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    kurasekan

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    kurasekan

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    #弟宇ワンドロワンライ
    お題「幽l霊」(メイン)、「花l火」「炭l酸」(それぞれワンフレーズのみ)
    転生軸セフレ弟宇。※排尿描写あります

     派手なネイルを見せびらかすかのように、一回り大きな手がスマホの画面を覆う。
    「邪魔」
    「さっきから何見てんの」
    「カエルが喧嘩する動画」
    「それよりさあ、」
     ソファの背もたれを、ジャングルジムで遊ぶ小学生みたいに乗り越えて、兄さんは俺のすぐ隣にどっかりと腰を下ろした。愛くるしい両生類たちを「それよりさあ」とはどういう了見だ。
    「……黒小僧って覚えてる?」
     兄さんの問いかけに、俺は少し間を置いてから、小さく頷いた。
     黒小僧──黒い着物の少年とか、黒づくめの男の子とか、その辺は色々な呼び名があったけど。俺たちが通ってた小学校で、一時期流行った怪談だ。雨の中一人で歩いてると現れて、「どうして僕を置いてったの」「一人にしないで」と泣き叫びながら襲いかかってくる、という、まあ誰でも考えつくようなチャチな話だった。
    「黒小僧がどうしたの」
    「……いや、この雨だろ?ちょっと思い出してな」
     先程から雨粒が、八つ当たりでもしているんじゃないかってぐらい強く、屋根に降り注いでくるのが聞こえる。この分じゃ、明日の花火大会は中止だろうか。兄さんが駄々こねなきゃいいけど。
    「何であんな話流行ったんだろうな」
    「くだらない噂がごまんと流行るもんだよ、小学生時代なんて。兄さんも覚えてるだろ、5丁目の歩行者用トンネルで息すると死ぬとか。金次郎像の薪を数え切ると呪われるとか」
    「それはまだ分かんだよ。トンネルとか薪数えるとか、場所や条件がハッキリしてんだろ。……黒小僧は雨の日に一人でいると、ってだけじゃねえか。雨の日に一人で帰ることなんて、特に高学年にもなれば珍しくもねえのによ」
     兄さんはそう言うと、テーブルに置いてあった飲みかけの炭酸ソーダをごくごくと飲み干した。……俺が飲んでたやつなんだけどな。



     寝る前にトイレに行こうとして、兄さんと鉢合わせた。
    「先行けよ」
     そう言うからお言葉に甘えて先に入る。
    「さっきの黒小僧だけどさあ、」
     トイレのドア越しに話しかけて来るなんて、デリカシーのない兄である。
    「……」
    「返事しろよぉ」
    「……小便しながら会話したくないんだけど。で、黒小僧が何」
    「……やっぱ、いいや」
    「……」
     無視してもうるさくなるだけだと思って返事してやったのに、やっぱいいやとは何事か。少しムッとしながら手を洗ってトイレを出ると、兄さんに手首を掴まれた。
    「……お前さ、俺の小便してるとこ、見たい?」
    「…………は?」
     いつも兄さんは傍若無人かつ突飛な言動が多いけど。……だけど今回はいくら何でも流石に変だ。
     人前で言うのは憚られるけど、兄弟でそういう行為だって、まあそれなりにしてきた俺たちだ。でも、排泄している姿を見せ合うようなアブノーマルなプレイなんか、これまで一度もしたことはない。兄さんにも、勿論俺にも、そんな趣味ないし。
    「いや見たくな、」
    「見たいだろ?見たいよな?一緒に入っていいから見てけよ」
    「見たくないって、」
    「いいから!!」
     逆に何で急に自分の小便を見せたがるようになったんだろう、マニアックなAVの影響でも受けたのか。そう思って兄さんの顔を見れば、綺麗な顔を真っ赤に染めて、涙目で肩を震わせていた。
    「……何?兄さんまさか、黒小僧のこと思い出して怖、」
    「さっきお前がさー!動画見てたやつ、あれなんて種類のカエル!?」
     大声で無理矢理話題を切り替えながら、体格差をいいことに俺を個室に引き摺り込んで。
    「……ジムグリガエルだよ。縄張り争いしてんの」
     怖いものなんて何もないように見えるこの大男が、こんなチャチな怪談話を思い出しただけで、一人でトイレにも行けないぐらい怯えてしまう。その理由に心当たりがないわけじゃなかったから、俺は不承ながらも兄の暴挙を甘んじて受け入れてやる。小便を見る趣味はないから、背は向けるけど。
     勢いの良い水の音がすぐ後ろで聞こえる。俺がトイレに行くまでずっと我慢してたんだろうか。そんなに怖いなら正直に言ってくれればいいのにとも思うけど、兄さんは元々そんな素直さを持ち合わせている男ではない。
    「今日、この大雨で気温ちょっと低いからさ、俺の布団で一緒に寝ていいぜ」
    「怖いから一緒に寝て、でしょ」
     雨音はさっきよりだいぶ弱まって、この大雨、と言うにはいささか不十分なぐらいだ。
    「俺と一緒に寝たいんなら、手、ちゃんと洗ってよね」
    「生意気な」
     そう言いながらも兄さんの手を洗う仕草は、いつもより丁寧に思えた。



     「黒小僧はさ、」
    「もう黒小僧の話はいいって」
     あれだけ黒小僧黒小僧とうるさかった兄さんはもう聞きたくないみたいだけど。
     俺はちゃんと覚えてるんだ。最初に俺たちに黒小僧の話をしてくれたのは、当時定年間近だったお爺さんみたいな先生。その先生が子どもの頃実際に出会った幽霊の話だって、校内キャンプで話してくれたのが噂の始まりだ。
    「……黒小僧は、もう出ないよ」
    「……何で分かんだよ」
     返事代わりに兄さんの手を握ってやる。



     ……会えたんだもの。もう一人じゃない。泣き叫ぶ必要もない。



    「……明日晴れるかねえ」
    「それは黒小僧にも分からないな」
    「黒小僧はもういいって」
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