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    徳田ネギヲ

    @tokudaSAN0

    ごった煮。そのまま流すのちょっとどしよかな…ってやつを置いてます。最近はスタバレの主♂×セバスチャンで幻覚をみている

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    徳田ネギヲ

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    【ス夕八゛レ】ディメトリウスとセバスチャンの話 弊牧場主もでます
    とてもとても蛇足な気がする…でもなんとかこうならんかなこうであってほしいなっていう願望を込めました…二次創作ってオタクの願望でェ……
    これは幻覚です弊谷ではこうみたいなアレです何も正しくないです あと専門用語とか構成とかは軽く調べた程度の知識しかないんで間違ってたらスンマセ

    #StardewValley

    Comfort Zone1.Introduction

     ディメトリウスの胸は未来への輝かしい希望に満ちていた。「私たちはきっととても良い家族になる」、心からそう信じていた。
     もちろん、不安が全くのゼロだったわけではない。だからこそ、どうしたら新しい家族に自分を受け入れてもらえるかをよく考えたし、専門書も買って勉強した。そして根気と愛情さえあれば、どんな苦難だってきっと乗り越えられると信じていた。だってもう「家族」なのだから。そう、定義されたのだから。



    2. Literature Review

     結婚して三か月、ディメトリウスは未だかつてない難問に直面していた。

    「セバスチャン、大丈夫怖くないよ……、はあ……」

     この度伴侶となったロビンの連れ子、セバスチャンが、一向に自分に懐いてくれないのだ。今もまた、ロビンの陰に隠れるようにしながらこちらを窺っている。
     もう4歳になるにも関わらず、話しかけてもあまり喋らない子だとは思っていた。それが発達の問題ではなく、単に自身が警戒されているだけだと理解してからは、どう接すればいいのかが全くわからなくなってしまった。
     話しかければ逃げるし、口を引き結んだままニコリとも笑わない。興味を引きそうな玩具や菓子を買い与えてみても、近付こうとするとすぐに距離をとられてしまう。まるで野生動物だ。
     結婚に際して購入した「養父の子育てはじめの一歩」にも救いを求め、書いてあることは一通り試してはみた。それでも、今のところは期待した成果を得られていない。
     これには研究熱心なディメトリウスも頭を抱えざるを得なかった。

    「ロビン……私は彼のことがわからない」

     セバスチャンが寝た後、夫婦でその日あったことを話す時間にも、近頃は弱音が増えてきている。彼女の前で子供のことを悪く言うのはいけないことだと、頭では理解しているが、パートナーに自分の不安をわかってもらいたい気持ちが勝ってしまうようになった。

    「大丈夫、まだ慣れてないだけ。セビィは引っ込み思案な子だし、ちょっと時間がかかるんだよ」

     ロビンは快活で、おおらかな性格の女性だ。そこに魅力を感じたのも事実だが、今は彼女の寛容な言葉を苦々しく思う。

    「でも見ただろう? 彼にとって私は異物なんだよ。ただでさえ、エディプス・コンプレックスを抱えやすい年頃なんだ。落ち着くまでもう少し距離を置いた方が――」
    「ベイビィ、そう難しく考えすぎないで。きっと時間が解決してくれる。それに――もうすぐきょうだいも出来るから」
    「……、待った、今……なんて言ったんだい?」

     さらりと流すように言われ、一瞬その言葉の意味を呑み込み損ねた。――もうすぐきょうだいが出来るって?
     思い返してみれば、ここ何日か少し具合が悪そうにしていた。夜も断られることが続いていたし、何か女性特有の不調だろうと――正直そこまで深く考える余裕もなかったので――軽く考えていたのだが、つまりはそういうことだったのだ。
     ロビンを見る。彼女は少し気恥ずかしそうに、そして愛おしそうに、その下腹部を撫でた。

    「……本当に? ああ、ロビン! ありがとう!」

     脳内に立ち込めていた暗雲が一気に晴れた気がして、喜びと共に妻を抱き締める。
     ――いよいよ自分も“父親”になるのだ。彼に認めてもらえずとも。



    3. Survey

    3-1.
     ロビンの懐妊以降は、自然とセバスチャンに接する頻度が減った。引き続き気にかけてはいたが、身重な妻の世話の方が重要で緊急度の高い事柄には違いなかったし、セバスチャン自身、あまり構われない方が気楽そうだった。
     きょうだいができる、という母の言葉を、セバスチャンはいまひとつ理解できていない様子だった。しかし、母は今手助けが必要な状態にあるのだということはわかったようで、以前より手を焼くことも少なくなった。ロビンの言う通り、時間と新たな家族の存在が彼の心を氷解させたように感じる。少し前まで頭を悩ませていた問題は、意外にも簡単に解決した。
     ――これでようやく、“家族”としての第一歩が踏み出せる。

