     やはりマンドーだろうか。ディンは…………。ああ、もしかすると――……。
    「――いや。お前が喋れるようになる前には、必ず仲間のところへ帰してやる」
     父親代わりは今だけだ。変に情を持てば、あとが辛い。
     赤ん坊はウォンプラットのような目でマンドーを見つめた。マンドーの低い声が落ち着くのか、少しずつ穏やかになってきた。
    「あぅ」
    「お前が眠れるようにハンモックを作ろうか。目の届く範囲に居た方が、俺も楽だ。ホバープラムもなくなったから次の星で買おう」
     柔らかい毛布も買って、お前用の食事も用意して。それから小さなスプーンと容器も。それで、それから――。
    「――眠ったか」
     穏やかな寝息が聞こえてくる。何か食べる夢でも見ているのか、もごもごと口を動かしている。食いしん坊め、とマンドーは笑った。くすくすと上下する胸の上で、赤ん坊は身をよじったが、起きなかった。
    「おやすみ」
     自分も眠ろうと思い目を閉じかけて、止める。小さな額を起こさないようにそっと指で撫でた。
     そして、結局マンドーは、しばらくの間その寝顔を眺めていたのだった。
     
     
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