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    狭山くん

    @sunny_sayama

    腐海出身一次創作国雑食県現代日常郡死ネタ村カタルシス地区在住で年下攻の星に生まれたタイプの人間。だいたい何でも美味しく食べる文字書きです。

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    狭山くん

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    2020-01-04/鳴海さん周辺サルベーシその4

    ##笹野周辺

    テイクファイブは密やかに 珍しく父親と呑んでいたその日、二軒目として連れられて来たのは最早私も常連と言ってしまって問題ないだろう店で。
     ピークを過ぎた時間だからだろう、いくつか空きのあるカウンター席に腰を下ろせば私にとっては見知らぬ――けれど、父親にとっては見知った顔だったらしい男が驚いたように声を上げた。
    「笹野先輩じゃないですか、お久しぶりです」
     上等なスーツに身を包んで、どこか知り合いを彷彿とさせる胡散臭い笑みを浮かべる男は、父から私へと視線を揺らし――驚いたように固まった。
    「ユズルじゃないか。久しぶりだな」
     一軒目の店でそれなりに呑んで上機嫌であった父はそう言って笑い、私を見て固まっていたその男に「驚いてんなぁ」とカラカラ笑う。
    「息子さんですか? 先輩の若い頃にそっくりですね」
     多少ぎこちなそうに笑みを浮かべた彼の様子を気にする事もなく、父は笑いながら「娘だよ、お前も昔会ってるだろ?」なんて言葉を返して。私が兄さんと呼んでいる父の後輩でこの店の店主でもある鳴海さんは「そっか、逢坂さんはお嬢が小さい頃にしか会ってなかったですもんね」と父と私の前にコースターとボトル、それにグラスや水、氷といったお決まりのセットを置きながら父の隣に出来ていた空席に移動してきた逢坂さんに声を投げる。
    「え、葎花ちゃん? あの可愛かった?」
     驚きと戸惑いに溢れた彼の声に上機嫌に笑い続ける父は「全く可愛げ無くなっちまってな、男みたいな格好ばかりしてんだ」と口にして「これじゃぁ、孫を見る日も遠いな」なんて言葉を重ねる。
     そんな父の言葉に愛想笑いを浮かべて、言葉を探すように私に視線を向ける。兄さんも同様に。私は父の視線がこちらに向いていない事をいいことに、慣れているからと伝える為に肩を竦めて見せた。
    「可愛げなくて、悪かったね」
     思ってもない言葉を返しながら、勝手に父の入れたボトルから酒を作り呷る。父の分の酒を作っておくなんて可愛げも捨ててやった。
     そんな私の様子に「ほらな?」と肩を竦めて自分が飲む為の酒を作る父に「可愛げないと言われて作ってやる酒はありませーん」と戯けて言葉を返す。
    「葎花、そういうところだぞ」
    「可愛げなくても生きては行けるんで」
     小言のように言葉を返す父へ、さらりと返した私は「てか、私は明日休みだけど父さん明日ゴルフ行くとか言ってなかった? 後で母さんに小言言われんの私なんだけど」と父を追い出すような言葉を口にする。
     両親の事を嫌いではないが、面倒くさい。それが私の本意で。この酒の席も定期的に顔を合わせなければ面倒な父への接待みたいなものなのだ。基本的に放任放牧な癖に、たまにこうなるからタチが悪い。
     そして、私の機嫌が悪くなった事に漸く気付いたらしい父は多目に料金を支払って店から出ていった。恐らく、今入れているボトルが私によって空にされる事を予測したのだろう。