     ロビンに代わって行っている午前中の家事を終え、自分の仕事のためにラボに入る。今日は他所から取り寄せた生体サンプルの解析をする予定だった。
     ――そこに、小さな黒い影がある。
     セバスチャンが中に入り込んで、作業台の上に手を伸ばしていた。ラボには鋭利な器具に薬品など、子供には危険なものも置いてある。だからこそ、普段から中に入らないように言いつけていたはずだ。そもそもディメトリウスのテリトリーともいえるラボに、彼の方から近寄ることなど今まで無かった。見慣れない光景に思わず目を疑う。
     彼が伸ばしている手の先には、生体サンプルの容器が入ったコンテナがある。彼はそれを、元あった場所へ押し戻そうとしているようだった。
     
    「セバスチャン?」

     びくりと小さな背中が跳ねる。その拍子にコンテナが勢いよく押され、ガラス器具の棚にぶつかった。ガシャンと大きな音がして、転がり落ちた器具が小さなガラス片となり、床のタイルの上を四方に散らばっていく。

    「触るな!」

     叱責ではなく、危険への警告。コンテナではなく、砕けたガラスに。――そう言ったつもりだった。
     セバスチャンは一瞬硬直して、その後ぱっと弾かれたように駆け出した。そして真っ直ぐ自室に駆け込み、力強くドアを閉ざす。バタンと戸板のぶつかる音が、ロビンの丈夫な家を揺るがした。

    「どうしたの!?」

     騒ぎを聞き付けて、奥からロビンが顔を出す。事情を話すと、彼女は少し話してくる、とセバスチャンの部屋へ入っていった。
     咄嗟の事とはいえ怒声を上げてしまったこと、それがうまく伝わらなかったことに肩を落としながら、床のガラスを片付ける。壊れたのはシャーレが3枚にビーカーがひとつ、それと子供の信用がひとつ。
     コンテナの中身は無事だろうか。中の容器には、別の研究機関から送られてきたカエルが1匹と、比較用に湖で捕獲した同種のカエルが2匹、計3匹入っていたはずだった。
     カエルは、全て居なくなっていた。



    3-2.

    「――それで、どうしてパパのラボに入ったの? 危ないから入っちゃダメって知ってるでしょ?」
    「……でも、だって……カエルが、つかまってたんだ……」

     ロビンが泣きじゃくる彼から聞き出した顛末はこうだった。
     ラボの前を通りかかった時、コンテナの中にカエルが入っているのが目について、中に入った。狭い容器に閉じ込められて苦しそうな彼らは、きっとこの後ディメトリウスに酷い目に遭わされる――メスでばらばらに切り刻まれたり、薬品と一緒にビンに浸けられてしまう、アニメで見た敵のマッド・サイエンティストの部屋にそれがあった――そう思い、コンテナごと外へ持ち出した。全て逃がしたあと、コンテナを元の場所へ戻そうとしたら、ディメトリウスに見つかって、驚いてコンテナを強く押してしまった、と。
     
    「あのね。パパはセビィがケガするかも、だからガラスに触らないで!って、大きな声を出しちゃったんだ。セビィがラボのものに触ったから怒ったんじゃないの。でも、危ないから入らないって約束だったよね? それを破ったことについては、ちゃんとパパにごめんなさいしないとね」
    「……」

     どうにか泣き止ませることはできたが、セバスチャンは未だカエルのように膨れている。自分の言葉なら比較的素直に応じてくれるのに、今回はディメトリウス絡みのせいか、なかなか機嫌が直りそうにない。よもやアニメの敵役と重ねているとは思わなかったが。
     そこへ、ディメトリウスが駆け込んできた。

    「セバスチャン、あの中に居たカエルはどうした?」

     ――せっかくフォローしておいたのに、第一声がそれか、とロビンは肩を竦めた。

    「『湖に逃がしてきた』って」
    「なんだって……? ああ、なんて事を――!」
    「ちょっと、今やっと落ち着いたところなのに……!」

     息子を気にする素振りもないディメトリウスに、ロビンは少なからず憤慨した。抗議しようとしたが、しかしその訴えを聞く間もなく、ディメトリウスは再び慌ただしく部屋を出ていってしまった。

