「君と口付けがしたいんだ、士元」
なんて、今にも死にそうな顔して元直が言うモンだから。
「あぁ、好きにしなよ」
そう返事をしたのは、何刻前かってくらい時間が流れたような気がして。
「まだできないんですか」
書庫に行って、帰ってきた法正殿が心底哀れそうに元直を見下ろしたり。
「徐庶殿頑張って~」
調練帰りの馬岱殿が手振ってきたりなんかして。
「元直、今日はやめとくかい?」
さらし者にされた気がしてるあっしはそう元直に聞くけど。
「いや、する。したいんだ」
こんな時だけ真剣な目で見てくるからあっしが折れざるを得なくて。
「お天道さんが綺麗だよ、元直」
少しでも緊張を解してやろうと話しかけても。
「……」
元直はあっしを真っ直ぐ見つめたまんま、目を血走らせてるもんで。
「元直」
あっしは痺れを切らしちまったんだ。
「悪いね」
口布をめくって、自分の口でぶるぶる震えてる元直の口に口付けたやった。
「……え、あれ、士元……?」
何が起こったのかわかんないって顔した元直が妙に可笑しくて、あっしはカラカラと笑ってやった。
「俺からしようと思ったのに……!」
なんて、情けない声で元直が言うモンだから。
「期待してるよ」
そう言って、あっしは自分の部屋へ戻っていった。