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    さっかん

    落書きだらけ
    昔のも今のも適当に突っ込んでます

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    さっかん

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    昔々書いた一織。色んな意味で初々しい…。

    #一織
    oneWeaving
    #BLEACH
    #ホノボノ
    bonbon

    「お」
    「あ」

    昼休み。喉が乾き、何か飲もうと行った自販機の前でバッタリと井上に会った。

    「井上もジュース買いに?」
    「うんっ」

    いつもの笑顔で頷く井上。

    「お先にどーぞ、黒崎くん」
    「わりぃな」

    チャリチャリと小銭を入れる。何、飲むかな。
    自販機の中に並んでいる商品の見本を眺める。
    ……何だよ、ほとんど売り切れじゃねーか。

    しょうがねぇな、と一つだけ売り切れの表示が点いてなかったオレンジジュースのボタンを押した。
    ゴトン、と取り出したジュースのパックに、ストローを挿し一口飲んだところで気付く。
    井上が自販機の前で小銭入れの中を穴が空くほど覗き込んだ姿のまま固まっていた。
    まさか、とは思うが一応聞いてみる。

    「もしかして、財布に金入れてくるの忘れたとか……?」

    しばしの沈黙の後、悲しそうな顔でコクンと頷く井上。
    なんてベタな……。
    でもかえってそれが井上らしいような……って思っちゃあ悪いか。

    「えーと。……奢ってやろうか?」
    「ええっ」

    何気なしに言った言葉に、井上は過剰な位に反応した。 
    大きな目を更に丸くして、こちらを見る井上。
    そんなに驚くような事かな……。

    「そそそんな、黒崎くんに奢ってもらう訳にはいかないよっ……」

    慌てて、首を左右にブルブルと振る。

    「別に構わねぇって。たった百円だぜ?」

    敢えて軽く言うと、少し考えたらしい井上の表情が少し緩む。

    「……じゃあ、明日ちゃんとお金返すから。借りるってことでもいいかな?」

    かくん、と小首をかしげる。

    「井上がそうしたいんならそれでも構わないけど」

    律儀な奴だなあと苦笑しつつ、財布から小銭を出し自販機に入れる。
    が、間髪入れず、チャリンチャリンと下のつり銭口からお金の落ちる音がした。
    よく見ると、全てのボタンに売切の表示が点灯している。

    「……わりぃ、俺のが最後だったみたいだわ」
    「う……。し、仕方無いよね、うん」

    困った顔をしながらも、井上は自分を納得させるように何度も頷く。
    そんなに飲みたかったのか?そういや、さっき「今日はキムチいりパンなの~」とか遠くの席から聞こえていたような。そりゃあ喉も渇くわな。
    一度期待を持たせておいてやっぱりダメだった。なんてさすがに可哀相だ。
    自分の手に持ったパックに目を落とす。 

    「……井上、飲みかけで悪いけど。俺のやるよ」

    手にしてたオレンジジュースのパックを井上の前に差し出した。

    「え……」

    井上は、瞬く間に顔を紅潮させながら、

    「そそそんない、いいっすよ
    借りたお金で買うんならまだしも、黒崎くんのジュースを貰っちゃうなんて大それたコト……」

    またもや、ブルンブルンという音が聞こえそうな勢いで左右に顔を振る。

    「別に気にすんなよ?少し飲んだら気が済んだし」
    「…そ、そうじゃなくって……」

    と言い淀み、なかなか受け取ろうとしない井上。
    なんだ、また遠慮してんのか?
    なら、

    「じゃ、半分だけ飲めよ」

    と、半ば強引に井上へ押し付ける。

    「え?……えっと、えっと。そ、それじゃあ……。
    ありがと……」

    何やら心の中で色々葛藤があったらしいが、ようやく受け取ってくれた。
    これでよし。
    なんだか妙な達成感を得てしまった。

    「じゃあ…半分だけ、いただきます」

    しばらくじっと手の中のパックを見つめていたと思うと、顔を赤く染めたままギュッと目を瞑り飲み始める。

    「?」

    変わった飲み方するやつだなぁ…。
    と思っている内に飲み終わったらしい。

    「ぷはっ」

    肩で大きく息をしている。
    一息で飲んだんかい。

    「……はい、黒崎くん」

    おずおずとした様子で俺に手渡す。
    ……俺の手のひらにそっと乗せたパックを通して、何故か少しばかり井上の手が震えているのが判った。

    「とってもおいしかったよ。……ありがとう」

    頬を染め、柔らかい微笑みを俺に向ける。
    ……かっ、かわい……
    って、何考えてんだ俺!
    頭の中にいきなり浮かんだ言葉に戸惑う。

    「お、おう」

    心の中の動揺を悟られないよう何気ない風を装いながらパックを受け取り、残っている分を飲む。

    「わ」
    「?」

    ……何、また真っ赤になってんだ?井上。
    もう一口飲もうとした時にハタと、気付く。
    さっき井上がこれを飲んだって事は…、

    間接キ…

    そこまで思い到った瞬間、一気に頭のテッペンまで熱くなった。 
    たつきと井上が一緒にいる姿をよく見ているもんだから、ついたつきと同じ扱いしちまったけど……。

    ……井上ってやっぱり「女の子」なんだよなあ。

    そして思い出す。
    奢ってやると言った時の、目を丸くしながら驚いた表情。俺の目の前でジュースを飲む時には結構勇気がいったのだろう、緊張した面持ちだった。パックを返す時のはにかんだような柔らかい笑み。
    井上の表情や仕草を思い出し、さっきまでの自分の行動が恥ずかしくなってきた。
    フツーはそんなにも親しくないヤツから飲みかけのジュースなんか渡されても困るよな……。
    そうとは気付かずに嫌な思いをさせちまったか。
    そう思い、井上に謝罪しようと声を掛ける。

    「わり…」
    「ごめんね!黒崎くん」

    ……はい?

    「あたし、もしかして飲み過ぎちゃってた」

    泣きそうな顔して、ペコペコと頭を下げる井上。
    ……どうも、無言でパックを凝視している俺を見て、怒っていると勘違いしたらしい。さすがにそこまで心狭くないぞ。俺。
    ちょっと可笑しくなって、吹き出してしまう。

    「…ぷっ」
    「く、黒崎くん…?」
    「違うって。全然。謝まんなくていいし。」
    「ふぇ?」 

    井上が相手だと何故かいつもの自分のペースが上手くつかめなくなる。
    でも不思議な事にそれは嫌な気持ちじゃないんだ。
    寧ろ、もっとその気持ちを味わってみたくなる。
    そんな自分の気持ちを知りたくて、もう少し井上に近づいてみたい。と思った。

    その時。

    「いっちぐぉ!捜したぜっ!サッカーしようぜサッカー!」
    「ぐぇっ」

    背後からいきなり首に腕を回され、変な声が出る。

    「ケ、ケイゴ…てめ…」
    「あ、井上さん?どしたの?……まさか一護にキョーカツされてたとか?それは許せーん!」

    俺を無視して、一人勝手に合点したケイゴに首根っこをつかまれ無理矢理引きずられていく。

    「お、おい!ちょっ……」

    くっ。やけに強引で逆らえねぇ。

    「俺が成敗してやる!井上さん俺にまかせとけ!」
    「え、え、え?」

    とっさのことで言葉が出ないらしい、井上。

    「井上っ」

    どんどん離れて行く俺達を、ボー然と見送っている井上に声をかける。

    「は、はい?」
    「今度はホントにジュース、奢ってやるよ」
    「う、うん!」

    ケイゴに引っ張られつつ、廊下の角を曲がる瞬間。

    とても、とても嬉しそうに笑って手を振る井上の姿が目に焼き付いた。

    (終)
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