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    鏡の国でなんか色々あるみたいなのでダークメタナイトがメタナイトを攫っていく話(書きかけ)

    一方通行の鏡「大変なのねーーー!!」

    ここはプププランド。ポップスターのだいたい真ん中あたりにある、呆れるほどに平和な国である。
    ポップスターにはほかにもいくつか国がある。ディメンションミラーの向こうにある鏡の国や浮遊大陸フロラルドが有名だ。

    この日、デデデ城の窓を突き破って頭にガラスの破片をひっかけながら玉座の前にゴロゴロと勢いよく転がってきた客人は、浮遊大陸フロラルドに住んでいるあやつりの魔術師、タランザである。

    「た、たいへ、げほ、大変なのね!!一大事なのねーー!!」
    「この状況がか?」
    「お、落ち着いてるのね……」
    「自分よりパニック起こしてる奴がいると冷静になるんだよな」

    デデデ城の主・デデデ大王はかつてこのタランザにカービィと間違えられて誘拐されたことがあった。そのあと操られたり戦闘能力のリミッターを外されたりなんやかんやあったが、今はごく一般的な知り合い以上友人未満な関係性に落ち着いている。プププランドの住民は基本的におおらかだ。
    優秀なデデデ城のワドルディたちは、主君が指示をしなくても騒々しい客人の頭部に刺さったガラス片を抜き、止血処置をして包帯を巻き、床に散らばった細かなガラスを箒で掃きとったのち、客人と主の談笑のためにテーブルセットを用意した。ティーコゼーの白がまぶしい。

    「まあ茶でも飲めよ。そんなに急いで話さなきゃならんことなのか?」
    「あ、ありがとう、いただくのね……」

    執事役のつもりなのか、鼻の下(……で、あろう位置)に着け髭をつけたワドルディがタランザの前に置かれたカップに温かい紅茶を注ぐ。角砂糖を一つつまんでその水面に落とし、タランザはようやく一息ついた。
    割れた窓から陽光の射す、今日はのどかで良い日である。


    タランザが口をつけたティーカップは、ソーサーの上に着地する前に金属質なきらめきを伴って二つに割れた。

    「うおっなんだ」
    「あ!!忘れるところだったのね!一大事なのね!!」
    「……忘れるな」

    小さく悪態をついた何者かの手には、紅茶の水滴がついた銀色の剣。
    フロラルドにある王城の最深部に安置されていたディメンションミラー、その中の空間に封印されていた傷持つ仮面の騎士。
    ダークメタナイトの来襲だ。


    *****


    「かくかくしかじかで、このおっかないのが『俺に会わせろ』って言ってきたの。意味わかんないからそう言ったら怒って暴れだしたのね!お城はめちゃくちゃになるしこのままじゃセクトニアさまにまで被害が及びかねないからこっちに引き付ける感じで逃げてきたのね……」
    「要は厄介者押し付けに来たんだな」
    「そんな言い方しないで欲しいのね!実際大王はこいつのこと知ってるっぽいし、ワタシの判断に間違いはなかったのね」
    「知ってるっちゃ知ってるけどよ……」

    デデデは未だ剣呑な空気を醸し出している仮面の騎士を見る。仮面の傷には見覚えがあった。自らの手でぶちのめし、出入り口ごと割ってやったはずの鏡の国の戦士。それがどうしてこんなところにいるのか。ディメンションミラーが復活したのか?

    「魔術師、俺が用があるのはこいつじゃない」
    「わかってるのね……!でもワタシがいざって時に頼れるのはフロラルドの民以外だともう大王くらいしかいないのね!」
    「俺に会わせろ」
    「だぁーもう!鏡でも見てればいいじゃないの!!」
    「あー……」

    ぎゃんぎゃんと騒がしいタランザを横目に、デデデはふっと現実逃避がてら空を見上げた。未だ新世界での精神的ダメージが抜けきっていないので、あんまり目の前で騒がれるとまだ少ししんどい時がある。そりゃあだいぶ回復してきてはいるものの、やはり本調子では……とぼんやり青空を眺めていると、そこに横切る影が……あ。

    「なあ、えーと……メタナイトっぽいお前、お前が探してんのってアレじゃねえの」
    「む、……」
    「……わ、なんなのね?ワタシあんなの初めて見るんだけど……」
    「しょっちゅう飛んでるぜ。そうか、タランザのとこはハルバードが飛んでる高さより上か」
    「え~あんなのがしょっちゅう飛んでるの?プププランドも案外不穏な……うわっ!?」

    上空を飛ぶ戦艦ハルバードを認めたダークメタナイトは、突然ボロボロの羽を広げて飛び立った。羽ばたきに驚いてタランザがひっくり返りそうになる。飛び上がった彼は、そのまま割れっぱなしの窓に足をかけ、出ていく前に一瞬だけデデデの方を見た。

    「……」
    「なんだよ」
    「養生しろ」
    「お……おう」

    そのまま出ていく背中を見送った。まさか一度完膚なきまでに倒した相手から気遣うような言葉をかけられるとは思わず、どう反応していいものか迷う。タランザが飛び去った彼とデデデの間で何度も視線を往復させていた。



    浮遊大陸フロラルド……の、最上部の王城。そのさらに最深部。そこに飾られている大きな鏡───ディメンションミラー───には、今は目隠しの布が被せられている。見る者の邪心を増幅させるとして封印されたその鏡を、デデデ大王が叩き割ってしまった事件はもうだいぶ前の話だ。
    ディメンションミラーは内側にある空間からその修復ができる不思議な鏡である。だから、あれからだいぶ時間がたった今、修復されてしまっているのにも一応納得はできる。