    「ああ、もう……」

     額に手を当てて、ロビンは呻いた。セバスチャンは再び険しい表情に戻り、ディメトリウスの出ていったドアを睨み付けている。

    「ねえセビィ……新しいパパのこと、そんなに嫌い?」

     これまで敢えて避けてきた質問が、口から溢れた。
     セバスチャンは一瞬振り仰ぎ、しかしロビンの顔を見て、一度開いた口を再び閉ざした。そして少し考えたのち、ぽつりとロビンに尋ねる。

    「……どうして、あのひとをつれてきたの」
    「……セビィにとってのパパになって欲しかったから。本当はとっても優しいのよ? あんな風に、他の生き物に一生懸命になってしまうことはあるけどね。カエルを捕まえていたのだって、ひどい目に遭わせるためじゃないと思う。ママはパパのお仕事の詳しいことはわからないけど、むやみに傷つけたりしていないのはわかる。セビィが心配していたようなことはしてないから、安心して」
    「……」
    「セビィと、ママと、パパ。それから生まれてくるあなたのきょうだい。4人で、素敵な家族になるのがママの夢なの。セビィは、そうはなりたくない?」
    「……ん……、……」

     再び口ごもる。何か言いたいけれど、思いを表現するための言葉が見付からないのだろう――ロビンはそう判断し、次の開口を待った。

    「…………わかった」

     表現を探すことを諦めてしまったのか、思いの外短い言葉が零れ出る。――まだ4歳だ、無理もない。

    「ありがとう。わかってくれたのね。とってもいい子」

     俯く我が子を精一杯抱き締め、感謝の言葉を述べる。セバスチャンは少しくすぐったそうに、腕の中で身動いだ。

    「じゃあ、パパの様子を見てくるね。戻ってきたら一緒にごめんなさいしよう」
    「……うん」

     ドアの開閉もおざなりに、ロビンは急いでセバスチャンの部屋を後にした。あの様子だと恐らく外へカエルを探しに出たのだろう。

     ロビンが外へ出たあとの、静まり返った部屋の中。
     セバスチャンは、静かに扉を閉じた。



    3-3.

     外へ出てみると、ディメトリウスが湖の側で地面に這いつくばりながら茂みの中を覗いていた。少々の目眩を感じながら、ロビンはその背後に立つ。

    「息子よりもカエルの心配?」

     振り返ったディメトリウスは、いつになくむくれた顔をしていた。頬に付いた泥を拭うこともせず、また別の茂みを掻き分ける。

    「仕方ないだろう――今は私から彼に何を言っても、火に油だ」
    「もう注いだ後だったけどね……それに、あなたがまず訊いてきたのはカエルのことだった。どうしてセビィよりカエルを優先したわけ?」
    「……この谷のカエルは自力で他所へ行くことはできないだろう? 他所のカエルもそうだ、この谷に来ることはできない」
    「――それが何?」
    「双方に行き来できない環境で育った個体群は、分類上は同じであっても、それぞれが独立した種であると言える。そこへ別の遺伝子情報が混入してしまうと……何が起こるかわからない。何も起きないかもしれないし、病気への脆弱性が発現して突然全滅するかもしれない、あるいは強靭になることで数を増やし、他の種を脅かすかもしれない――何より、その環境に元いた種は、やがてその混血に淘汰される。だから生物を安易に逃がしたりしてはいけないんだよ」

     子どものことはたった二言なのに対し、生物のこととなるとこの情報量。その情熱が少しでも、セバスチャンに対して向けられなかったことを悲しく思う。

    「それは大変なことなんだろうけど……でも」
    「目視でいい、君も探してくれないか。脚に黄色のタグが付いているカエルがいたら教えてくれ、捕まえるのは私がやる。せめてその一匹だけでも見つけられれば構わない、他のは元々この地に棲んでいたものだから――ああ但し、無理はしないでくれ、くれぐれも」

     深い深い溜め息をひとつついて、ロビンは捜索に加わった。どうやら夫は、この問題が解決するまでまともに話を聞くつもりはないらしい。家事は率先して代わる癖に、カエルの捜索は一緒にやらせるあたり、彼の中ではよほど緊急度の高い事なのだ。
     雨でも降れば鳴き声で居場所の見当も付けられるのだが、今日は陽射しが強く、カエルの姿は見当たらない。普段カエルのことなど気にも留めないから、どんな場所を好むのかもよく知らなかった。

