Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    はるしき

    倉庫。
    反射的にあげてるので誤字脱字は順次訂正。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 81

    はるしき

    ☆quiet follow

    透明な嘘(零盧←簓)

    ##零盧

    「最近、零と仲えぇみたいやん」
     その簓の言葉に、スーパーで買ってきたばかりの漬物にのばしていた盧笙の箸がピタリと止まった。
     先程まであまりにもくだらない話で笑い合っていた二人だったが、一石を投じた簓のその言葉は少なからず盧笙を動揺させていた。
     一方、簓は缶ビールを手の中でくるくると回したまま、笑顔を崩さず盧笙を細い目で見つめる。盧笙の言葉を待っていた。缶の中で、ちゃぷちゃぷと水が波打ち気泡が割れる音が聞こえる。答えを急かされている気がした。
    「誰が」
    「お前や、お前」
     お前以外おらんやろ、と簓は肩を揺らしておかしそうに笑う。
     盧笙は震えそうになる指を叱咤し、箸を皿の上に置くと深くため息を吐きだす。少しだけ心が落ち着いた。今まで飲んでいた缶ビールを手に取ると、力を込めなくても簡単に持ち上がってしまった。飲み干してしまっていたらしい。
    「……仲えぇ訳ないやろ、あんな怪しいおっさん」
    「その割に、なんや俺抜きで飲み行ったんやろ?寂しいわぁ」
     新しい缶ビールをとりに行くため立ち上がり、冷蔵庫に行くついでに簓の言葉に応えると、簓から間髪入れず盧笙の背に向かって言葉が返ってきた。
     驚きのあまり、盧笙は目を見開く。呼吸が詰まり、止まる。簓に背を向けていて良かったと心の底から思った。
    「なんで、知ってるん」
     冷蔵庫から缶ビールを取り出した盧笙は、平静を装い自らの定位置に戻りプルタブを上げる。炭酸が抜ける音から間髪を入れず、ぐ、と一口ビールを飲み、動揺モ一緒に飲み込む。
    「ウィズダムとマスターマインドが焼き鳥屋におるってネットであがっとったで」
     簓は床に置いていた携帯を手にすると何度か画面をタップし、ある投稿画面を見つけると盧笙に画面を見せる。
     少し汚れた焼き鳥屋のカウンターで並んで座る、背を向けた大柄な男二人。赤いシャツの男は体格が良く、隣に座るワイシャツの男は比べるとかなり細身に見える。確かにそれは間違いなく、盧笙と零だった。店の内装も見覚えがある。つい先日行ったばかりの、ミナミの路地を入ったところの焼き鳥屋だ。撮られていたのか。盧笙の背中に一瞬で冷や汗が滲んだ。
    「お前らでかくて目立つんやから、気ぃつけ?」
     零が自分より背が高いため忘れていたが、盧笙自身も平均的な男性の身長よりも高い。
     こう並ぶと、二人は確かに目立つ。油断していた。盧笙は内心舌打ちをした。
    「お、おぉ……なんや、すまんな……」
    「ぬるさらおらんのかわいそーって書かれとったで!飲み屋に行くのは二人のみや、なーんてホンマ可哀想やん俺!」
    「いや中途半端に駄洒落挟んでくんな、寒いわ」
    「ガーン!」
    「口で言うな相応のリアクションで攻め」
    「俺の渾身のギャグを……!ま、それはさておき」
     ぐび、と喉を鳴らしながら簓がビールを一口飲み、ぷはぁと息を吐き出すと盧笙を正面から見据える。細く閉じられている様に見える目だが、見られている、と盧笙は分かっていた。
    「チームメイト同士が仲良くなったら結束力も上がってえぇからな!あーんな頑なやった盧笙がえぇやん、えぇやん!」
    「だから、仲良くなっとらんって。しつこいわアホ」
    「でもな、盧笙」
     肘をテーブルについた簓の、平素は花火のように明るく騒がしい声が一段低くなる。
     空気が変わった。暗く、重く、足下から沈んでいくような空気に。
    「俺がおらんとこで、二人だけで仲良うなったら、あかんで?」
     咎めるように、何かを先回りするように。簓は盧笙に念を押す。
     一変した重い空気に気がつかないほど、盧笙も抜けているわけでは無い。何が簓の琴線に触れたのか、おおよその想像はついていた。
    「……もし仮に、零と俺が仲良くなったとしても、関係あらへんやろ、お前」
     盧笙の声が僅かに震えているのは、きっと簓には見抜かれている。しかし盧笙は、この問答から引き下がるわけにはいかなかった。
     じわじわと、盧笙の足下に黒い影が迫ってくるような心地がした。隙を見せた瞬間、絡め取られる。そんな気持ちさえしていた。息がうまく出来ない。蛇に睨まれた蛙、とはこのことか。
    「やって」
     簓が盧笙に身体を近づけ、音も無く腕を伸ばす。
     盧笙の頬に簓の指が触れかけた瞬間、盧笙は反射的に身体を引く。
     空を切った簓の指が僅かに震えたが、すぐに簓は自らの指を握りこみ、その口元に笑みを象る。
    「寂しいやんかー!俺抜きで二人が仲良うなるなんて!三人で仲良うしようや!」
    「いや小学生かその発想」
    「ぬるさらは寂しいと死んでまうんやぞ、大切にせぇ!」
    「あー!うっとうしいくっつくな!」
     伸ばした両腕で盧笙の身体に抱きついた簓は大声で喚きながら、盧笙の身体をぐいぐいと押す。
     いつもの簓だ。少しだけ安堵した盧笙は、抱きついてきた簓の顔を押し離そうともがいた。
     忍び寄っていた影は、もう無い。




