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    ゆな୨୧*

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    ゆな୨୧*

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    !三上と桐ケ谷
    !三上カドスト未読あり
    !イベスト、桐ケ谷カドストバレあり
    !先輩と後輩的な感じ。二人ともコンミスのことが好き。

    #スタオケ

    ガーネット・スター「よぉ」
    菩提樹寮の玄関で三上を呼び止めたのは桐ケ谷であった。先程、木蓮館で別れた以来だった。
    「どうしたんですか」
    「お前、この後予定あったりする?」
     桐ケ谷が立つ傍らには、彼の愛車があった。三上も時々洗車を手伝ったりしている。
    「予定といっても……まあ、練習はしようと思ってましたけど、それくらいです」
     三上は桐ケ谷の方を見て答えた。三上はそんなことを聞いてくる桐ケ谷の意図が読めなかった。
    「そっか。じゃあ、今から付き合えよ。荷物置いて、もう一度ここに集合」
    「え、いきなりなんですか」
    「こいつ走らせようと思って。お前も付き合え。ほらほら、早く」
     桐ケ谷は三上の肩をポンと押して、急いで支度しろと目で訴えた。三上は訳が分からなかったが、こうなった桐ケ谷は自分が何を言っても聞いてくれないような気がして、渋々荷物を部屋へ置きに向かった。幸い、他のメンバーに顔を合わせることなく再度玄関へ戻ることが出来た。何か聞かれたときに、この状況を説明するのはひどく面倒に思った。玄関へ戻ると、桐ケ谷がすでにフルフェイスのヘルメットを被り、スタンバイをしていた。三上に気づくと、来たな、と言って座席の方に視線をずらした。
    「そこからメット取ってくれ」
    「はあ……」
     座席の中を見ると、ふたつ、ヘルメットが入っているようだった。重なった上にあるそれは、男が被るにしては少し小さく思えた。三上が眺めていると桐ケ谷もそれに気づいたようだった。
    「あ、それはダメ。朝日奈さん専用だから」
     なるほど、と三上は思った。彼女が被るということであれば、サイズがぴったりのように思えた。同時に、この人は彼女専用のヘルメットを自分のバイクに積んでいるのか、という現実を知り、なんともいえない気持ちになった。彼女を連れてどこかに行っているらしい、というのはなんとなく知っていた。だから、不自然な事とは思わなかったけれど、それでも何故か三上の胸にはつかえがあった。
    「下にあるやつ使って。そっちが男用」
    「わかりました……っていうか、流されてるみたいになってますけど俺」
    「流されてくれてんじゃないの?」
    「否定はしませんけど……桐ケ谷さん、何企んでるんですか」
    「いや、何も。いいから、今は流されてくんない?」
    「……わかりました」
     三上としても不服ではあったが、この人が何か考えなしにこのようなことをやっているとは思えなかった。きっと何か思惑があるに違いない。そして、それはきっと三上にとって悪いことではないと思えた。桐ケ谷は不思議と他人をそんなふうに思わせられる雰囲気を持っている。それはきっと、彼が持っているカリスマ性がそうさせているのかもしれないと三上は考えている。だからウロボロスのボスなんてものをやっているのだろう。
     すでにハンドルを握った状態でバイクに跨っている桐ケ谷の後ろに、三上も跨った。もちろん、被っているヘルメットは彼女のものではない。よし、と桐ケ谷がいった。
    「しっかり掴まってろよ」
     桐ケ谷の声と重なるようにして、彼の愛車がエンジンを吹かした。

    どこに向かうのかは聞かなかった。三上が聞く前に、バイクは発車してしまったからだ。ただでさえ、風の音が大きいのにフルフェイスのヘルメットなんてしているものだから、こちらの声がすぐ前の男に聞こえるはずがなかった。バイクの後部座席に座って走る、だなんて人生で初めてのことだった。思ったより、太ももからふくらはぎに力を入れていないと振り落とされそうになる。やんちゃで、木登りで足を鍛えていた過去の自分に少しだけ感謝した。そんな状態に慣れてきた頃、周りを眺めた。どうやら海に向かっているようだった。少しして、左手に工場地帯が見えてきた。この先に、倉庫スーパーがあるに違いない。以前、彼女に行ってみたいとこぼしたことがあったか。また少したつと、駅が見えた。おそらく目的地が近づいてきている。ふと、空を見るとすでにオレンジ色に染まっていた。

