アルコール摂取の効能と副作用「だから嫌いなんだ、人なんて」
ベッドの上でそう言い放って彼女はタバコを取り出した。
「りっつーお久しぶりー」
あれから数年、久々に会った彼女は俺の姿を見つけるやいなや顔をしかめてゲッという声を上げる。
「武将何でコイツまでいるんだふざけんな」
「俺だって連れて来たくて連れてきたわけじゃねーよ勝手について来たんだ察せよ」
彼女は俺の隣に立つ男に苦言を呈し、男もまたそれに苦々しい顔で返している。ここに来る前に偶然再会した男に無理矢理ついてきた甲斐はあった。元々目的地は同じだったのだから、こうして会わなくても目的地で会ってたんだけども。と言うか、俺が海を越えて遠い地であくせく働いてる間にこの二人はちょくちょく会って酒を飲んでたとかずるいよね。俺だって積もる話の一つや二つあるんだから。
「だってコイツと飲むとろくな事にならない」
「それはりっつーが結局俺について来ちゃうからでしょ」
「あー、コイツが邪魔しない限りは俺が連れて帰るから安心しとけ」
「前回それで安心して飲んだら結局ラブホのベッドで目を覚ました私の気持ちを5文字で答えろ!!」
隣の男の言葉にそう噛みつく彼女に彼は「まじねぇわ?」と恐る恐る答える。
「もげてくれ、だよねー」
「お前が! それを! 言うか!!」
普段テンションが低空飛行の彼女がここまで噛みつくのが楽しくておちょくるのだけれど、ここまで毛嫌いされると流石の俺もちょっと悲しくなってくる。
「路上でこんな話しないでさー、早くリンちゃんの店行こうよー」
二人にそう言ってやれば隣と正面から「お前が言うな」と声をそろえて言い放たれた。ホント君ら仲良いよね。
そしてリンちゃんの店に行ってもリンちゃんまで冷たい視線で迎えてくる。そして店の子に「これ、大学の同期のヤリチン。通称バニー竜童」と不名誉極まりないあだ名で紹介してくる。毎回の恒例行事だから店の子もわかっててヤリチンさんと呼ぶからたまったもんじゃない。
「酷いなー流石の俺もハートが傷だらけだよ?」
「言ってろ、別に気にしてもいないくせに」
ねぇ? と同意を求めたりっつーに一刀両断される。そんなこと無いけどなぁ、と首を傾げてみせれば「普通はここまでされたら二度と顔会わせないだろ」と逆隣のムネタダからそう突っ込まれる。
「海舟ー強い酒くれ、強い酒」
「アンタ結局飲むの?結果目に見えてるのに」
ウイスキーとかくれ、ロックで。と言いはじめるりっつーに返すリンちゃんは呆れ声。「どうせ明日は久々の休みだ。コイツの隣で素面とか無理」と出されたグラスを勢い良く呷るりっつーに「じゃぁ心おきなくお持ち帰りさせてもらおうかな」と告げれば「もう勝手にしろ」と諦めモード。
「ホント、りっつーって変わらないね」
思わず口からこぼれた言葉に彼女は鋭い視線で「何が」と返す。
「結局全部どうでも良くて、流されるままに生きてるの。イヤだとか、嫌いとか、口では言っててもそれすらも全部どうでも良いと思ってるところ」
人なんて嫌いだ、と口では言っていても、結局彼女は嫌いとすら思ってないのだ。他人に関心がない。
「人に関心がないから、俺みたいなのに好き勝手されても結局また流されて同じように好き勝手されるんだよ?」
そう言ってやれば、りっつー以外の二人から「流石に言い過ぎだ」と窘められる。近くに座ってた店の子からも、睨まれた。でも、俺が彼女の側に居て感じた感想は突き詰めればこれなのだ。そこが変わらなければ、きっとこの先も同じことを彼女はやるし、俺はこの先も彼女のそういうところに付け入って好き勝手に自分の欲望を晴らす。なんて言ったって、それが一番楽だから。
「……それなら、楽だったのにな」
ハッ、と自嘲気味に笑いながら小さく呟いた彼女の言葉が耳に入ったのは俺だけだったらしい。
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ウサキ氏による笹野分析はこんなところ。笹野の闇の深淵を覗くのが怖い今日この頃。
こいつ、意外とやばい爆弾抱えてそうでこわい。でもメンヘラにも欝にもならないと思う。