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    kemuri

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    kemuri

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    【フロリド】真っ白い部屋にフロとリドだけがいる話-6-(6/7)

    【満月の夜に呼びあう52Hzの音色】水が部屋の中に溢れていく。口の中に入りかけた水を噎せながら吐き出して、上に覆いかぶさっていたフロイドを押しのけた。
    「ゲホッゲホ、おいフロイド!キミは飲み込まれるな!」
    「そんなこと言ったって!なぁにこれぇ!」
    水が押し寄せてくる窓際からバシャバシャと音を立てて離れる。相変わらず長い脚で先に部屋の中央まで行ってしまうフロイドに舌打ちしそうになりながらリドルは外を横目に追った。合間に片腕を伸ばして迫りくる水へ視線を向け、それらを魔法で押し留めようとする。しかし魔法を展開させようとした先には何の反応もない。
    この空間に来てから魔力の感覚が無いのは薄々気付いていたものの、ここまで手応えが無いと悔しさより腹立たしさを感じてしまう。
    「そりゃあ人の心の中なら使えなくて仕方ないのかもしれないけれど……」
    アズールは何も言ってなかったじゃないか!と吐き捨てるようにぼやいたリドルは、ようやくフロイドが乗っているテーブルのところまでたどり着いた。
    「ほらぁ!早く乗って!」
    「待て、テーブルに乗るのはマナーがないだろう!?それに水に飲まれて困るのはキミ一人だけだ!ボクは別に水に浸かったって、別に問題は」
    おそらく、無い、はず。と尻すぼみに続けてしまった。大丈夫だとは思うが、自身が全部飲み込まれたら?それこそさすがに多少は害があるのでは?と。いやでもアズールは何も言わなかったし……、とは考えたがさっきの魔法の不発を思い返し逡巡する。
    「ああもう!そんなこと言ってないで!ほら!」
    リドルが悩んでいるうちに上から手が伸びてくる。フロイドの手はリドルの腰を掴み持ちあげ、テーブルへ引き上げた。
    「あっ、こら!勝手に!」
    「それどころじゃねーじゃん!うるせー小言はあとで!」
    腰を掴まれたまま引き寄せられる。まるで守るかのような仕草に一瞬、そう一瞬だけ何かを勘違いしそうになった。そもそもこの場で彼を守るのはボクのほうじゃなかったか?!
    「その手を離せ。元々これは、キミのせいなんだからな!」
    じわじわと水嵩を増していく。水面にはさっきまで握りしめていたクッションが漂っていた。
    「何でオレのせいなのさ」
    窓の外に視線をずらすと宙に浮かぶクジラと目が合う。先程まで感じていた幻想的な印象ではなく、こちらを狙い定めるような視線に恐ろしさを感じて思わず後ずさりをする。
    「だって、キミには忘れたいと願うほどのものがあるんだろう」
    クジラが近づいてくる。口を大きく開ける。その動きで波が一層押し寄せてくる。テーブルの天板に水が掛かる高さまで迫ってきていた。
    「全部キミがそんなことを考えるのが悪いんだ!」
    ぐらつくテーブル。
    「オレの何が……!」
    「キミはボクを!忘れたがっている!」
    ボクのことを好きなくせに!そう叫んだ瞬間、クジラが壁を突き破ってきた。波に揺れて崩れるテーブルと共に水の中へ二人は落ちた。二人の身長よりは浅いが、フロイドはみるみるうちに水と同化していく。
    「このっ馬鹿!」
    手を伸ばしてどうにか掴んだのは胸ぐら。多少乱暴な行為なのは否めないがこの際仕方ない。引き寄せて視線を合わせる。
    「ここから無事に出たいのなら、キミはボクを忘れたいと思うな。しっかり覚えていろ」
    フロイドの視線が泳ぐ。そんなことを許すと思うか?
    水に揺られる中で額を突き合わせる。
    「こんなことで水に沈むような奴なのかキミは?」
    「は?」
    ピクリと反応するフロイド。そんなフロイドを気にすることなく言葉を重ねる。
    「忘れてしまいたいなんて、それでこんなものに飲まれるなんて、臆病で弱い奴だな!興ざめだよ」
    「っ!うっせぇよ!言われなくたって……忘れたくなんかねぇよ!本当は!」
    ギリと尖っている歯を噛み締めている。睨み付ける目は久しく見る鋭さだった。
    「そうかい。それならあとでボクのところにおいで。その言葉が本当か確かめてやる」
    外から波が寄せてきて、とうとう部屋の中いっぱいに水が満ちる。必然、リドルもフロイドも全身が水に飲まれた。けれど薄暗い水中でも正面を見据えればゴールドとオリーブの瞳は輝き続けている。
    真剣な顔をしたフロイドの口が開いて何かを喋っている。しかしその口からは泡しか出てこない。それでも悪いことは言われていないことはなんとなく伝わるものだ。
    ふ、と笑って返せばリドルも口の端から泡があふれる。そのうちに視界は真っ暗になった。
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