恋故の疾苦「お前の『愛の挨拶』はそういう解釈なのか?」
すぐ後ろから竜崎が放った言葉は、朝日奈の肩をビクッと震わせた。
「俺が知っているのは…清らかさと鮮やかさが備わっていたと思うが。」
朝日奈は、忠実に竜崎の言葉を守っただけ。
-泣いている暇があるのなら、練習するんだな-
今日は、竜崎が遠方のバイオリン講師のところへレッスンを受ける日だった。
朝から一度も会えなくて寂しくて…
「何を思って弾いていた?」
一向に朝日奈は、竜崎の方を振り返らなかった。
「はぁ……」
少しの沈黙を破ったのは、竜崎。
「後ろ…向くなよ。」
言葉とともに、包むように背後から抱きしめられた。
背中から伝わる竜崎の温もりと、鼓動が朝日奈を落ち着かせた。
「お前が求めているのはこういう事だろう…寂しかったのか?」
涙を見せないように俯き加減に首を振ると、竜崎は彼女の頭に顎を乗せる。
「全く…泣く暇があるなら練習しろとは言ったが…」
左の隅にある鏡で、朝日奈の様子を伺いながら続けた。
「普段頑張っている姿を見ているんだ。心が弱っているときにまで練習しろとまでは言わない。」
ほら、こっち向け。
小声で聞き取れるか聞き取れないかの言葉に、朝日奈は顔を竜崎の胸に埋めた。
ー終ー