灰色の男⑩まだ辛うじて動く身体を無理に動かしていた。愛おしい人が眠る地下の棺まで重い足を動かした。棺を開け、美しい肢体が目に入る。
「起きる時間だよ。クリオネ」
男は愛おしく、眠っている美しいモノに語りかける。男の穏やかな声。美しい銀色の髪を撫でる。
そのまま、ずるりと男の身体は崩れた。
青空が彼女を祝福した。世界が彼女を彩っている。
彼女は睡眠から目を覚ますように目を覚ます。
その瞳の瞬きは空を映していた。
白く美しい女が目を覚ます。
らんらんらん。綺麗な声が教会内に鳴り響く。
少女がスキップするかのように、その教会から軽やかな足どりで出て行った。
世界が彼女を祝福するように、クリオネは
穏やかな顔で空を、街を眺めた。
「まぁ、いいお天気」
軽やかに、涼やかに
彼女は無垢な笑顔で街に、空に、笑いかけた。
男は満足だとその美しい姿を命の燈消えるその時まで眺めるのだった。
end
......
...
...
『街を蠢いていた機械人形たちが一斉に崩れ落ちました。
街はいまガラクタゴミの片付けに追われております』
甘い声の女が受話器越しに聞こえる。
室内にはタイプライターの音だけが響き渡っていた。
後ろでは街の喧騒と機会人形を片付ける音が聞こえた。
「そうか」
バニラのその声に、男は短く返事ををした。
「バニラ、すぐ戻って来なさい。君の紅茶が飲みたい」
『まぁ、かしこまりました。でもその前にセドリックおじさまとお話を...』
嬉々として返事をするバニラの言葉を最後まで聞くことはなく、キールは
受話器を置いた。
そして、タイプライターからキールは手を離す。
そのままアンティーク調の、重い革で出来た椅子に寄りかかると、
軋む音がした。
「起きたか」
キールの口元は笑みを浮かべていた。