     ――セバスチャンならどこへ逃がすだろう。

     ディメトリウスとは逆方向へ進みながら、息子の行動パターンを思い起こす。あのコンテナを抱えたままなら、そう遠くへは行かないはずだ。島にかかる桟橋よりも手前、かつ水と岸の境の辺り。何か手掛かりでもあればと、茂みの裏を覗き込む。

    「――ねえあなた、これ……」

     ロビンが発した声を聞いて、ディメトリウスも駆けつける。
     黄色のタグが、ぽつんと草むらの中に落ちていた。カエルの姿は、どこにも無かった。



    4. Results

     ――あれから数年。
     結果としては、何も起こらなかった。この谷のカエルたちに、外見上有意な変化は今のところ見られていない。子孫を残す前に、サンプルが死んでしまったのか。あの後もくまなく探したが、やはり発見には至らなかった。
     但し、次世代の遺伝情報の変異は現在もわからないままだ。爬虫類を例に挙げると、腹部の鱗の数など、目視だけでは確認しにくい差異も存在する。解析でも出来ればわかることもあったかもしれないが、ディメトリウスの持っている設備では、カエルが持つ17億ともいわれる塩基対を解読するには不十分だった。
     もし交雑してしまっていれば、この谷の個体群は緩やかに交雑種に駆逐されていくのだろう。道端でカエルを見かける度に、小さな喪失感を覚えるようになった。
     あの後、ロビンからはセバスチャンにこの話はしないようにと念を押された。何も起きなかったのなら責める必要もない、彼の反抗心を煽るだけだから、と。
     生物の扱いについては、「元いたお家があるのだから、これからはそこに帰してあげようね」と説明して、彼も納得したらしいので、ロビンの言う通りそれ以上は何も言わなかった。タグは自然に外れたのか、それともセバスチャンが外したのか、それはわからないままだ。
     あの事件があってから、以前よりも彼がラボに近寄らないよう気を配った。彼自身、ラボに見向きもしなくなったものの、彼の興味を引きそうなものはより慎重に隠すようにした。ディメトリウスにとって、それは重要な仕事だ。再度同じインシデントを引き起こさないため――何より、仕事の邪魔をされないため。

     そしてその間に、娘が生まれた。
     不思議なものだ。自身の血を分けた子どもはこんなにも愛おしいものか。自分に似た肌の色、自分に似た、それでいて愛する妻に似た顔。全ての生物に備わっているベビースキーマも、当たり前に行われる手掌把握反射も、自分にとってはたまらなく特別で、愛おしかった。
     一方で血を分けていない子どもには――何の感情も抱けなかった。
     たった一度の過ち、それも子供の無知と誤解が引き起こしたものだ。今となってはそれほど怒りもない。ただの事故のようなものだったと思っているし、彼のことは養父として自分なりに心配もしている。出来ることなら幸せに暮らしてほしいと思う。

     ただあれ以来、諦めてしまったのだ。
     あの子を、理解しようとすることを。



    5.Discussion

    「――自分がバカなことをしたんだってことくらい、今ならわかる。ディメトリウスだって、別にオレのことをそこまで憎んでた訳じゃなかったと思う。だからこそオレも、母さんに嘘をついてまで、迎合しようと努力はした。けど、あからさまに蔑ろにされたら腹も立つだろ。母さんには悪いけど、あいつが来た時点であの家はオレのいるべき場所じゃなくなってたんだ」

     部屋に置かれたカエルのテラリウムに霧吹きで水を吹き掛けながら、セバスチャンは一連の話を終えた。
     彼が持つ家族へのわだかまりを詳しく知りたくて、ルーカスはここのところ当事者に話を聞いて回っていた。ディメトリウスに、ロビンに、そして最後に伴侶であるセバスチャンに。
     ディメトリウスには洞窟の件でも世話になっているし、谷へ来たばかりの自分をよそ者と警戒することなく朗らかに接してくれたので、実のところ住民の中でも仲が良い方だった。セバスチャンから、ディメトリウスにそんな一面があると聞かされた時には耳を疑ったくらいだ。

