3月3日(大入り袋誕生日)※海軍海賊が前世で2人とも記憶ありという前提です。
「なあ、海軍様…プレゼントには一つ一つ意味があるって知っているか?」
海軍の仕事中は構えないからかソファに座り欠伸をしていた海賊は適当に思いついたであろう話題を降ってきた、いつもなら仕事の邪魔をするなと注意するところだが海軍自身もそろそろ休憩にしようと思っていたタイミングだったため、気まぐれに話に乗ってやる
「そりゃあ、贈り物ですから気持ちが籠っているとかそういうものなのではないですか?」
「はっ、海軍様でもそんな人間みたいな心情の答えが出せるんだな」
この男は自分をなんだと思っているのか、即答で出された言葉に苛立ちつつも持っていた書類を執務机へとおき疲れた目を擦りながらため息をついた後、まるで自分のものかのようにソファで寛ぎ脚を組んでいる生意気な捕虜を見れば
「じゃあ、どういう意味ですか?」
さして興味もない時間潰しにしかならないそれの答えを聞けば、いつもの強気な眉を釣り上げるようにしてにんまりと子供のように笑う海賊は口を開いた
「贈る物の意味だよ、例えば指輪は独占したいだとか他者への牽制とか…ネクタイピンは見守っていますだとか、下着は脱がせたいとか?海軍様も貰ったことあるんじゃないか?男にモテそうだしな」
にやにやとからかうように笑う海賊に心底聞かなければ良かったとため息が出る、この男は捕虜であり捕まっている立場だということを分かっていないかのように海軍を煽り苛立たせる、これだから躾を何度も繰り返さなければいけない…今は疲れてるから後に回すかとじとりと海賊を見つめていると得意げに笑う彼はまた口を開いた
「俺が海軍様に渡すとしたら……包丁とかだなぁ」
まさか海軍への贈り物の話になるとは思わず驚きつつも内容が刃物とは物騒だとも思い期待は全くせずに海賊の言葉を待てば、想像通りのくだらない言葉が聞こえてきた
「意味は断ち切りたいだとよ。さっさと解放されてぇ」
「それは、海賊サン次第ですよ。少なくとも今のままでは難しいのではないでしょうか?」
海軍は呆れつつも残念がる相手を見るのは愉快なもので声を出して笑えば、ふと思いついた質問を気まぐれついでに投げかけてみた
「では、好きな人が出来た場合は何を贈りますか?」
意外な質問だったのか大きな態度でソファに座り込んでいた海賊が目を丸くして海軍の方へと顔を向ければ、数回瞬きをした後考え込むように唇に指先を当てて数秒黙り込んだが返答はまたしてもつまらないものだった
「そうだなぁ…特に思いつかねぇ。恋愛経験も何もねーからな」
それを聞けば、そういえば前に言っていた気がすると思い返していると海賊がまた口を開き
「あーでも、逆に絶対に渡したくねーものなら思いつくぜ……」
そこまで聞いて海軍……いや、入縄は意識を上へと引っ張られる感覚に襲われそのままゆっくりと目を覚ました。
船室に居たはずが目覚めたそこはよく知った寝室で今の入縄はみんなで脱獄して大内を見つけ、やっと平和に生活をし始め割と時間が立ちそれなりの幸せを手に入れている…とまで思い出し壁に掛けられたカレンダーを見た
「雛祭り…ああ、誕生日だからあんな夢を」
ぽつりと呟けば同じ誕生日である恋人へと用意したプレゼントの箱へと目線を移した。そういえば今日は大内が皆でパーティする前にデートをしようとか言っていたな…と寝ぼけたままの頭を動かしゆったりと起き上がる。
意外とマメな大内の事だ、きっと気合を入れているに違いない…そんな想像をしながら密かに笑みを浮かべると入縄は目覚めたばかりの気だるい体をクローゼットの方へと向け歩き出す。
前に大内に真っ赤な顔で反対された黒のタイトなタートルネックのニットを手に取る、きっと好みの格好なのであろうこれと白のスキニーを手に取ればそれに着替えていく。試着をした時ソワソワと落ち着きない様子を見せていたのを思い出し、今から楽しみで仕方ないと着替えを終えればまだ寒い季節なのもありロングコートも取り出せばそれを羽織って相手が待っているであろうリビングの方へと移動した。
想像通り振り返り入縄を見た大内は目を丸め驚いた後耳まで真っ赤にして照れている様子で、入縄は満足気に笑うと軽やかな足取りで大内の近くへと行けば次は入縄が驚く番だった。てっきり何時ものデートのようにジャケットやタイトめなキレイめなもので来るかと思えば、パステル寄りのグレーのシャツの上に毛足の短いふわふわとした薄いピンクのニットとオーバー気味のチェックパンツ…似合わない事も無いが普段の服装よりも若く見えるそれを眺めていると、大内が視線に気づいたのか気まずそうに目線逸らして緊張を和らげるように両手を下で合わせて手遊びをする。
「あーやっぱり変か?」
ぽつりと聞かれた言葉に入縄は改めて大内を見るが、大内もまだ20代だし若々しい格好をしていてもおかしいということは無い。
「いえ?ただ…珍しい格好だな、とは思いましたね。」
入縄の率直な意見を聞けば大内はホッと息を吐いてから近くのソファにかけておいたコートを手に取ると、それを羽織り入口近くの入縄の近くへと移動するが入縄の視線が大内から動くことなくじっと観察するようで、いたたまれなくなった大内は視線を交えて
「……なんだよ?」
