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    kemuri

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    kemuri

    MEMO天使のはらわた、人魚のむくろ/フロリド「金魚ちゃんはいいこだよ」
    そう言って頭を撫でる彼の手のひらがむず痒かった。こんな時に言う言葉がよりにもよってそれなのか、キミは。

    ***

    辺り一面は焼け焦げていて、吸い込む空気も燻っている。まだ何人か残っているのだろうけれど、今ここにいるのはボクとフロイドだけだった。そのフロイドも息を浅くして地面に背をつけていた。
    「早く皆と合流しよう。きっと生き残ってるはずだ」
    フロイドの方を見ないようにして次の行動を口に出す。皆がいる方角を探るために探知の魔法を投げた。距離がどこも遠い上に散り散りになっているが、心配のない人数が残っているのが感じられホッと胸を撫で下ろした。
    「一番近いのは西の棟だったよ、行こう」
    「金魚ちゃん一人で行きなよ」
    そう言われてようやくフロイドの方へ目を向けた。両目を横薙ぎに一閃、腹部にも一閃、四肢はどうにか揃っているが何箇所か折れてるだろう。そんな状態の彼は焼けた地面の赤黒い血溜まり染みの中に転がっていた。視認して眉間にシワを寄せる。
    わかってたさ、ああわかってた。フロイドはもう動けるような状態じゃない。それに気付いた時手当てをしようとしたのに彼は「そんな事する 1588

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    MEMO冷たい荒野に薔薇が咲きました/フロリドつまらないツマラナイつまらない。
    授業も退屈だし、寮に戻ると怒られる。木の下で寝ていようかと思ったら雑魚共の喧嘩がうるさい。睨んだら勝手に散っていったけれど、興冷めしてすっかり寝る気も失せた。
    じっとしているのも耐えられなくてウロウロと構内を歩き回ろうとしたけれど、こちらに気付いては怯えて避ける他人が煩わしいし目障り。この不機嫌があからさまに出ているせいなことはわかっているが隠す気はちっともなかった。本当に全部が全部気に食わなくて苛立っていた。
    狭っ苦しい構内を一周してしまってまた外に出る。あちこちの馬鹿騒ぎのような声が癇に障る。それでも暗く狭い屋内にいるよりはマシ。そうして歩き続けて結局体育館の方まで来てしまった。ちょうど使用時間の合間なのか運良く誰もいなかった。
    「あーーーーツマンネ」
    このぐちゃぐちゃを声を出して発散したい。したけど全く何も発散できなかったが。次の授業まで人が来ないのだし、ここで寝てしまおうと壁にもたれかかって目を閉じた。
    ガサと音がする。潜っていた意識を浮上させると目の前に人がいて一瞬身構える。
    「起きたね」
    「あ……金魚ちゃんじゃん」
    身体をこわばらせたものの 1454

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    MEMO軸のずれた世界で真っ直ぐに立てるはずなんかない/フロリドベッドから落ちた。それはもう、盛大に派手に。
    足が立たないとは聞いていたが本当にこんな生まれたての子鹿のようになるのか、と驚き半分絶望半分で床にへたり込んでいた。
    「ん……、金魚ちゃ…んうわ落ちてる大丈夫」
    尻もちをついた時に結構な振動を響かせてしまったのか、さっきまで隣で寝ていたはずのフロイドを起こしてしまったようだった。
    「す……すまない、目が覚めて……水を飲もうと思って……」
    「謝るのはオレの方だから!無理しないで!どこかぶつけてない待って今抱っこするから」
    「いい!大丈夫だって、これくらい!」
    大丈夫なわけがない。現に今、足の震えに加えて尻もち以外の腰回りの痛みがじわじわと襲ってきている。こんなことになってしまうなんて、ほんの数時間前には想像もしてなかった。いや最中に『こんなことをして壊れてしまったらどうしよう』と思ったのはうっすら覚えているけれども……。
    「見栄張らないでよぉ、ほら手ェ掴まって」
    うぎぎぃ……という呻き声が出てしまうくらいには屈辱的だ。なんだって人の手を借りなければ立てない状態になってしまっているんだ。
    「ぜんぶ、フロイドのせいだ……」
    掴んだ 1175

