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    akasi_gennshinn

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    akasi_gennshinn

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    WEBイベで出したいオメガバ小説の序章
    片想いαハイゼンとストレスでΩ堕ちしたカヴェの話、肉体関係のみ
    (α時代のカヴェがオメガ抱いてた描写あり)

    #アルカヴェ
    haikaveh
    #R-18

    ―1―

    ガシャン、と割れるガラスの音。

    カーヴェの足元に写真立てが落とされた。木枠を恐る恐る拾い上げてみるとそこには在りし日の幸福に微笑む父と、母と、それから幼い顔をした自分。

    ものが壊された時にはどうすれば良いか、その答えは彼の骨身に染み付いていた。カーヴェは靴底がガラスを踏むのも厭わず駆け寄り、目の前の緑色の布地―学者の母がよく履いていたロングスカートに短い腕を回して懸命にしがみ付いた。

    「ッかあさん、やめて、やめてよ!」
    「離しなさい、カーヴェ!」
    「だいじょうぶだから、ぼくが、かあさんがこんなことしなくてもさみしくないようにがんばるから…っ!」
    「っ、あんたに私の何がわかるって言うの!」

    母はカーヴェの小さな体を突き飛ばした。へたり込んだ彼の肩に強張った細い指が食い込む。

    「ッ!」

    見上げたカーヴェは息を飲んだ。自分によく似た母の顔、目周りを赤く腫らし、結い上げた髪をほつれさせた彼女の顔にはありありと憔悴の色が滲んでいる。窓辺に飾った花にさえ笑顔を振りまいていた、美しかったあの頃の姿は見る影もない。

    「その髪も、その目もッ…!全部私で、あの人のものなんかこれっぽっちも残ってやしないあんたに…私の苦しさが消せる訳ないじゃない……!」
    「かあさん……」

    かつて怪我をした小鳥を連れ帰ったカーヴェの優しさを、母は父譲りの美徳だと言って褒めてくれた。だが今はその気遣いが仇となり、行き場を無くした彼女の痛みを解き放ってしまったのだ。
    ならば甘んじて受け止めよう。次に言われる悲痛な叫びも、もう既に自分は知っているのだから。

    「あんたなんか……ッあんたなんか、産まなきゃ良かったんだわ!」

    体を目一杯固くしたカーヴェの喉はヒュ、ときつく締まった。

    〜〜〜〜

    「っおわッ!」

    息苦しさと恐怖で弾けるように目を見開いた瞬間に、底光りする翡翠色が二つ。
    夜闇の中でぼやけた顔は、よく見れば見知った同居人のものだった。心臓に悪いにも程がある。

    「魘されていたので鼻を摘んでみた。具合でも悪いか。」
    「……」

    汗で張り付いたリネンが気持ち悪い。同居人の男―アルハイゼンは手を伸ばし、呆然とするカーヴェの目元に掛かる乱れた前髪を払った。

    包まれているのは嗅ぎ慣れた匂いの寝具だが、ここは自身の私室ではない。肘枕をついて隣に寝転がる彼は裸である。ついでに自分も。
    カーヴェはここで漸く寝落ちる前の自分達がアルハイゼンの部屋で体を交えていたことを思い出した。同時にそのいかにも好奇心故に起こしてみましたというような、つとめて不遜で沈着した声色に苛立ちが込み上げる。恐怖と緊張で息が詰まったのは事実だが、物理的に呼吸出来なかったのは此奴の仕業だった。恋仲でないとしたって仮にも同衾していた相手が魘されていたのだ、もう少し起こし方というものがあったんじゃないだろうか。

    とはいえ彼のお陰でこちら側に戻ってこれたのもまた事実である。心中のむかつきを全て出し切るかの如く、カーヴェは大きく溜め息を吐いた。寝起きで混乱していた思考も纏まりつつある。……大丈夫、あの頃の母はもう居ない。あれは父を失ってすぐの一番不幸だった頃の母だ。彼女は正気に戻った後、ちゃんと自分にあのことを謝ったし、この国で文字通り厄落しをしていった彼女は、今はもうフォンテーヌで愛する人を見つけ幸せになっている。