「…何時も自信満々にされているのに、自信なさそうに洋服の事を聞かれるので…特別な意味でもあるのかと思いまして」
他の人間になら気にもとめないであろう会話は相手が大内となれば気になってしまう、恋人だからという甘い理由ではなく何時も適当に選んだ服でも自信満々に着こなし男前だとか色男だとか軽口を叩く男が、わざわざいつもと違う毛色の服を自信なさげに着るのは少し引っかかる……暫く入縄が見つめていると大内は降参といいたげに溜息をつき頭を掻きむしるような動作をすると、目元を赤らめて目線を入縄から壁の方へと逸らして
「お前が……いつも可愛いだのなんだの言うから…そういうのが好きなのかと思って、店員に選んでもらったんだ……その、可愛い服ってやつを……」
言いにくそうな話し方でぶっきらぼうに投げ掛けられた言葉に驚きつつも、もう一度可愛い系とやらの服装をまじまじと見つめれば自然と笑みがこぼれる…好みだとか似合っているかなどは置いておいて、この男は入縄の為に好みそうな服を自信もないのに着て外に行くと言っているのだ。恋人としての優越感を感じれば
「へえ?いいんじゃないですか?たまにはそういった装いも…なかなか似合ってますよ」
にやにやとからかうような笑みだからか大内は若干嬉しくなさそうに目を細めるも入縄の手を取り、急かすように引っ張り歩き出した。
「さっさと行くぞ…2人が準備を終えるまでに帰らないといけないからな」
それだけ言えば少し早足で進む大内が照れ隠しで強い口調になっているのは明確で手を引かれる入縄は楽しそうに笑うしかない…今日見た夢はもっとギスギスとしていた筈なのに、今はとても穏やかで心地がいい
そんなことを考えていると大内が足を止めたのはコーヒー専門店だった、大内は苦味が苦手なためコーヒーは嗜まないはずだが…と目線を下にしたところ看板にひな祭り限定の桃のパフェと書いてある、ああ…成程今回は入縄のためという訳でもなくこのパフェ目当てか、貼り付けられた写真には大内の好物がふんだんに乗っておりとてつもなく甘そうだ。
カラン…と鐘を鳴らしながら入ったその店内にはゆったりとしたジャズが流れており客も静かな人間が多いのかとても優しい時間が流れているように感じる、大内は偵察通りの雰囲気に気を良くして店員へと話し掛けると奥の人通りの少ない席を指定してそちらの椅子の前でコートを脱ぎ腰掛ける
「ここなら近くだしゆっくり出来るだろ」
微笑む先では入縄も同じようにコートを脱ぎ椅子へと腰掛けようとしていた、今日の装いの入縄はいつもの何倍にも魅力が増したように感じ心臓が痛い程うるさく感じるがそれを悟られぬようにと大内はメニューを二人の間で広げた
「どれにする?」
そう聞けば入縄はじっと珈琲の表を眺めてから少し迷った末に1杯を決めたらしくそれへと指を指した、それを見た後に迷わず別のページを開く大内はデザートの所へと捲り真剣に選びつつもやはり限定のパフェだろうと頷いた後に、ココアを選ぶがそこで指を止めて入縄の方へと向き
「他には要らないのか?」
「結構です、見ているだけで胸焼けを起こしそうなので」
ピシャリとそう断ってしまうと慣れているのか大内が手をゆるりと上げて店員を呼び怪訝そうな顔をされながら注文をしてしまう、ああ…また入縄の方へと甘いものを置かれるのかもしれないとため息をつきそうになりながらもその様子を眺めて終わるのを待つ
店員が厨房の方へと行けば大内が不意に持っていた小さな紙袋を手に取り入縄の前へと差し出した
「忘れる前に渡しとく、誕生日おめでとう楝」
優しく微笑みながら渡された紙袋を受け取れば同じく持っていた包を祝いの言葉と共に大内の前へと差し出した。誕生日パーティーの時に渡してもいいがこういった特別な二人の時間に渡した方がいいだろうという気持ちは同じだったようだ
「ありがとう…良かったら先に開けてくれないか?俺も後で開ける」
たされるままに袋から包みを取りだし丁寧に包装を剥がしていけば上等な箱が出てきた、それを開ければ中には上品な腕時計が入っていた…白い番にゴールドの針、ベルトは柔らかなブラウンのレザーといったデザインでどんな服にも合わせられそうだが…それよりも気になることがある。
気に入ったか気になるのかじっと見つめる大内と目が合った入縄はくすくすと笑いながら今日見た夢の続きを思い出していた。
「薫サンはキザですね」
その言葉は予想外だったらしく目を丸くする大内を他所に入縄は続けた
「遠い昔言っていたではありませんか…好きになった人には絶対に、腕時計は渡したくないと…だって、意味は」
それだけ聞けば、互いに前世の記憶があるもの同士大内も気付いたのか合わせるように唇を開いた
『時を共に刻みたい』
それだけ言えば入縄はからかうよう目を細めて笑い
「時を刻む気になってくれたんですかぁ?」
と聞けば当然とばかりに大内がにこりと含みのない満面の笑顔で
「ああ…昔の俺は、離れる可能性があんのにそんな無責任な物渡せねぇし絶対渡したくないと思っていたんだが……離したくない、俺とずっと一緒に居てくれ」
伸ばした掌で入縄の掌を掴めば口付けの代わりに親指で手の甲を撫でる、答えはわかっていると言わんばかりに自信ありげな笑顔に入縄が呆れつつも掴まれた手をそのまま…………