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    kurasekan

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    kurasekan

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    宇善宇小スカ。結構大きくなるまでおねしょが治らなかった善と、物心ついてから初めておねしょしてしまう宇

    明日は、きっと。 ドライヤー片手に、濡れた布団と対峙する。宇髄さんが起きてくる前に、素早くことを済ませなきゃならない。やれるのか、否、やるんだよ我妻善逸。この方法であのじいちゃんだって誤魔化せたじゃないか、2回ぐらい。
     ドライヤーを世界地図に向け、スイッチを入れたら、温風が吹きつける音が響く。この歳になっておねしょなんて、我ながら情けない。もう……数年してなかったのに。
     ところでドライヤーの音っていうのはこんなにうるさいものだっただろうか。さっきから耳元でガーガーゴーゴーと喧しい。ふと顔を上げれば、四方を巨大なドライヤーに囲まれていて。



    ──そこで、目が覚めた。



     「夢……じゃあ、布団はっ!?」
     ガバリと起き上がって片手を布団に突っ込む。濡れてない。良かった夢だった!
     ……まあ、二十歳過ぎて起きてすぐおねしょの心配するのも、情けないっちゃ情けないけどさ。
     ただ、布団とは別に、夢と同じものがまだ残っている。……ドライヤーの音だ。
     今起きたばかりの俺は当然ドライヤーなんか使っていない。おまけにこの音は部屋の外から聞こえる、ってことは。
    「うずいさん……?」
     もしかして、この間言ってた展覧会に出す絵。それの絵の具か何かを乾かすためにドライヤー使ってるんだろうか。だとすれば大変だ。枕元のデジタル時計は2:15を示している。今日だって学校があって、宇髄さんは7時には家を出なきゃなんないのに、こんな時間まで絵を描いてたってことだろうから。
     様子、見に行った方が、いいよな。
     暗い部屋の中起き上がってベッドを降り、スリッパを足で手繰り寄せて履く。それからこの時間帯にふさわしい静かな足取りで、宇髄さんのアトリエ兼寝室へ。
     念のため軽くドアをノックすると、「え、善起きてたの、あ、ちょっと待ってろ!」と少し慌てたような返事が返ってきた。珍しいこともあるもんだな。作品と向かい合ってる宇髄さんは普段の耳の良さをどっかに置いてきちゃうみたいに周りの音が聞こえなくなるのが常なのに。
     ドタバタという忙しない音がドアの向こうで行ったり来たりして、宇髄さんが出てきたのは結局それから1分ほど後だった。
    「悪ぃ、えーと、立て込んでて、作品が、な」
     自分の胴体がギリギリ挟まるぐらいにドアを開け、ノブには手をかけたまま。何かを誤魔化すように笑う宇髄さんからは、妙に焦った音がする。
    「熱心なアンタは俺も好きですけど……7時には家出なきゃでしょ?ほどほどにして仮眠取らなきゃ体壊すよ。絵の具なんてほっといても乾くんだし、ドライヤーはやめてもう寝たら?」
    「ああ、うん、そうする、そうしようと思ってたとこで……」
     歯切れの悪い宇髄さんの、服装に目が留まる。赤い錦鯉の柄が入った、ド派手だけど薄手のパジャマ。
     おかしい。
     だって宇髄さん、風呂から上がった時は俺が去年のクリスマスに買ったもこもこのパジャマを着てたんだ。最近そこそこ冷えるってのに、わざわざもこもこパジャマを脱いで薄手のパジャマに着替える意味がわからない。
     ……いや、ひとつだけ、思い当たる節がある。ドライヤーの音。不自然な薄手のパジャマ。焦る宇髄さんが通せんぼするように部屋の入口を塞ぐ理由。
    「ねえ、宇髄さん」
    「何だよ、善逸も寝たほうがいいぞ。起こしちまって悪かったな」
    「宇髄さんさ……おねしょ、しちゃったんでしょ?」
     ……これ、もし違ったら殴られたって文句言えないよね。言ってから気づいたけどさ。
     でも宇髄さんは殴ってなんかこなかった。代わりに顔を耳まで真っ赤に染めて、地味に俯いちゃった。
    「俺、後始末の仕方知ってるから、部屋入るけどいい?」
     返事は、小さな頷きで返ってきた。



     成人男性のおねしょというのを初めて見る。大きな世界地図だ。俺もさすがにこんなに大きいおねしょはしたことないけど、まあ基本的な片付け方は同じで大丈夫だろう。
    「宇髄さん、その錦鯉寒いから、上に何か羽織っといたほうがいいよ」
     部屋の隅で立ち尽くす宇髄さんに声をかけながら、新聞紙で布団の水分を取り除く。1日分の新聞紙がおしっこを吸ってあっという間に重たくなった。パジャマとパンツ、シーツは今、洗濯機の中だ。乾燥機もついてるタイプで助かった。
    「さ、ちょっと狭いけど、俺んとこで一緒に寝よ?」
     一通りの後始末が終わっても何も羽織ってない宇髄さんの肩に、奇跡的におねしょの被害を免れた毛布を掛ける。宇髄さんの頬は涙で濡れ、両目も未だ潤んでいた。
    「……ごめんね、ズカズカ入り込んじゃって。見られたくなかったよね。でも、こういうのって時間がたつと処理が厄介だから。……俺、なかなか治んなかったから、詳しんだよね」
    「……ぜん、」
     喉から搾り出すような宇髄さんの声。泣いているのに、無理に喋ろうとするから。
    「ごめん……ありがと……」
    「んーん。宇髄さん最近ちゃんと寝れてないでしょ?ストレスでおねしょすることってあるらしいよ」
     手を引いて俺の部屋に連れて行き、宇髄さんのより一回り小さいベッドに二人で横になる。不安げな宇髄さんの表情を見て、ふと、小さい頃じいちゃんにしてもらったことを思い出した。
    「そうだ、おまじないしよう」
    「おまじない……?」
     布団の中、向かい合った宇髄さんの右手を、両手で包み込む。
    「もう……しないように、ってこと?」
    「んーん、宇髄さんがぐっすり眠れるようにおまじないするの。布団なんかいくらでも濡らして大丈夫だよ。俺はそれより、宇髄さんが寝不足なのが辛い」
     宇髄さんの大きな右手をそっと撫でる。戸惑った音は次第に小さくなり、安心している音に変わっていった。すーすーと規則正しい寝息も聞こえる。こんなにすぐ寝付くなんて、相当疲れていたんだろうな。
     明日はきっと、宇髄さんが笑えますように。疲れたら適度に休憩をとって、無茶しませんように。祈りを込めて、手の甲をもうひと撫でした。
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