「……いや、いい。どうした?」
『うん、ナデシコさんから召集があったんだけど、君にも連絡は来てるか? 一応僕は休みを取って行くつもりでいるから、アーロンはどうするのかな、と思って』
「ああ」
あのバカげた話か、と思いながら何も言わずに済ませたのは、うっかり口を滑らせようもんならあの女と詐欺師に何を言われるかわからないからだ。おっさんは面と向かっては何も言わないだろうが、あからさまに肩を落としてみせるかもしれない。ある意味一番性質が悪い。
「着の身着のまま来てくれればいい、なんて言われたけどそういうわけにもいかないよな」
「いいんじゃねえの」
少なくともルークは身ひとつあればいいはずだ。今回の件では、特に。
「で?」
『……その『で?』っていうの、やめろってアラナさんから怒られてなかったか?』
「うるせえな。何かあんだろ、言え」
『相変わらず横暴な奴だな、君は。……ええと、実は休暇を申請したとき、どうせなら少し長めに休みをとれって言われたんだ』
「へえ」
それは、良い兆候のように思えた。
画面の向こうにいる男は、随分顔色が悪い。ルークの家へ転がり込んでいた時のスケジュールはひどいもんだった。あの生活を今でも続けているなら、いつ倒れてもおかしくないとすら思う。
それを指摘したら当の本人は、ひき肉を5㎏こねるよりは楽だよ、なんて生意気なことをぬかしやがったがな。
『それで、早めに到着する予定なんだけど、もし君の都合がつくようなら、観光がてらミカグラ島を一緒に見て回れないかなと思って』
人のことを横暴だとかぬかすくせに、はにかみながら誘いの言葉をかけてくる。他のヤツなら含みを疑うところだが、いっそ清々しいほど他意はない。
『忙しいなら、無理にとは言わないけど』
「そうかよ」
『……忙しいのか?』
画面越しに、翠の眼がじっとオレを見据えていた。実際に視線を交わしているわけでもないのに、妙に賢しげな目を向けられると腹の底まで探られている気分になる。そこまで考えちゃいないんだろうが、どうにも嘘はつきにくい。
溜息をかみ殺して前髪をかきあげた。