    「……昔を思い出していた。前に言ったろ、君と再会する前、無一文で食うに困って自分で作った草原核を食えないか試したことがあるって。」
    「砂漠で煮た水キノコンより青臭いと言っていたか。」
    「その頃の夢さ。何とかまともな食べ物にありつけたのは良かったけど、最終的に僕はポテトボートに乗ったヒルチャールに襲われて、熱々のチーズの海を泳がなきゃならなかったんだ。」
    「大建築士様は夢の中でも騒々しいことだ。それくらい疲れたなら、明日は現実世界で分別のついた落ち着きのある振る舞いができそうだな。」

    話す必要もないので適当に誤魔化せば皮肉で十帰ってくる。本当にこいつは年縞者をなんだと思っているのだろう。

    〜〜〜〜

    スメール人は夢を見ない。そんな定説が崩されたのはつい最近、教令院の大賢者アザールを筆頭に権威に溺れた賢者達が不敬にも現草神クラクサナリデビを幽閉し、新たな神を作ろうとした大事件が発覚した後のことである。カーヴェが少しシティを離れている間に世の中は大きく変わった。草神が救われた事により統治体制が変化し、スメール人にとっては知識の生命線でもあったアーカーシャ端末は廃止され、絶大な権力を持っていた賢者達の半分は罷免され、同居人のアルハイゼンは自国を救った英雄一行の一人に数えられるようになった。
    カーヴェとしては、別に栄光を手に入れるチャンスを逃したことを惜しく思っている訳ではない。問題はアーカーシャ端末が無くなったことによる弊害、「スメール人が夢を見るようになった」の一点である。

    カーヴェはアルファ性の人間らしく、教令院時代から今に至るまで持ち得る才能を遺憾無く発揮して優れた建築を幾つもスメール中にうち建てた。妙論派の星として期待を背負って仕事をした分、日々の暮らしもとても充実したものであり、悠々自適な生活を送っているに違いない……と、スメール一の大建築家の名を恣にしている彼が世間一般に抱かれているイメージはこの通りだが、彼の人生の実情はそれこそ常人には耐え切れない程、泥臭い努力や懊悩の中で揉まれながら歩まれているものである。
    それでも以前ならば酒を飲んで寝さえすれば、どうにか自らにこびり着いた不安感からは一時的に逃げ切れていた。眠っている間は何も考えなくて良いからである。しかし先述の一件により夢が見れるようになった事で、カーヴェは夜な夜な悪夢に魘されるようになった。ある時は建設途中だったアルカサルザライパレスが死域に包まれ、駆除の為に破壊の限りを尽くされた夢、またある時は父が目の前で灼熱の流砂に巻き込まれて圧死する夢、そのまたある時は分かり合えた友だと思っていた男に己の全てを否定され、冷たい瞳で見下げられた夢を。
    夢の先でも苦痛な過去に追いかけられたカーヴェは、それでも対外的にはなけなしの虚勢を保てていた。だが唯でさえ転落続きだった人生にこの受難で、遂に肉体の方が過大なストレスに耐えられなくなってしまったらしく……なんと、自己防衛本能が働いてアルファからオメガに性転換してしまったのである。

    このようなケースは稀にだが確かに存在するらしく、体の不調を訴えたカーヴェを診た医者は理由をこのように推察した。曰く、自立して活躍する優秀なアルファとしてでなく、国の制度や己の番など色んなものから庇護されることに慣れているオメガとしてなら、心持ちが変わって精神に抱える負担も幾分減らしながら生きれると肉体が判断した、と。
    冗談じゃない。そうだとしたら今まで自分がアルファの人間として築き上げた信頼は、苦悩に耐え抜いてきた努力は、一体何処に向かえばいいのだ。オメガ性と記された診断書を渡されたカーヴェは憤慨し、診断を受けた直後に一つの結論を導き出した。自身が悪夢に精神を蝕まれたのは夢を見るようになったから、つまりはアーカーシャが無くなったせいであり、自らがアルファとしての矜持さえ捨てざるを得なくなった遠因は、憎たらしいあのアルハイゼンがもたらしたスメールの改革にあるのだと。