    「――そっか。聞かせてくれてありがとう」

     実態があまりに複雑であることに、心中で頭を抱える。当事者の誰もがどこかで判断を間違えて、拗れたままここまで時間が過ぎてしまっていた。できることなら、未だ彼の心に影を落とすこの問題を解決できたらとここまで話を聞いてきたが、下手に介入すれば更に拗れてしまうのは明白だった。
     彼が今愛でているそのカエルも、彼の手によって交雑されてしまったものかもしれないなどと聞いたら彼はどう思うだろう。そんなことを考えあぐねていると、不意にセバスチャンが口を開いた。

    「こいつらは――どっちだろうな。交雑種か、固有種か」

     予想だにしない発言が飛び出して、思わず喉が詰まる。

    「知っ……てたの」
    「言っただろ、『バカなことをした』って。あいつは隠してたつもりかもしれないけど、マルに繰り返し言って聞かせてたのは嫌でも聞こえてた。『他所から連れてきた生き物は絶対に別の場所へ逃がすな』ってしつこいくらいに言ってたからな。ずっとオレへの当て付けかと思ってたけど、最近になって――こいつらを保護してからそのことを思い出して、なんとなく、理由を調べたんだ」
    「そう……だったのか、君は彼らに特別感情移入してたから、そんなことを知ったらショックを受けると思ったよ」
    「初めて知った時はさすがに凹んださ。ただ、ディメトリウスが言うような種だとか遺伝子がどうのっていうのは人間の考えることで、こいつらにとってはどうでもいいことだ。オレはこいつらが普通に暮らせていればそれでいい。……逃がしたやつだけは、本当に可哀想なことをしたと思う。もしオレのしたことが悪い方に働いて、いなくなったり増えすぎたりしてたらもっと自分を責めてたかもな……そういう危険に晒したって点においては反省してるし、二度とすべきじゃないと思ってる」

     後悔、親愛、慈しみ――そんな視線を向けられた2匹のカエルは、セバスチャンの心中など知る由もない。ただ葉から滴り落ちる雫を頭で受けて、満足そうに目を細めている。

    「昔から自分と似ているとは思ってたんだ。雨が降ったら外に出てくるところとか――固有種なら『外来種に脅かされている』ところ、交雑種なら『本当の居場所がない』ところなんかはよく似てる。まあ、どっちにしろ原因を作ったのはオレだけどな。自分のことだって――そうだろ?」

     そう言ってセバスチャンは自嘲気味に笑った。
     咄嗟にそんなことはない、と言いかけて、喉元まで出かかった言葉を間一髪飲み込む。彼の湛えるその笑みは、失望でも自責でもないと気付いたからだ。――観念、とでも言うべきか。
     であれば、それを否定する言葉など慰めですらない。自力でここまで来れているのなら、介入も野暮なだけだ。
     自分が彼のためにできることは、ひとつだけ。

    「居場所ならもうあるさ。君も、彼らも」
    「――そうかもな」



    6.Conclusion

    6-1.

     月曜日。
     ディメトリウスは公園に向かっていた。夏のこの時期は、少し町に近いエリアでの生物調査を主に行っている。ヒトの手の入れられた環境とそうでない環境では、見られる種類や生育状況などにも差が発生するためだ。この公園は手付かずの自然とも隣接しており、境界として都合のよい立地となっている。
     つい最近までは公民館にまで生物の侵食があったが、そちらは綺麗さっぱりなくなってしまった。ルーカスが一役買ったとのことだったが、菌類やコケ類の採取ができなくなってしまったことは悔やまれる。もちろん公民館が復興したことは、住民として喜ばしいことではあるけれど。
     いつものように町へ下りる坂を下っていると、向こうから黒い人影が上がってくるのが見えた。この暑い最中に黒い服を纏った彼は、やはりセバスチャンである。毎週ロビンに顔を見せに来ているが、家を出てからはまともに会話もしていない。そんな必要も用件もなかったし、あちらだって避けて通っている様だったから、特に気にも留めなかった。
     そんな彼が、今日は向こうから近づいてくる。
     自分の周囲の空気がひりついたような気がして、ディメトリウスは顔を顰めた。表情に出てしまった警戒心を慌てて収め、努めて普段通りに振る舞う。

    「――どうした、何か用か」

     セバスチャンもやはり普段通り、無表情を崩さないままだった。彼は手に持っていた紙袋を示した。

    「別に。ルカから差し入れがあるから、家に届けておくって報告しに来ただけだ。皆で食べてくれって」

     広げて見せられたその中には、よく熟れたモモと、つややかなイチゴが入っていた。時期外れだが、適切な温度管理がされた温室で育てられたそれらは、どちらも一級品である。自分とロビン、マルの大好物のことを、ルーカスはよくわかっている。

