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    狭山くん

    @sunny_sayama

    腐海出身一次創作国雑食県現代日常郡死ネタ村カタルシス地区在住で年下攻の星に生まれたタイプの人間。だいたい何でも美味しく食べる文字書きです。

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    狭山くん

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    2017-07-05/鳴海さん周辺サルベーシその3

    ##笹野周辺

    ビー・マイ・ラヴに対する考察 あの日、兄さん――鳴海馨さんは、フジのリクエストに応える事はなく、フジもそれを承知の上でリクエストをしているようであった。そうして思い出されるのは、高校時代からの腐れ縁である九里が以前話していた大学時代の友人の話だった。
     
    「あのさぁ」
     あの出来事から数週間後、私は九里と街中の居酒屋で酒を飲んでいた。偶然同じ映画を見ていた九里が目敏く私を見つけ、そのまま酒場へと流れていったのだ。
     最初は見ていた映画の話から、次はどの映画を行くか、なんて話に飛び火して、他愛もない世間話を交えお互いに喋りたいことを喋り続けていた中で、ふとそれを思い出した私は何の気もなく話を変えるために九里に言葉を投げる。
    「ん?」
     酒には強い方である九里も強いアルコールをいいだけ流し込んだからか、普段よりも少しだけ柔らかな声色で首を傾げる。そんな九里に「ずいぶん前に話してたアレって、誰の話だったんだ?」と問いかけるのだ。
    「アレって……どれ?」
     全く分からない、とでも言うように彼は再度首を傾げて私も言葉の選択を誤った事に気づく。「ええーと、気になる人が居るジャズバーでその想いを伝えるなら何の曲をセレクトすればいいか、だったっけ。九里の大学の友達から相談受けたとか言ってたやつ」そこまで話せば九里も合点がいったように「あぁ、あれかぁ」と返すのだ。
     それは以前、九里が友人から相談を受けたと私に相談を持ってきたもので。思いを伝える為に使うスタンダードジャズであれば何がいいか。というお題だったはずだ。九里は大学のジャズ研でボーカルをやっていたが、好んで歌っていたのは失恋の曲であったし、スタンダードの名曲なんてほぼほぼ恋を歌う歌である癖に失恋の曲の割合が多いようにも感じる程、歌われる曲が終わった恋を歌っているのだ。
     そのお題の中で私がこれでどうだ、と選んだのがビー・マイ・ラヴだった。九里には「ど真ん中どストレートって感じ」と笑われたが、それ位が一番解りやすいと私は思う。そう、あの日のフジの選曲は兄さんへの告白なのではないか、と思ってしまったのだ。勿論それは邪推ではあるけれど、私だって野次馬根性は持ち合わせている。
     そして元々話を持ってきた九里と会ったのだ。それは聞くしか無いだろう。
    「多分笹野は知らないと思うよ? 大学はジャズ研じゃなくて軽音やってたヤツだし」
     あぁでも笹野無駄に顔広いから知ってるかもなぁと勿体ぶる九里に「で、誰なんだよ」と重ねて聞けば「ユーイチ。藤田雄一」との回答だった。
    「あぁーやっぱりぃー」
     嵌るであろうパズルのピースが予定調和的に嵌り、私は思わず目の前のテーブルへと突っ伏す。フジと九里は大学が同じだった筈だし、さらに言えば私と同期で同い年だ。世界って狭い。
     心の声はそのまま口から漏れ出ていたらしく「ユーイチと知り合いなの? こわっ」なんて言葉が投げかけられるのだ。
    「同じ会社の同期。部署は別だけどな」
     そう告げれば九里も「あぁー」と頷く。そして「別の知り合いのライブ行ったらフジのバンドも出てた」と重ねれば「こわっ」と返されるのだ。
     
    「で、何で何年も前の話を出してきたの?」
     グラスの中のカンパリソーダを流し込みながら、九里は更に問いを重ねる。そして私は先日の話を九里に話す。
    「成程ねぇ、っていうかユーイチの想い人が笹野の父親の後輩だったってのがまた怖い。世間の狭さが怖い」
     率直な感想に私は頷きながらグラスの中のジンライムを流し込む。
    「しっかし、父親位の年齢の男に惚れこんだっていうのはまた……」
     茨しかない道だな、と自身もゲイだったかバイだったかと言っていた気のする九里は煙草に火を付けながら彼の恋路をそう評する。「相手はノンケなんだろ?」と重ねながら。
     
    「兄さんはなぁ、ノンケかと言われるとちょっとわからないんだよな」
     私の言葉に九里は首を傾げる「本人に訊く必要もなかったから訊いてないけど、多種多様な性志向を見てきたから?」と笑って見せれば「なるほどねぇ」と九里も笑う。
    「あとは二十年以上兄さんを見てきた私の勘」
    「笹野の勘は怖いからなぁ」
     九里はそう笑って、私のグラスの縁に彼の持つグラスの縁をカチンと当てる。
    「ユーイチの恋路に幸あらんことを」
     九里のその言葉に、私は「兄さんのサックスがビー・マイ・ラヴを鳴らすことを祈って」と返し、彼のグラスに私のグラスの縁をカチリと当てるのだ。
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