    〜〜〜〜

    「普段は君とセックスすれば夢なんか見ないんだけどな。」
    「元が性欲の強いアルファだ、並のオメガとの交わりを真似した程度ではヒートが治まりづらい時もあるのかもしれない。」
    「そんなもんなのか?…あ、」

    ここでカーヴェはある大事なことを思い出し、にやりと笑んだ。

    「そうだ君、まだ体力に余裕はあるか?」
    「問題ない。」
    「悪いがまだ、僕の体は満たされていないようでね。」

    カーヴェは後輩の彫像のような、完璧な肉体美を持つ体に己の胸を擦り合わせ、薄墨色の髪を分けて現れた耳に唇を寄せた。

    「……毎度毎度同じ男に腰を振り続けるのにも飽きただろう。どうだ、偶には僕が君を抱いてやろうか。」

    此奴の性感帯がここであることは把握済みである。囁く時は喘いで掠れた声が裏返らないよう、極力声のトーンを落とし、艶を持たせるように。
    今までに彼が抱いたオメガは、こうすれば皆一様に喜んだ。

    「……」
    「僕のサイズは男としてもアルファとしても恥ずかしくない。好奇心の強い君のことだ、乱れる僕の姿を見て、こっちの快楽にも興味が湧いたんじゃないか?」

    背骨の窪みを指でなぞり、引き締まった腰の固さを堪能した後は彼が唯一持つ柔らかさである尻たぶへ。しかし菊座に触れる直前、されるがままだったアルハイゼンはパシリとカーヴェの手を払い除けた。

    「誓って言えるが、俺は君のように無様に尻を掘られて喜ぶ趣味はない。」
    「ッ、君なぁ…」
    「それに俺は君で勃つが、君は俺じゃ勃たないだろう。」
    「ハッ、よく分かってるじゃないか。でも、だとすれば尚更疑問を感じざるを得ないよ。僕の性別が自分と同じだと知っていながら気持ちを捨てられなかった学生の頃の君も、好いた相手に望まれるなら役割なんて瑣末な違いだと……本当に一度もそう思ったことがないと言い切れるのか?」

    カーヴェは血色の瞳を怪しく歪めた。自分達が番関係、ましてや恋人でさえないにも関わらず性交に及ぶのは、自分を変えた責任をアルハイゼンに取らせる為だ。数ヶ月前に変異したばかりの体はまだ殆どがアルファの要素のままであり、ヒートを乗り切る為の諸々の薬が効きづらい。かと言ってアルファの精を貰うことなく発情を放置した場合のオメガに待ち受ける未来は狂死である。だからカーヴェは彼が長年温めていた自身への恋心を利用して、未だ周期が定まらないヒートが起こった際に彼に性の相手をさせている。彼はこう見えてまともな良識が備わっている人間だから、このことを金銭的生活的な面でのカーヴェへの貸しと同じ天秤には載せない。あくまで手綱はこちらが握れているのだ。

    だが惚れた弱みを握られて尚、臆せずにカーヴェが隠す物事の素を見抜けるのは、彼が選んだ優秀なアルファの本質でもあった。

    「医者から言われた言葉を繰り返してやろう。既にオメガに変異している君の体に可塑性はない。」
    「ッ、!」

    自身の中の浅ましい期待を見透かされ、ばっさりと切り捨てられたカーヴェが言葉を詰まらせた。

    「っ、だとしたってこっちを使う習慣を忘れなければ、アルファには戻れなくともそれに近い暮らしにいずれまた戻れるかもしれないだろ。」
    「まだそんな根拠も無い淡い希望に縋っているのか。呆れて物も言えないな。」
    「理解できなくて当然だ。アルファのまま出世して、スメールの英雄だなんて持て囃されている君には分かるはずが無い。破産した挙句オメガにまで堕ちぶれた僕の惨めさなんて!」
    「分かるよ。」