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    MEMO哀しみで目が眩みそう/フロリド初めて昼間に海から顔を出した時、あまりにも世界が眩しかったことをよく覚えている。
    深い北の海の底では明るいことなんてなくて、ほんの僅かな上からの光と、発光しているオレ達のような生き物が全てだった。
    深い海には届かない赤色が陸の世界では特に眩しいくらい目に刺さって、このトゲは一生抜けないんだと思ったし、抜けるなんてもったいないと感じた。
    「きーんぎょちゃん」
    「……なんだい、フロイド」
    振り返る顔には『いつになったら飽きるのだろう』という表情がそのまんま張り付いている。こんな眩しい金魚ちゃんのこと飽きるなんてことあるんだろうか。いや、オレのことだから絶対無いとは言い切れないけれど……それでも手の届くこの距離にある内は絶対離したくないし、オレのせいで輝きが落ちるなんてことなんか合ってほしくなかった。
    それでも、人生は一瞬とよく言う。
    順調に成績を収めて卒業をして、それぞれの道を行って、ちょっとしたお隣さんのように住み着いて、何だかんだお互い未婚のままそこそこの歳になって、今は忙しいけれどおじいちゃんになったらゆっくり遊べるかもねぇと雑談をしていた頃、そんなタイミングで金魚ちゃんはスッと人生 987

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    MEMOメデューサの瞳に乾杯/フロリド騒々しい店内。オレ達はパーテーションもろくに無い飲み屋のテーブル席にいる。自身の手にはビール、目の前には肉を焼いて薬味を山盛りにした大雑把なツマミが大皿で置かれていた。一切れ取って口に運びつつちらと正面を見ると、いつも以上にニコニコして顔を赤らめている金魚ちゃんが小さな口にグラスをちびちびと運びながらこちらを見ていた。
    卒業後も案外交流が続いていて、たまにこうして食事にも行けるようになっていた。成長したのか態度も柔らかくなっていてオレが構ってもいちいち声を荒げるようにはならなくなっていた。いや、そもそも自分が構うときに怒らない程度のところまでで加減するようになったからというのもある。オレだって成長したのだから。まあ真っ赤になるほど怒ったほうが面白いのだけれども。
    今日は金魚ちゃんの行きつけだ、というので連れてきてもらった店だった。こんな賑やかなところにいつの間に一人で行けてしまうようになったのか、それとも誰かと来ていたのだろうか、とモヤモヤしながらビールを煽り肉をつまみ新しくカクテルを注文していた。目の前の肉の大皿は金魚ちゃんが頼んだというのに自分は一切口をつけず、別で頼んだ小さなサラ 1195

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    MEMO狼の幸せを祈る少女/フロリド指ひとつ動かせそうにないくらいの倦怠感。真っ暗なハーツラビュル寮の寮長室のベッドの上に二人は言葉少なに寝転がっていた。
    週末の夜、夕飯も課題も済ませてあとはゆっくりするだけになった頃にリドルの部屋へフロイドが訪れたのだった。
    そこから数時間、傍から見れば実に甘ったるく満ち足りすぎたひとときを過ごしたのだが正直リドルは悩んでいた。
    普段の大雑把な所作からは想像がつかない程に隅から隅まで優しく触れられてしまったし、怯えた仕草をしてしまった時はそれとなく加減されてしまった。とはいえ回数を重ねてしまったためにこうして今ろくに動けなくなっているのだけれども。
    要するに、自分ばかりこんなに満たされてしまってフロイドは満足できているのか?
    ということが不安で仕方なかったのだった。
    まだ少し息も荒いまま枕に顔を埋めている自分の頭を隣のフロイドはけろっとした様子で撫でている。それが心地よくてウトウトとし始めているが、それではいけないと頭をどうにか上げて口を開いた。
    「……キミは満足したかい」
    「そりゃそうでしょ、金魚ちゃんとえっちしたんだし」
    悩むとか迷うとかもないすぐの肯定。そういうところが彼らしいと 958

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    MEMO冬の蝶々は狂気を吸う/フロリド息が白い。すっかり冬になってしまったがウィンターホリデーはまだ先だったな、と冷える指先を手の中に握り込みながら思い出す。踏みしめる地面もすでに枯れ葉が積もっている。
    外壁の隅、教舎と教舎の間に見慣れたターコイズブルーの頭を道すがらに見かけた。足元には……オクタヴィネル寮の腕章を付けている生徒が何人か倒れ落ちている。ドスの効いた怒声も罵声も飛んでいるし、殴っているのか蹴っているのか鈍い音も耳に入ってくる。
    これがハーツラビュル寮の生徒であれば一も二もなくその首を刎ねていたがそれ以前にアイツは例外だ。眉間に皺の寄る話だが、他寮である上にそもそも自分が関わると幾分不都合なことになるだろうことは経験則で知っている。あとでアズールに連絡を入れようと考え足早にそこを離れようとすると、案の定後ろから聞き慣れた甘ったるい猫なで声がかけられてしまった。
    「金魚ちゃんだあ~!何してんの?散歩?」
    へらへらとした顔をしてこちらに駆けてくるフロイド。手の甲をだらしなくはみ出たYシャツになすりつけて汚れを落としているし、今更何をどう見た目を気遣うのか短い髪を手櫛で整えている。
    「それはこっちの台詞だよ。キミ、自 1119