Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    はるしき

    倉庫。
    反射的にあげてるので誤字脱字は順次訂正。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 81

    はるしき

    ☆quiet follow

    小夜の逢瀬(零盧)
    某曲をイメージしながら。

    ##零盧

     白いリネンの上で揺れるバイブレーションの音に、盧笙は寝返りを打ち音の発生元に顔を向けた。
     小刻みに揺れる、画面を伏せた携帯。端から光が漏れ、闇に慣れた盧笙の瞳をきつく刺激した。眩しい。盧笙は目を細める。
     画面を見なくても、誰がかけてきているか盧笙は分かっている。盧笙は時計を見る。蓄光の針が1と6を指しているのが見える。いつもより早いな、とぼんやり考えた。
     彼はオオサカから離れている時はいつも、真夜中になると盧笙の携帯を眠りから起こす。彼は電話をかけてきて、取り留めない話を数分して、じゃあなおやすみと電話を一方的に切ってくる。
     初めの頃は明日も仕事だと一言だけ告げて即座に切ったこともあったが、その時は金曜日の夜中に再び電話を鳴らしてきた。盧笙が翌日休みなのを予想しかけてきたのだろう。顔に似合わず、存外律儀なのかもしれないと盧笙はおかしくなった。
     盧笙の携帯がメール以外の任務で真夜中、誇らしげに自らの役目を遂行する。それにいつしか慣れてきた盧笙の生活リズムは、何となしに変わっていた。
     帰宅後、日中返信が出来ず溜まった――主にラップチームのリーダーからのおびただしいほどの連投メッセージ――を一言返事し食事や入浴を終えるとすぐ眠りにつく。そして夜中の2時頃に一度目を覚まし、携帯の画面をチラリと見て、また伏せる。3時が過ぎる頃までそれを何度か繰り返し、そして再び眠りにつく。
     仕事に支障が出ているわけでも無いため、盧笙はそれで良かった。
     彼の身勝手に振り回されている自覚はあったが、それでも良かった。
    「……」
     盧笙は携帯を表に向ける。
     案の定、予想をしていた人物の名前がフルネームで映し出されていて、画面の下の方には通話に出るか通話を切るか二択が提示されていた。
    「……」
     盧笙は3コールの間、画面に映った名前を見つめる。
     電話がかかってきていても、すぐには出ない。まるで電話が来るのを待っていたように思われるから。
     たっぷり時間をかけて相手を待たせ、盧笙はようやく通話のボタンを親指で押し、電話を耳元に当てる。

    『よぉ、盧笙』

     機械越しに聞こえてきたのは、よく聞き慣れた鼓膜を刺激する甘く低い声。外を歩いているのか、踵が鳴る音を電話は上手く拾っている。
     盧笙がすぐに電話に出ないことを分かっているこの男は、盧笙を咎めたことが無い。
    「なんや、零。毎度毎度こんな夜中に電話してきよって」
     盧笙はそこまで言って、一度口をつぐんだ。
     自分は寝ているところを起こされて不機嫌な設定。こんな矢継ぎ早に文句を言っては、起きていたことがバレてしまう。それは、まずい。まずいことは本来無いのだが、盧笙の矜持がどうしてもそれを許さなかった。
    『大したことねぇんだが、ちょいとばかし話に付き合ってくんねぇか』
     盧笙の心配を余所に、零は機嫌が良さそうに声を弾ませていた。酒を飲んでいるのだろうか。盧笙は、おん、と唸り反射的に頷いていた。 
     零が口にした今日の出来事。今日は東都のどこでラーメンを食べ少々仕事――詐欺ではなく歴とした社長業――をして、夜になり、酒が飲みたくなってバーで一杯引っかけてた。という話。
     時折車が通り過ぎる音が、スピーカー越しに盧笙の耳にも届くが、ほとんどは電話の主が歩く音しか聞こえない。どこを歩いているのだろうか。東都にこんな静かなところがあるのだろうか。盧笙は相槌を打ちながら少し考えた。
    「で?」
     零の話が一段落した頃、盧笙が一言だけ投げかけた。
    『あ?』
     予想外だったのか、零は少し間の抜けた声を返してきた。
     普段は油断も隙も無い男が、盧笙の言葉に意識をとられる。その瞬間が、盧笙はたまらなく好きだった。
    「何の用?」
     ただ、それは絶対に態度には出さない。出してはいけない。盧笙は努めて、不機嫌そうな声色を出しながら問う。
    『声が聞きたかった、じゃだめか?』
     驚きのあまりスマートフォンを取り落としそうになった盧笙が慌てて空いていた手でスマートフォンを支える。

     声が聞きたかった。声が、聞きたかった。

     零の甘い声が脳を直接叩き、その一言だけがぐるぐると頭を回る。
     自然と顔に血が集まり、髪の生え際にじんわりと発汗を感じる。
    「お、おもんな」
     嬉しい。
    「……しょーもないわ、自分」
     俺も、声が聞きたかった。
    『辛辣だねぇ』
     本当に言いたいことは言えないけれど。
    『いつも付き合わせちまって悪いな』
     この男には、全て伝わってしまっている。
     好きだ、と盧笙の頭が、胸が叫ぶ。
    「……零、いつこっち帰ってくるん?」
     盧笙がぽつりと零してしまった油断。
     もう取り繕うことができなかった。
     零に。親ほど歳が離れたこの恋人に、会いたい。会いたくなってしまった。いつもは我慢が出来るのに。
    『そうだな』
     電話越しに聞こえてくる鍵を穴に差し込む金属音が盧笙の部屋の玄関口からも聞こえてきた。
    「は……?」
     まさか、まさか。
     盧笙は慌ててベッドから身体を起こし、寝室を出る。
     逸る気持ちを抑えながら、盧笙は玄関へと続く扉を開く。
    「よう、待たせたな」
     玄関の鍵を後ろ手で締めながら靴を脱いでいる、先程まで東都にいると思っていた男がそこにいた。
     黒のハット、黒いファーコート。サングラスはかけておらず、オッドアイの瞳が緩み盧笙に笑みを向ける。
    「なん、で、いつ帰ってきてん」
     驚きのあまり一瞬言葉を失った盧笙がようやく発したのは当然の疑問だった。するりと盧笙の脇を通り過ぎ室内へと足を踏み入れた零は、リビングに入ると立ち止まり盧笙を見下ろす。
    「最終の新幹線が間に合ったから乗ってきた」
     ファーコートを脱ぎながら、当然のように答える。
     なんで、どうして。真っ直ぐ俺のところに来てくれたん?嬉しい。嬉しい。
     体中から溢れて止まらなくなりそうな言葉と感情を飲み込み、震える唇を一度引き結ぶ。ぐっと言葉を飲み込み、盧笙は引き締まった零の腕に触れ、シャツをつまみ、引っ張る。
    「お、かえり、零」
     ギシギシと音が鳴りそうな程にぎこちなく、真っ赤に染まった顔を伏せて隠しながら迎える言葉を紡いだ盧笙の身体が、零の腕に抱き寄せられる。
    「おう。ただいま、盧笙」
     前髪の下りた盧笙の額に口づけを落とした零が己の年齢よりもどこか幼い笑みで応えれば、はにかんだような笑みを浮かべた盧笙の腕が零の背に回る。
     背の高い盧笙をすっぽりと包む、零の腕。煙草と酒と香水の匂い。盧笙の好きな、零の香り。
    「飯はいらん?食ってきたんか?」
     零の腕の中。問いを投げかける盧笙の薄く小さい唇に触れるだけの口づけを落とし。
    「俺が欲しいのは一つだけだよ」
     す、と腰を撫でる手の熱に身体を震わせた盧笙の目元がとろりと蕩ける。
    「しゃあないなぁ」
     盧笙は赤らめた目元に欲を差し、唇をつり上げ笑んだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💯☺💯☺💯☺💯☺💖💖💖💞💞💞☺🙏💞❤❤💘💘💘❤🙏🙏❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works