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    はるしき

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    はるしき

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    ろしょ誕なのに簓と零しかでてない話

    「3月1日は盧笙の誕生日やねん」
    「……ん?」
     年が明けて少しした頃。
     珍しくオオサカに訪れていた零は個室の居酒屋に呼び出された。
     畳が敷かれた個室の居酒屋は魚料理が自慢とのことだったが、先に席に着いていた簓の手元には水が入ったコップだけが置かれている。
     零を呼び出した張本人である簓は肘をつき両手の指を組み、眉根を寄せていた。
     あまりにも深刻な顔をしていたため、向かいに座った零はやや身構えながら、店員が運んできた水を一口含み飲みこみ、「何があった」と問うた。
     ふぅ、と一つ息を吐いた簓は糸のように細まった目をやや零に向け、ゆっくりと口を開いた。
     盧笙の誕生日。
     重く苦しい空気を纏う簓の様子とその言葉のギャップに、零はぱちりと瞬きし小さく唸り、聞き返す。
    「3月1日は盧笙の誕生日やねん」
    「いや、そりゃ聞こえてたが……で?」
    「で、て」
     零の疑問に、簓は不機嫌そうに柳眉を顰める。
    「俺らチームやろ?チームメイトの誕生日祝うのは当然やろ」
     チームという言葉と誕生日という言葉がいまいち結びつかない零は、崩した膝の上に肘を乗せ手を唇に当てた体勢のまま固まり、しばらく思案する。
     この天才的な頭脳を持つ男は、突拍子のないことを口にすることがある。
     それは主に、今回の話の中心人物である盧笙が関わることが多く、盧笙は毎回律儀にオオサカ本場のツッコミを叩き入れる。簓はそれが嬉しくてたまらないといった様子を毎回見せ、零は漫才コンビ・どついたれ本舗の天然漫才を毎回見させられることになっていた。それに関しては、零は特段文句も喜びも無かった。あぁ、またやってんのか。その程度だった。
     今回、簓の突拍子のない発想を拾う盧笙がいない。自分が簓の意図を汲まなければいけない。
     零は考え、一つの結論に至った。
    「簓は今から盧笙の誕生日を祝う準備をしたいって訳か」
     零のその言葉に、簓はぱっと顔を上げ心底嬉しそうな笑顔を見せた。細い目の目尻が緩み、猫のような口が開く。
    「さっすが零、よう分かっとるやん!」
     今は1月の上旬。盧笙の誕生日は3月。さすがに早すぎるのでは無いかと零は考えたが、一人テンションを上げる簓には恐らく零の理屈は通じないだろう。簓は盧笙の誕生日を祝いたくて仕方ないのだ。
     大層な愛だ、と零は呆れた。
    「そんでな、零。どうやって盧笙を祝うかっちゅう話やねん」
    「んなもん、盧笙が帰ってくる前に家行って、普通に祝えばいいんじゃねぇか?」
     零が机に肘をつきながら口にすると、簓は大袈裟なほど大きくため息を吐いた首をぶんぶんと横に振った。
    「あかん、そんなん普通すぎておもろない」
    「面白さ求めてたのかよ、そんじゃ話の方向が違う訳だ」
    「家行って飾り付けんのは当たり前や。重要なんはそっから先や」
     びし、と指を立てた簓の神妙な顔に、零は腕を組み唸る。
    「俺が歌ってやるから簓がラップやるか?」
    「予想範囲内すぎて盧笙驚かんやろそれじゃあ」
     やや思考することが面倒になった零の投げやりな提案は簓によって即却下された。
    「そうか?いい反応すると思うぜ?」
    「なんやそのエロい言い方」
    「んなつもりねぇんだがなぁ」
     じと、と零を睨む簓の言葉に零は肩をすくめてみせる。油断も隙もない、と簓はぶつぶつ文句を口にした。何の話だと零は気になったが、そこを深掘りすると話がどんどん脱線し終わらなくなることが分かっていたため、零は大人しく口をつぐんだ。
    「まぁ冗談は置いといて。ホンマに考えてほしいねん」
    「つってもなぁ」
     ぐい、と机に両手をつき身を乗り出した簓に、零は首を傾げる。
    「盧笙はお前が何かやれば、何でも喜ぶと思うぜ?」
     零の発した何気ない言葉に、簓は零と同じように首を傾げ、唇を尖らせてみせる。簓が行うと、どこかあどけなく見えるその仕草は年齢以下にすら感じる。
    「俺ら、やなくて?」
     尖らせた唇が発したその言葉は、零にとってはやや意外なものであった。
    「逃がしてくれねぇって?」
     すぅ、と細まった零の、色が違う左右の目がほんの少し、簓から逸れる。
    「逃がすわけないやろ?」
     僅かな動揺を見せた零に、簓はにぃと口元を歪めて笑い、おどけたように口にする。
     やっかいな男だ。零は内心で笑った。
    「……んじゃ、おいちゃんも本気出して盧笙の誕生日、考えるとすっか」
    「さっすが零!頼りにしとるでー!んじゃ酒飲みながら考えよか!ビールでえぇ?何食う?魚美味いらしいから刺身食べよか!」
     タッチパネル式の注文機器を手に取り嬉々としながら画面をスワイプしていく簓の姿を遠目に見ながら、零は自分の誕生日が間近に迫っていることを黙っていようと固く誓い、其方に話の方向が行かないよう全力で盧笙の誕生日について考えることにした。
     悪いな、盧笙。零はそっと、残業で学校に残っているであろう盧笙に謝った。



    「んで、零がシャンパンタワーと花注文してくれたから俺がケータリング頼んだんや。あ、飾り付けは二人でやったで!」
    「百歩譲って不法侵入は毎度のことやからこの際目をつむるとして、勝手にシャンパンタワー入れて家中わっかと風船で飾り付けてケータリング入れるアホがどこにおんねん!どつきまわすぞ!しかもケータリング……こんな、何十人前頼んどんねん!胡蝶蘭も花環もいらんねんアホか開店祝いちゃうねんぞ!」
    「トイレの照明もミラーボールに変更しといてやったぜ」
    「何勝手に人の家のトイレパーティ会場にしとんねん!?賃貸やねんぞちゃんと戻せよ!?」
    「風呂場、七色に光るのめっちゃおもろいから後で見てきてな」
    「えぇかげんにせぇよお前ら……!」
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    早野の夜鷺さんへ贈るタイトルお題は、『書を捨てよ、此処を発とう』 です。
    #shindanmaker #同人タイトルお題ったー
    https://shindanmaker.com/566033
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     萬燈夜帳が契約している部屋はいくつか存在しており、浪磯にあるマンションの一室もそうだった。バルコニーから海が見えるその部屋に、比鷺は何度か足を運んだ。山ほど本やCDがあるんだろうと思ったが、それほど物はなかった。当然だ。彼の自宅は別にあるのだから。広くてシンプルなのに殺風景ではない、趣味の良い部屋だと思った。
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