    「そうか、わかった――ああ、これは素晴らしい。彼にはよく礼を言っておいてくれ。いつも感謝していると」
    「わかった、伝えておく」

     ――それだけ。それだけ言うと彼は再び山の方へ向かって歩いていった。
     この短いやりとりに何の意味があったのか。たったそれだけの報告を、わざわざ自分に伝えに来た意味は何なのか。
     理解できない。ただでさえ他人の考えていることというのは難解すぎるのに、セバスチャンはそれが顕著すぎる。
     ――いや、もういい。すでに諦めたことなのだ。彼だって理解されたいなどとは思っていないだろう。父親であることを、諦めてしまった自分に。



    6-1'

     月曜日。
     セバスチャンは実家に向かっていた。歩いてそうかからない距離ではあるが、それでも顔を見せてやれば母の表情は綻ぶので、毎週の習慣としている。今日はルーカスから、温室で採れたモモとイチゴを持たされていた。今度サイロを増やすから、ロビンによろしく言っておいてほしいとの言付けも預かった。時々、ルーカスは自分より家族と仲が良いのではないだろうかと思うことすらある。伴侶と実家の仲が良好であるに越したことはないが。
     公民館前の高台に差し掛かると、ディメトリウスが奥から歩いてくるのが見えた。今の時期は公園の噴水周辺を調査しているようで、いつもこの時間帯、この近辺で姿を見掛ける。
     以前は声をかけるどころか、なるべく近くを通らないようにさえしていた。こちらにその気が無くても、向こうから声を掛けられることもある。その内大半は小言だったため、幾度となく苛つかされたものだ。
     今日は何となく、避けずに行った。思い返せば、実家を出てからはろくに会話もしていなかったから。
     ディメトリウスはセバスチャンの姿を認めると、一瞬幽霊でも見たかのような顔をした。それからすぐに姿勢を改めて、いつものように尊大な態度で向き合う。自分に対してだけはいつもこうだ。なんというか――“厳しい父親”であろうとしているような。

    「――どうした、何か用か」
    「別に。ルカから差し入れがあるから、家に届けておくって報告しに来ただけだ。皆で食べてくれって」

     果物の入った袋を目の前で広げて見せる。よく熟れたモモと、つややかなイチゴ。時期外れだが、ルーカスの牧場でとれたもの。どちらも彼が手塩にかけて育てた一級品だ。

    「そうか、わかった――ああ、これは素晴らしい。彼にはよく礼を言っておいてくれ。いつも感謝していると」
    「わかった、伝えておく」

     ――それだけ。ディメトリウスと別れて、実家への道を急ぐ。背後から戸惑っているような気配を感じて、少しだけ胸のすく思いがした。
     あの時タグを外して捨てたのは自分だと打ち明けるには、まだディメトリウスの態度を許しきれないでいる。
     プラスチックの板を足枷のように引き摺って逃げようとするカエルを、そのままにしておけなかっただけだった。その後何年も受けてきた不遇は足枷のように重く、これまでの人生について回った。
     今更打ち明けたところで、何がどうなるわけでもない。過ちが消えるわけでもなければ、仲の良い家族になるわけでも、それを望んでいるわけでもない。こちらの家に戻る予定も一生ない――考えたくもないし、ルーカスを見るに考えるだけ馬鹿らしい。だから、別にこのままでも問題はないのだ。
     それでも、きっといつかはそうした方がいいのだろう。あの日閉じ込めた小さい頃の自分を、出してやらなければならない。本当に安心できる居場所はもうあるのだから。 



     セバスチャンが家の前に差し掛かると、ガサリと側の草が揺れた。まだ年若いカエルが一匹、草の隙間からこちらの様子を伺っている。表情を緩めてしばし眺めていると、カエルはくるりと向きを変えて、湖に向かって跳ねていった。
     セバスチャンはその小さな背中を見送って、ドアノブに手を掛けた。



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     もちろん、不安が全くのゼロだったわけではない。だからこそ、どうしたら新しい家族に自分を受け入れてもらえるかをよく考えたし、専門書も買って勉強した。そして根気と愛情さえあれば、どんな苦難だってきっと乗り越えられると信じていた。だってもう「家族」なのだから。そう、定義されたのだから。



    2. Literature Review

     結婚して三か月、ディメトリウスは未だかつてない難問に直面していた。

    「セバスチャン、大丈夫怖くないよ……、はあ……」

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