     布同士が微かに擦れ合う音以外が響かなかったホテルの一室で不意に携帯のバイブレーション音が耳に届き、零の指が止まる。
    「……出なくて良いのか?」
     ベッドの上で零を背もたれ代わりにして指を絡ませ、零の太く長い指を弄んでいた盧笙は、耳元を擽る煙草の香りを含んだ甘い囁きに肩を揺らし、ゆるゆると首を横に振る。
    「簓やと思うから、えぇ」
     そう言った盧笙は片手を伸ばし携帯を手に取ると、画面に表示された名前を確認すると「やっぱな」と呟き、バイブレーションの設定をミュートに設定し直すと、サイドテーブルの上に画面を伏せて置く。
    「簓だから、出といた方がいいんじゃねぇのか」
     零の慎重な言葉に盧笙は一瞬口をつぐみ思案したが、ゆるゆると首を横に振り提案に拒否を示す。
    「今日はうち来てもおらん言うとるし、大した用や無いやろ」
    「……お前がそう言うなら、良いけどよ」
     知らねぇぞ、と笑う零の手の甲に、盧笙は音を立てて軽く口づけを落とした後、筋が張った皮膚に歯を立てる。甘く噛まれ、痛みは無いが擽ったい。盧笙の甘える仕草は癖になる。美しい容がとろりと蕩ける様は、今まで触れ合ってきた女など足下にも及ばないほど、美しい。零はこの男を手に入れたことを、柄にも無いが内心誇りにすら思っていた。
    「零と最近仲えぇな、って言われてな」
    「へぇ……なんて答えたんだ?」
    「仲えぇわけないやろ、あんな怪しいおっさん」
    「ひでぇ言いよう」
     くつくつと喉を鳴らして零は笑う。笑った顔も悪人面かと思えば、存外そうでもない。盧笙が身体を預けているこの男は、意外にも無邪気に笑う。その笑顔が、盧笙はたまらなく好きだった。
    「仲良うしたら結束力が上がるからえぇやん、みたいなことも言われた」
    「ま、違わねぇな」
     盧笙に握り込まれた手とは反対の、自由がきく手を盧笙のワイシャツの裾から侵入させる。
     熱を持った肌の上を、零の冷たい指が滑る。ひくり、と盧笙の腹が震えた。
    「何考えとんねん」
    「お前さんと同じ事だよ」
    「ん……っ!」
     ふ、と盧笙の形の良い耳朶に息を吹きかけ唇で挟めば、敏感になった盧笙の身体は零の腕の中で容易く震え、行為への期待の熱を持つ。
     この手に、この唇に、翻弄されるならば本望だ。
    「すけべ」
     盧笙は仄かに笑み首を伸ばすと、薄く開いた零の唇にそっと自らの唇を重ねた。




     がちゃり、と鍵が開き、蝶番がギィと音を立てる。
     合鍵を持つ手でそのまま扉を開き、玄関に靴を乱雑に脱ぎ捨て、簓は真っ暗な部屋に踏み込む。
    「……」
     家主の居ない部屋は暗く静まりかえり、冷たい。
     簓は合鍵を空中に放り、掴むとスラックスのポケットの中に鍵ごと手を突っ込む。
     不在だから来るなと言われた。電話にも出ない。同僚と飲みにでも行っているのか。
     違う。
     簓は概ね、盧笙がどこへ行っているか分かっていた。何をしているのかも。
     盧笙は嘘が下手で、正直で、真っ直ぐで。
     そんなところに、簓は狂おしいほど惹かれていた。出会った時から、今も。
     零、と言う名前を出した瞬間に目に見えて動揺していたのも、言葉の端々でどことなく甘さを滲ませていたのも。
     簓だから、分かった。盧笙と零が何をしているか、どうなっているか。長く想いを寄せていた簓だから、盧笙の考えている事が、分かる。騙されやすくて人が好いドアホ。もう二度と手離さないと誓った唯一の男。
    「おもんな」
     暗く重い、澱んだ感情を吐き捨てるように呟いた簓の目がうっすら開く。カーテンの隙間から差し込む月の光に反射し、暗く澱んだ金色の光を放っていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏👏👍💯💖😭💕😭😭😭😭😭❤😭😭😭👏👏👏💖💖💖💖💖💞💞🍌👏👏👏😭😭😭💖🙏😭😭🙏😭😭😭😭😭😭👏👏👏👏🙏🙏🙏😭😭❤❤❤😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator