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    はるしき

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    反射的にあげてるので誤字脱字は順次訂正。

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    はるしき

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    あともう少しだけ(零盧)
    お互いのことが大好きなれいろ。

    ##零盧

     数ヶ月ぶりにオオサカの地に足を踏み入れた零は息を深く吐き、新幹線のホームから周囲を見回す。
     夕方から少し夜に足を踏み入れた時間の頃。ホームを照らす電灯は明るく、先ほどまで零を乗せていた新幹線の白い車体を照らす。
     少し離れていたくらいでは変わらないその景色。乗降客や出迎えの客が少し多いくらいか、とエスカレーターに揺られながら知らずのうちにうっすらと笑みを浮かべた時。
    「ん……?」
     零はふと覚えた違和感に小さく唸り声を上げる。
     ポケットにしまっていたスマートフォンが規則的な唸り声をあげ震えていることに気がついた零は、振動を発している元凶を手探りで探した。
    「……盧笙?」
     大きな画面に表示された、『盧笙』の文字。零がオオサカに到着したまさに今もたらされた、このオオサカに住む年下の恋人からの、メッセージアプリのメッセージではなく電話。
     零は疑念を抱えたまま、通話を開始しスマートフォンを耳元に当てながら駅構内を歩き出す。
    「おう盧笙、どうした?」
    『あー、零……今どこおる?』
     思慮深いが快活な盧笙の、いつもと違うどこか歯切れの悪い声。零は改札に向かって歩きながら口を開いた。
    「ちょうど今シンオオサカに着いたとこだが、それがどうした?」
     シンオオサカ。その言葉が零の口から溢れ出た瞬間、僅かに盧笙が息を呑む声が聞こえてきた。最近の携帯は、僅かな音すら容赦なく拾いあげる。
    「なんだ?おいちゃんに会いたくなったか?」
     わざと揶揄うような口調で嘯きながら、零は駅の中に並ぶ飲食店や土産物屋を見回す。何か手土産になりそうなものは無いかと視線と思考を巡らせながら、アホか、と返ってくるであろう相手の言葉を待つと。
    『あかんか?』
     予想していたものとは比べ物にならないくらいの甘さを伴うその答えに、零は思わず立ち止まる。
     突然立ち止まった大男を訝しげに、遠巻きに見ながら通り過ぎていく通行人の視線にも気がつけないほどの衝撃を覚えていた零は、立ち止まったまま言葉を失っていた。
    『ちゃう、ちゃうねん。今玉ねぎ炒めててん』
    「玉ねぎ」
     零が黙り込んだことで慌てた盧笙の、予想を超えたところから突如投げられた言葉を零は繰り返す。
    『野菜炒め作ろう思ってな、そしたら急に零のこと思い出してん、あーやっぱ俺、零のこと好きやなぁ思いながら玉ねぎ炒めてたら、めっちゃ綺麗な飴色になってん』
     なにがやっぱなのか。盧笙が何を言ってるのか、盧笙は何が言いたいのか。平時は恐ろしく回る零の思考がぐるぐると、尾を追いかける犬のように回り、ただ黙って盧笙の言葉を聞くしか無かった。
    『これただの野菜炒めにするのはちょお惜しいから、カレーにしよう思ってな。オオサカ来てるんやったら、一緒に食べれたらえぇなって』
     いじらしく、どこまでも真っ直ぐに伝えてくる盧笙は、眩しい。
     まるで闇の世界で生きる自分を照らす月のように。
    『何わろてんねん』
     月の光が濃いほど、自らの闇が濃くなる。
     目眩がするほど、盧笙は美しく、眩しい。
    「笑うなって言う方がひでぇ話だろ」
     このいたいけな青年を拐かし、ている自分に、笑う権利があるのだろうか。
     誤魔化すように口走った言葉に、む、と小さな唸り声が耳に届く。
    『カレー食わせんぞ』
    「悪い悪い、食わせてくれ」
     今はまだ、この甘い時間に酔っていたい。
     いつか醒める酔いならば、もう少し浸っていることを許して欲しい。
     彼を悲しませることになろうとも、どうか。
     零は知らず、信じていない神に祈っていた。
    「なぁ盧笙、今の話、後でもう一回聞かせてくれ」
    『なんやもう忘れたんか。歳か?』
     辛辣な盧笙の言葉に、再び零の口から笑いが溢れる。
    「忘れねぇよ、お前さんのことなら。単純に嬉しかったんだよ」
    『……早よ来い』
     拗ねたような口ぶりで呟いている盧笙はきっと、唇を尖らせているのだろう。
    「手土産無しで行ってやるよ」
     零はわざとらしくリップ音を電話口に投げかけ、直ぐに通話を切る。
     恐らく、通話が切れた後盧笙は顔を真っ赤にしながら電話に向かって何事かと戦慄いているだろう。
     会ったら何をしてやろうか。まずはあの細い身体を抱き寄せ耳元で何かを囁いてやろう。
     零の口元が緩む。何を囁いて腰砕けにさせてやろうか、思案を巡らせながら零は改札を通り過ぎた。
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