    その鏡の前になぜ自分が連れてこられたのか、メタナイトはまだ納得できていない。

    そもそも連れてこられた経緯が経緯だ。いつものようにハルバードでプププランドの上空をパトロール中、甲板に何かが突き刺さったような衝撃を受けた。慌てて確認しに行ったアックスナイトが、激しい動揺をどうにか抑えながら送ってきた報告にメタナイトは驚愕する。
    「メタナイトさまが甲板にいます」と、彼はそう言ったのだ。
    嫌な予感に頭痛を感じながら甲板に出ていくと、想像通りそこには鏡映しの自分が立っていた。と思ったら、声をかける間もなく一瞬で間合いを詰められて、すわ窮したか、と覚悟を決めたが痛みはいつまでもやって来ず、眼前に突き付けられた見慣れた顔を睨みつければ、相手はふん、と鼻を鳴らす。

    「こんなところにいたか」
    「……何故こんなところにいる、もうひとりの」
    「お前、今暇か」
    「は」
    「暇だな。来てもらう」

    そうしてダークメタナイトの手によって半ば拉致かのように連れてこられたのがここである。かつては対話どころではなかったのでわからなかったが、もしやこのもう一人の私はだいぶコミュニケーション能力に乏しいのではないか───と、メタナイトは痛む頭を押さえた。


    さて、鏡である。布をめくった先に見えた鏡面はやや黒ずんでいて光を反射していない。その鏡面に向かって背中を小突かれ、メタナイトは鏡映しの自分を睨みつけた。

    「おい貴様、いい加減経緯の一つでも説明したらどうなんだ」
    「……」
    「……おい」
    「見ればわかる」
    「さっきからそればかりじゃないか。お前に私に対する敵意がないのはわかったが目的の断片すらわからないのは不気味だ」
    「そうか。不気味がってるお前を見るのは気分がいいな」
    「この悪趣味め」

    くくっ、と含み笑いをするダークメタナイトをじっとりねめつけ、私の影がこれなのか、と肩を落とす。落とした肩をもう一度小突かれ、メタナイトは大きく息を吐いてから黒ずんだ鏡に向き直った。どうやらこの中に入るまでは解放してくれないつもりらしい。
    あまりいい思い出がないので、できれば忘れていたかったのだが。
    念のため剣の柄に手をかけて、メタナイトは鏡の中へと足を踏み入れた。



    「やっほぉう!久しぶりだねあっち・・・のメタナイト!」

    鼓膜に負担がかかるような重圧と轟音が吹きすさぶ中、場違いに明るい声が耳に届く。声が満足に届くということはこの鳴り響く音の正体は風ではないようだが、これはいったいどうしたことだろうか。

    鏡の国。その鏡の間が、薄黒い闇に覆われていた。

    柄にかけた手をどうしようかと迷っているメタナイトの眼前に、ぴるるる、と弱弱しい音を立ててワープスターが着陸する。乗っていたのはもちろん見慣れた球体の若者だが、体の色が違っていた。

    「久しぶりって言ってもちゃんと話すのは初めてかなあ……じゃあ自己紹介からね!ボクシャドーカービィっていうの」
    「あ、ああ……私は」
    「あ、そっちからの自己紹介はいいや。ボクらは本体から記憶もらってるし君のことも知ってる」
    「そうか……すまない、まだ状況が飲み込めていないのだが」

    なぜ私が呼ばれたのか説明を頼めるだろうか、と戸惑いを混ぜて放たれた言葉に、シャドーカービィはええ、と声を上げ、ダークメタナイトを強めにどついた。彼の体幹は揺らがない。流石メタナイトの陰である。

    「ちょっとメタナイトー、あっちのメタナイトに何にも言ってないわけ?このコミュ障野郎いい加減にしなよ」
    「うるさい、見ればわかると思」
    「わかってないから訊かれてるんでしょ!ああごめんねあっちのメタナイト、なんて言って連れてこられたの?まさか何にも言われず?はぁ~……ごめんねえほんと……説明しなきゃじゃんか、と言ってもこの状況どこから説明したらいいのかなあ……」

    急に捲し立てたかと思ったら突然黙り込んでしまったシャドーカービィに面食らったメタナイトは、思わず己の影の方を見た。「やれやれこれだからこいつは」みたいな顔をしているがもとはと言えばお前の説明不足が原因なんだからな。つくづくこいつが自分の影であることが疎ましい。


    *****


    「まあ見ての通りすっごい暗くなってるよねー、ごーごーうるさいし。これねえ、そっちのデデデが原因」
    「デデデが?」

    雲のようだがきちんとした実体のある地面は、プププランドの上空にあるグレープガーデンを思い出させる。踏みしめる度に小さな雲の欠片が舞っては消えた。鏡の間にある鏡を無視し、三人は徒歩で奥へと進む。軽い足取りで先導するシャドーカービィは、メタナイトの相槌に頷いて続きを語り始めた。

    「こないださあ、異空間ロードみたいなやつの大規模版でみんなが別の星に飛ばされた事件があったでしょ」
    「ああ、惑星間接続事件」
    「なぁにそのややっこしい名前……まあいいけど。そんでさあ、その時またデデデ洗脳されたでしょー?」
    「洗脳……まあそうだな」

    ホワイティホルンズ、その大聖堂。メタナイト自身も一度探索に挑み、そして断念したあの場所にデデデ大王がいたのだという。彼は精神面が脆い代わりに肉体が強い。おそらくはあの忌々しい思念波に精神を侵されながらも「体はまだ動けるから」と先に進んでしまったのだろう。あるいは意志ごと浸食されたか。経緯はどうあれその結果、見事に黒幕の手先として利用され、しかもカービィに一度倒されてなお洗脳が解けなかったという。そのことに当人はいたく落ち込んでおり、あの事件から時間がたった今もなおうまく眠れないことがあるのだとワドルディ経由で噂を聞いている。
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