    「お嬢は帰らなくていいんですか?」
     父を見送った兄さんにそう訊ねられれば「明日休みだし、このボトルを空にしてやるっていう使命があるからね」と笑って見せる。「またそうやって地味な嫌がらせを……」なんて呆れたように溢す兄さんに「親父だって分かっててその金額置いてってんじゃん」と返しながら、はたと気付く。
    「あぁでも、逢坂さんはすみません。久々に親父に会って積もる話もあったろうに」
     ふた席程度の距離ではあったが、席を移動したのはそういうつもりだったのだろうと父の居なくなったひと席飛ばした先にいる逢坂さんへ礼儀として一応頭を下げる。
    「先輩に逢えるとは思ってなかったんで、大丈夫ですよ」
     今度は胡散臭さもぎこちなさもない柔らかな笑みを浮かべて彼は言葉を返す。「それにしても、本当に格好よくなったねぇ。まるで先輩の若い頃みたいだ」その視線に篭ったものに、どこか既視感を覚える。「覚えてる? 葎花ちゃんが小さい頃に何度か会ってるんだけど」重ねられた彼の言葉に「流石に覚えてないですよ、すみません」と返しながら、彼の瞳を見つめ返す。
     ――そうか、この人は。
     気付いてしまった彼の思いを見なかった振りをして、私は口元だけで笑みを浮かべる。普段の父がする笑い方とよく似たそれに、彼は懐かしそうに瞳を細めた。
    「折角だから、俺に奢らせてくれる? 何が飲みたい?」
     あくまで知人の娘だからという体で、酒を奢ると口にする彼に「大体のもの飲めますよ、逢坂さんのお勧めで」と返せば、彼は兄さんに一つのオーダーを口にする。
    「わぁ、酔わされる」
     オーダーを聞いた私が軽い調子で肩を竦めて見せれば「――それ、わかってやってる?」と逢坂さんはくすくすと小さな笑い声を零すのだ。
    「わかってる、ってのはどの辺りですか?」
    「少し意地の悪い所も先輩そっくりだね」
     首を傾げて彼へ問えば、彼は笑いながらそう返し肩を竦める。「分かってるとは思いますけど、私は股間に竿ぶら下げてませんよ?」あくまでも冗談のような声色で、私は逢坂さんへと言葉を返す。
    「分かってるよ――大事なのは、葎花ちゃんが先輩によく似てるって事だから」
     私たちの会話を耳にしながらシェイカーを振っていた兄さんは「ちょっと、ウチはそういう店じゃないんですけど?」と口を挟みながら私の前にギムレットが満たされたカクテルグラスを置く。
     少し黄色味がかった透明なそれに満たされたグラスの細い足を指先で持ち上げた私は、強いアルコールを飲み下す。ライムとジンの苦味が混じり合って舌に残る。喉は度数の強いアルコールで焼けるように熱くなった。
    「――親父には内密で」
     兄さんにそう告げて笑った私に、兄さんは呆れたようにため息を一つ。「よろしくな」と私の言葉を繋ぐように、逢坂さんは笑う。
    「まぁ、ここはひとつ、親父被害者の会という事で」
     タバコを咥えて火を付けた私は、煙を吐き出しながら逢坂さんへ父が残したボトルを勧める。「被害者の会って」呆れたように言葉を溢す兄さんに、「被害者でしょう、兄さんも、逢坂さんも」と私は笑った。
     私に全てバレてしまっているのだろうと観念したのか、兄さんはグラスを二つ取り出して、ボトルに残されたアルコールを使って手早く水割りを二杯作っていく。ひとつは逢坂さんへ、そしてもう一つは兄さん自身に。
    「そもそも、父親への道ならぬ恋に気付く娘ってどういう感じなの?」
     水割りが入ったグラスを手に、興味深そうに逢坂さんは私に問いかける。私の持つ感情は、多分世間一般とはかけ離れているだろう。そう断りを入れながら「お気の毒に、って感じですかね」と肩を竦めて見せる。
     父は良くも悪くも他人にあまり関心を持たない。何故母と結婚したのかも未だに良くわからないが、夫婦仲は悪くないので放っておいている。世間的に、同性が恋愛対象である人間がいる事は分かっていても、それが自分に向けられている事などあり得ないと信じ切っているのだ。
     私の言葉に「あぁ、」と二人の男は頷く。
    「あの人の中で、男が好きになるのは女だもんなぁ」
     笑いながら肩を竦める逢坂さんに、アルコールが入って口が軽くなっていた私は「そうそう、しかもちゃんと恋人一人だけって感じのタイプ。娘が不特定多数の男女と不純交遊してるなんて思っても見ないでしょうね」なんて口を滑らせる。
     今までのやり取りで、きっと隣に座る男は私のそういった所を分かっていただろうし。まぁいいかとも思ったのだ。
    「――へぇ、そういう事言っちゃうんだ?」
     笑みを浮かべたままに言葉を紡ぐ逢坂さんは、熱を帯びた視線を私へと向ける。何度も向けられた事のある視線の熱に、私は笑う。
    「まぁ、逢坂さんと兄さんなら親父には伝えないでしょう?」
     彼の切れ長な瞳には欲の色が混じっていた。「じゃぁ、俺が葎花ちゃんを誘っても良いって事だ」知った男に良く似た胡散臭い笑みを浮かべた彼に、もう一度「親父には内密で」と返した私は、わざとらしくため息を吐き出した兄さんを横目にグラスに残っていた水割を飲み干した。
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