ハニーマスタード銀杏畑と道路を隔てる石垣に二人で腰かけた。
空は薄青く澄みわたり、雲が棚引いている。
冷たい風が火照る頬を撫でていく。
気持ちいい。
俺の通う高校の最寄り駅から電車で二駅先で下りて、そこから徒歩でスマホの地図を頼りに目的地を目指した。
ところが近くまで着たのになかなか辿り着かない。
人気のない開けた山道で立ち止まり経路を調べ直す。
スマホの画面に視線を落としていたら、ふいに左手を掴まれた。
「そのうち着くだろ」
いくら山道だからって地元の人が通りがかるかもしれないのに、大胆な行動に動揺してしまう。
男二人が手を繋いで歩く意味。
だけど、人に見られる心配なんかより嬉しさや楽しさのほうがずっと大きくて。
ブルースと手を繋いで歩く。
それだけで世界の中心にいるような心地がする。
引かれる手を離さないように握り返した。
ずんずんと前を歩くブルースの後ろ姿を見つめていると、その足が止まった。
「綺麗だな…」
目に飛び込んできたのは、咲き誇るような黄色の葉。
分かれ道の上り坂に沿うように道路の両側に銀杏の木が植えてあった。
しかし嫌な匂いは全くしない。
実が落ちていないからだ。
街路樹の銀杏と違って
収穫された後の銀杏の木々は、
ただひたすらに綺麗だった。
「いこう」
振り返り微笑む姿と銀杏並木が一枚の絵のようで、俺はその景色を忘れないように瞼の裏に焼き付けた。
こんな遠くまで来て良かったと思った。
手を繋いだまま、一歩一歩を惜しむように、ゆっくりと坂を登った。
目当ての手作りハンバーガーの店は坂の上にあった。
山小屋を改装したような店でテイクアウトしたハンバーガーをもって坂を下る。
せっかくなので銀杏の木々を見ながら食べることにした。
「ここがいいな」
石垣に座るブルースの隣に俺も座った。
「お前は照り焼きだったな、ほら」
「ありがと」
年上のブルースの奢りだ。俺は照り焼きソース、ブルースはハニーマスタードチーズソースを選んだ。
包みを開けかぶりつく。香ばしいバンズに新鮮なレタス、熱々のハンバーグからは肉汁が溢れ、甘辛いソースとマヨネーズが絡み合う。
旨い。
歩いて腹が減っていたのもあって一瞬でなくなった。
ふと横を見ると、ブルースが口の端に黄色いソースを付けながら美味しそうにハンバーガーを頬張っている。
「ブルース、ちょっと…」
「ん?」
こちらを向いたブルースの口に付いてるソースを舐めとる。
「ハニーマスタードチーズもいけるな」
「…誰かに見られたらどうするんだよ」
「誰もいないから問題ない」
「まったく、お前は…」
先に手を繋いできたのはブルースのほうなのだから、俺だってこのくらい許されるはずだ。