    「やっぱり」
    「行き先、わかってた?」
    「周り見てたらなんとなくわかりますよ」
    「海、嫌いじゃないだろ。それとも地元ので見飽きた?」
    「そんなことないです、好きですよ。海」
    「ならいーじゃん。ほら、夕焼けもいい感じだしさ」
     三上と桐ケ谷は浜辺から海を見ていた。桐ケ谷の言うように、ちょうど太陽が水平線と溶け合っている様は、いい感じ、であった。さらに冬の海は夏のそれと違って、とても厳かに見えた。こちらの海の方が身近に感じられると三上は思った。
    それを少し眺めた後、三上は桐ケ谷に聞いた。
    「どうしてまた、海に?」
    「あー……」
     桐ケ谷は頭を掻いて、少しだけ言葉を濁した。
    「なんか、今日ちょっと暗い顔してたろ?」
    「えっ」
     返ってきた内容が全く予想もしなかったものだったので、三上が思わず目を見開いた。気持ちが暗かったのは嘘ではない。今日は思ったように演奏する事が出来なかった。選考会まで日がないというのに、自分が求めているクオリティにまだまだ達していないような気がしていた。だから、金管のパート練習中も思い詰めた顔をしていたのかもしれない。実際、全員で合わせた時、桐ケ谷には「よかったじゃん」と言われたが、三上の心には入ってこなかった。なんて返したかもあまり記憶がない。焦りから苛ついていたのかもしれない。
    「こないだの宮崎の件で、何か吹っ切れたのかと思ってた。でも最近は、前に戻っちまったような気がしてさ。何か悩んでんのかなーとか思って。まあ、同じオケの金管パートの仲間だし。何か気分転換にでも連れ出すかなーと思ったんだよ。今日の帰り際、赤羽も気にしてたし」
     まあ、あいつはお前に聞いてみるつもりないって言ってたけど。と桐ケ谷は付け加えた。それを聞いて、三上はどっと情けなくなった。桐ケ谷と赤羽がそうなのであれば、刑部と香坂だって同じように思っているに違いない。あの先輩たちは、そういう人たちなのだ。宮崎の一件で、みんなには随分と心配をかけたと思っている。あれと今回では心配の内容が違うにしろ、また同じような目にみんなを合わせていると思うと居た堪れなかった。
    「すみません……俺、また周りが見えてなくて……。今日のパート練の桐ケ谷さんのアドバイスも雑な返答をしてましたよね」
    「いや、俺のことは別にいいよ。それに、俺が良いんじゃねーのって思っていたってお前の中では望むところまで到達してなかったってことなんだろ。いいんだ。お前がストイックなやつだってのもわかってるからさ」
     ただ、と桐ケ谷は続ける。三上は桐ケ谷の方を見た。十二月の風が桐ケ谷の少し長い髪を掬い取って、駆け抜けた。
    「その目標に進む過程でお前がただ苦しんでいるだけなら、それは違うと思う。そりゃ、世界目指そうって言ってんだから、そんな甘いことを言えるわけでもないけどさ。やっぱ楽しんでやらないと、しんどいなって思うわけ」
    「それは……」
     三上は桐ケ谷の演奏姿を思い出した。彼はいつも楽しそうに自信満々にトランペットを鳴らしている。クラシックも良いが、やはりジャズが好きだと、いつか聞いたことがある。前に、ウロボロスでの演奏の動画を見せてもらったが、その中にいる桐ケ谷もやはり心から楽しそうに音楽を奏でているように見えた。
     いつかの本番前、いつものように緊張している三上のもとに、桐ケ谷がパンを差し入れたことがあった。演奏前に食せないから、遠慮するというと、じゃあ演奏後に、とメロンパンを残しておいてくれた。さらに、自分は演奏前に何か食べておかないと体力がもたない、と言っていた。その姿から緊張の色は一切見えなかった。まるで、これから練習に行くとでもいうようにリラックスしていた。実際、その日のコンサートに限らず、どのコンサートでも、桐ケ谷は活き活きと楽しそうに演奏をしていたように見えた。それは彼の音からもわかった。そんな桐ケ谷を三上は尊敬しているし、音楽に対する姿勢を羨ましいと思っている。あんなふうになれたなら、どんなにいいだろう。そんなふうに思っている人物から言われる言葉には胸に刺さるものがあった。
    「……とまあ、説教みたいになっちまったけどさ。これはあくまで俺の考えだし、お前が何か悩んでいるのかもっていうのも、俺の妄想かもしれない」
     桐ケ谷は三上を見る。そして、三上が言葉を発する隙さえ与えてくれなかった。
    「だから、聞き流してくれて構わない。俺はお前とここに来たかった。んで、お前はそれに巻き込まれた。そういうことで」
     そう言って、桐ケ谷は笑った。その屈託ない笑顔があまりにも眩しくて、三上は何も言えなかった。桐ケ谷は三上から夕焼けに視線を戻した。それからふたりで黙って海を見ていた。もうすぐ、夜が来る。

