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    狭山くん

    @sunny_sayama

    腐海出身一次創作国雑食県現代日常郡死ネタ村カタルシス地区在住で年下攻の星に生まれたタイプの人間。だいたい何でも美味しく食べる文字書きです。

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    狭山くん

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    2022-08-31/空閑汐♂デイリー8月分これにて完結!今後はまた気が向いたら遊ぶかもって感じでよろしくお願いします。それはそうと再会すけべはそのうち書く。

    ##空閑汐BL
    ##静かな海
    ##デイリー
    #BL

    空閑汐♂デイリー【Memories】31 目の前に居たのは帽子を目深に被るひょろりとした長身の男だった。それでも汐見よりは背が低く、捻りあげるのは簡単で。汐見はその男の腕を捻りあげ、壁へと押し付ける。男が被っていた帽子が床へと落ち、汐見の後ろに立っていたシェルツが小さく声を上げた。
    「お嬢、知り合いか」
     思わず低く出た声に、自身の苛立ちを自覚する。気を取り直すように幾度か咳払いを漏らした汐見は「お嬢?」と今度は意識して柔らかい声を作った。空閑の真似みたいな声に、小さな息を吐いたシェルツは小さな声で言葉を返す。
    「あの、私が担当した患者さんです……この間退院した……」
    「そうか。因みにこの男と知人友人恋人もしくはそれに類する関係になってたか?」
    「えっ?」
    「ないんだな」
     ぎちりと腕を掴む力が強まる。壁に押し付けられた男は呻き声を上げていた。
    「お嬢はキミの事をただの退院した患者だと思ってる、しかしキミはお嬢の家の前に居た。ただの患者が医者の家で待ち伏せなんてするか?」
     普段よりも解散の時間が遅くなったというだけの理由でシェルツを送り届けると申し出たのは汐見だったが、功を奏したらしい。獰猛な肉食獣に追い詰められた草食動物のように怯える男の耳元で、汐見は地を這うような低い声で囁いた。
    「ストーカーだろ、お前」
     図星だったのかびくりと震えた男の肩に片眉を上げた汐見は、男を押さえつけている右手はそのままに左手でポケットから自身の端末を取り出し操作する。視線を落とさずとも指が覚えている短縮ダイヤルで発信した先は、空閑の携帯だ。
    『珍しいね電話って、どうしたの?』
    「仕事中にすまんな、緊急事態だ。知人友人恋人もしくはそれに類さないただの退院済の担当患者がお嬢の家の前でお嬢を待ち伏せしてたんだが、これは逮捕出来るやつか?」
    『待って待って、情報量が多い。今ハンナちゃんと一緒なの?』
    「遅くなったから家まで送ったらそこに居た」
    『アマネ相変わらず過保護だね、でもファインプレーじゃん。厳重注意位は出来るからすぐ行くよ』
    「頼んだ」
     通話を終えれば男は喚く。曰く何もしていないだの、お前が彼女の彼氏だとでも言うのかだの。あまりの煩さに思わず殴り付けようとしたが、これから警察が来るのに暴力沙汰はよろしくないかと息を吐くだけで済ます。それにしても見当外れな事しか言わない男は煩くて仕方がない。
    「……なぁお嬢、肩くらいならちょっと外しても……すぐ戻せるし」
    「駄目ですよ!?」
    「だよなぁ」
     二度目のため息を零し、汐見が右手にかける力を少しだけ強めてやれば男は再び呻き声を上げ、シェルツからは叱るような「アマネさん!」という声が飛ぶ。そんなやり取りをしていれば、床を駆ける足音が汐見の耳へと届いたのだ。
    「アマネ!」
    「早かったな」
    「そりゃ同じエリアだからね。あ、そいつがハンナちゃんに付き纏ってるって不届き者? 連れてくね」
    「頼む」
    「ヒロミさんすみません、仕事中なのに……」
    「全然だよ、ていうかこれが仕事だしねぇ」
     軌道警察局のロゴが印字されたブルゾンを羽織ってやって来たのは空閑で、汐見が壁に押さえつけていた男の腕をぐいと掴む。
     空閑の手が腕を握った瞬間、男が再び呻くのを見て汐見は口元にだけ小さな弧を描いた。汐見がそうであるように、彼も自身が可愛がっている女の子に少しでも恐怖を与える存在を許しはしない。
     シェルツを安心させるように、いつもの柔らかな笑みを浮かべて片手をひらりと振る空閑は「今日はうちに泊まっていきなよ、捕まえたからと言ってこんなのに待ち伏せされて一人って嫌でしょ? 部屋は空いてるし!」と彼女へ言葉を重ねて。汐見への目配せに同じ事を考えていたと頷いてやる。
    「えっ、でも……」
    「ヒロミが言わなきゃ俺が言ってたし、いきなり殆ど知らん男が居るとか怖かったろ。寧ろ俺らを安心させると思って泊まって貰えたら嬉しい」
    「それじゃぁ……お世話になります……」
     少し震えた声で頭を下げたシェルツに、汐見は小さい子供にするようにその柔らかな金糸を撫でる。相手は医師として立派に働いている女性だとは解っているが、汐見からしてみればどうしても学生時代に出会った小さな女の子のままに見えてしまうのだ。
    「じゃぁ俺はこの不届き者連れてって、それ終わったら上がりだし先帰るかどっかで待っててよ」
    「おう、決まったら連絡する」
     汐見に笑顔のまま頷いた空閑は、腕を掴む男へ厳しい視線を落としその腕を引いて去っていく。
    「俺の旦那、格好良いだろ」
     小さく震えたままのシェルツに冗談混じりの声色で笑ってみせれば、彼女も小さく笑い声を零してくれる。
    「アマネさんもヒロミさんも二人とも格好良いです」
     ありがとうございました。と重ねられた言葉に「なんも」と首を横に振った汐見は「どうする? 先帰ってるか、俺と家に二人で居るの怖いとかならどっか店入ってヒロミを待ってから帰るけど」とシェルツへ訊ねる。
     その言葉に不思議そうに首を傾げたシェルツに「一応俺も男だからなぁ」と肩を竦めた汐見に彼女は再び笑い声を上げていた。キャラキャラと小さい子供のように笑うシェルツは「そんな事言ったら私、二人の男性が暮らす家に一泊するって話になっちゃいますよ」と笑みを含んだ声で返して。
    「私にとって、アマネさんもヒロミさんも王子様でヒーローでお兄ちゃんみたいなものですよ? 男だからって怖いなんて思いませんよ」
    「そりゃ光栄。まぁ、下心のない番犬が二匹居るとでも思ってくれ。何ならそのまま住んでくれても良いしな、またこんな事があっても嫌だし」
     ノースエリアにある自宅に向かうべく地上に向かうエスカレーターへ足を向けながらそんな言葉を紡いだ汐見に、シェルツは笑う。大切で可愛い宝物みたいな――けれど決して恋の対象にはならない女の子の肩を軽く抱いた汐見は、彼女を無事に家へと届ける為にゆっくりと足を進めるのだ。
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