Journey別れを惜しむ村人たちに別れを告げたトキは、その存在に気が付きふと立ち止まった。
トキの目の前。ぶるる、と頭を振る馬に掛けられた手綱を握り、トキを真正面から見つめる男がいた。
「リュウガ」
トキが男の名を口にすると、男は瞬きでトキの声に応える。
リュウガ。乱世を治める戦いの中で、幾度となくトキの背を守った、天狼の星の元に生まれた男。
端正な顔を持つ男は、ゆっくりと口を開いた。
「行くのだろう」
リュウガの言葉に、トキは小さく頷く。
未だ各地で混乱が続いているであろう世界。人々の心を癒やすのもトキの宿命。
その定めの元、トキは村を発ったばかりだった。
「俺も行こう」
リュウガが続けた言葉。それは、馬が二頭待っている時から、薄々トキは勘づいていた。
リュウガは北斗を戦場へと導く天の狼。
ならば、戦が終わった後。狼は救世主を、この世界のどこへ導くか。
トキはふ、と小さく息を漏らし、口元に笑みを浮かべる。
「ありがとう、リュウガ」
天狼が導くのはきっと、争いの芽が顔を出さんとする、未だ人心が揺らぐ混迷の地であろう。
ならば、トキにとっても都合がいい。
なにより。
「お前がいてくれれば、心強い」
戦場で幾度となくトキの背を支えたリュウガがいれば。
トキは知らずのうちに上がる僅かな熱に心を躍らせる。
この昂り、感情に未だ名前は、無い。
トキの言葉に目を細めたリュウガは、手綱をトキに差し出す。
言葉はなくとも。トキはリュウガから手綱を受け取り、馬に跨った。リュウガもまた、馬に跨る様子が見えた。
どちらともなく、蹄の音を立たせ馬は並んで歩き出す。トキとリュウガを乗せて。
(さぁ、どこへ行こうか)
(あなたと一緒に、どこまでも)