     しばらくして、あたりが暗くなってくると桐ケ谷が三上の肩を叩いて「そろそろ帰ろう」と言った。近くに停めているバイクへ向かう。三上は桐ケ谷の後に続いた。桐ケ谷が三上にヘルメットを投げた。それをキャッチした三上は支度中の桐ケ谷に向かって言った。
    「ありがとうございました。俺、頭冷やせました。でも、俺は俺のやり方があるなって思うし、多分それは変えられない、と思います」
     桐ケ谷のようになりたい、それは本心だ。でも、今の自分だって今まで自分が積み重ねてきた先にあるものなのだ。それは先日思い知ったばかりだ。だからきっと、うまく付き合っていくしかないのだろう。
    「だけど……桐ケ谷さんのいう通り、楽しむことを忘れていました。俺がこのオケでやりたいこと、やりたい音楽を見失っていました。いくらコンクールだからって、それを忘れたらだめだって。気付かせてくれたのは桐ケ谷さんです」
     しっかり自分の目を見つめて言葉を紡ぐ三上の顔には先ほど桐ケ谷が感じたような暗さはもうなかった。そんな三上を見て、桐ケ谷は口角をあげる。
    「すげーいい顔になってんな。赤羽も安心するな」
     俺は何もしてねぇけど。そういった桐ケ谷を笑いながら、三上はヘルメットを被った。
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    ゆな୨୧*

    TRAINING!三上と桐ケ谷
    !三上カドスト未読あり
    !イベスト、桐ケ谷カドストバレあり
    !先輩と後輩的な感じ。二人ともコンミスのことが好き。
    ガーネット・スター「よぉ」
    菩提樹寮の玄関で三上を呼び止めたのは桐ケ谷であった。先程、木蓮館で別れた以来だった。
    「どうしたんですか」
    「お前、この後予定あったりする?」
     桐ケ谷が立つ傍らには、彼の愛車があった。三上も時々洗車を手伝ったりしている。
    「予定といっても……まあ、練習はしようと思ってましたけど、それくらいです」
     三上は桐ケ谷の方を見て答えた。三上はそんなことを聞いてくる桐ケ谷の意図が読めなかった。
    「そっか。じゃあ、今から付き合えよ。荷物置いて、もう一度ここに集合」
    「え、いきなりなんですか」
    「こいつ走らせようと思って。お前も付き合え。ほらほら、早く」
     桐ケ谷は三上の肩をポンと押して、急いで支度しろと目で訴えた。三上は訳が分からなかったが、こうなった桐ケ谷は自分が何を言っても聞いてくれないような気がして、渋々荷物を部屋へ置きに向かった。幸い、他のメンバーに顔を合わせることなく再度玄関へ戻ることが出来た。何か聞かれたときに、この状況を説明するのはひどく面倒に思った。玄関へ戻ると、桐ケ谷がすでにフルフェイスのヘルメットを被り、スタンバイをしていた。三上に気づくと、来たな、と言って座席の方に視線をずらした。
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