灰色の男 3.5その頃、スヴォル街の街から外れた人気の少ない路地。球体関節が軋む音。機械人形が指関節を震わせて痙攣しながらコチラを見ている。損壊した身体ではうまくバランスが保てない様で、起き上がり崩れる動作を繰り返す。
その様子にヴィクターは怪訝な表情を浮かべた。
「なんなんでしょうね。この人形は...急に襲ってきたんですが...」
街の巡回を共にしていたアイザックに声をかける。ついさっき、彼の脊髄反射の一撃により文字通り人間で言う頭蓋に蹴りを喰らわせ、人形をここまで損壊させたのだった。
反応出来なかった自身に情けなさを感じたのか、いつもの調子が出ず、ヴィクターは真剣な面持ちをしていた。
首を鳴らしながら「さあ？」とだけ短くかえした。

とにかく報告と、アイザックはスマートフォンを取り出す。トドメを刺すべきかも悩みどころだったが、人形に尋問というのもおかしな話だった。受話器に耳を当て呼び出し音を聞きながら人形に近づき人間で言う頭脳、頭を踏み潰そうと脚を上げる。

人形は危険を察知したのか、上半身を翻して避けた。ブリッジ姿勢となりそのまま駆け出していく。まるで蜘蛛のようだとも思ったが、そのなにともつかない奇妙な動きに一種の不気味ささえ覚えた。あの損傷でもあそこまで機敏に動けるものかと

二人して呆然と立ちすくむ中、スマートフォンの呼び出し音だけがその場でこだましていた。