    何がだ、いい加減にしろ、と尚も噛み付く同衾相手の口をアルハイゼンは大きな手で塞いだ。

    「俺が君と交わって感じるアルファとしての強い支配欲求を鑑みれば、ついこの間までアルファだった君が未だ現状に折り合いをつけられず、抱く側に戻りたいと感じる気持ちは容易に理解できる。」
    「っなら、」
    「しかし発情した君が疼くのは、今はもう前ではなくこっちの方の筈だ。」

    アルハイゼンはもう片方の手でカーヴェの臍の下―未完成だが、確かに成長し始めている子宮の上に当てがい、くっと力を込めた。
    瞬間、カーヴェの下腹に感じ慣れた甘い痺れが走る。

    「ッあ、」
    「先程まで散々啼いていた癖にまだ物欲しげな顔をしているな、もしかして足りないと言いたかったが、元アルファの身では気が引けて言えなかったか?」
    「っ、ちょっと、きみ、他人の話を…ッ!」
    「今更恥じらう必要はないだろう。」

    そうなるように俺が躾けたのだからと、欲の煮詰まった低い囁きが吐息混じりに耳許に落ちる。
    ブワリ、と全身に汗が滲んだ。

    「ぅあ、っ!」

    怯んだカーヴェの肩がぐいとシーツに押し付けられ、アルハイゼンはそのまま彼の上に乗り上がった。抱き込むようにして捉えた体を弄り、熱い掌を脇腹の滑らかな肌に滑らせ、掴み、行為で得た快楽を思い起こさせるように緩やかに揺さぶる。

    「んッ、ん、やめ、」

    先程のカーヴェの所業を繰り返すように蠢く指先は尻を撫で、不埒にもすぐに蜜口の方へ延ばされた。固い指が侵入してにゅち、と耐え難い音がすると共に、寝落ちる前に散々注ぎ込まれたものがカーヴェの中からたらりと溢れた。

    「君が、くだらない悩みから解放される術を一つだけ教えてやろうか。」

    舌を絡める濃厚なキスを交わし、アルハイゼンは蕩けたカーヴェの顔の両横に手を付いて真上から見下ろした。

    「孕めないアルファなら、孕めるオメガになるまで俺が仕込み続ければいい。誰が君のアルファか体に刻んでやる。」

    カーヴェの背筋がぞくりと粟立つ。
    ぎらりと光る翠眼に、体は竦んで動けなくなる。アルハイゼンは彼を組み敷く雄として、己が獲物を前にちょっとやそっとの捕食では寝静まらない獣性を剝き出しにしていた。
    これは非常にまずい状況だ。このままでは流されてしまう。

    「や、だって、いってるだろうッ!」

    頭の中で鳴り響く警鐘に逆らわず、カーヴェは渾身の力で厚い胸板を突き飛ばした。

    「っ!」

    向こうもこちらが我に返っていたのは予想外だったのか、アルハイゼンの体はぐらりと大きく傾いだ。その隙を逃さず彼の下から体を引き抜き、どうにか寝台の端から滑り落ちた。

    「……興が醒めた。言ったはずだ、これは医療行為だと。僕は君の番になるつもりも、ましてや君の子供なんて産んでやる気はさらさら無い!」
    「……」

    履き違えるな。大嫌いな彼に抱かれてやってるのは、自分達の間で考えられる全ての関係がこれ以上悪化しようも無い程破綻しているから、恵まれた体躯とそれに見合った陽物を持つこいつが、自身の肉欲を都合良く満たしてくれる存在として非常に優秀だったから、それ以外にない。
    必死の思いで睨むカーヴェに、身を起こしたアルハイゼンは物言いたげに双眸を鋭く細めた。カーヴェは萎えた足腰に鞭打って立ち上がり、床板に散らばった自身の服を慌ただしく掻き集めた。

    「今日は君から盛って来たんだから君が片せ。僕はシャワーを浴びたらもうこの部屋には戻らない。……絶対に着いてくるなよ。着いてきたら強姦罪でマハマトラに突き出してやる。」
    「俺の家に居ることを誰かに知られて不都合に感じるのは君の方では?」
    「うるさい!」

    足を踏み鳴らしてカーヴェは部屋を出ていき、ばたん、と木製の扉が乱雑に閉められた。
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