灰色の男⑥とまとと安易なネーミングと陳腐なトマトのキャラクターの絵が描かれた缶が宙を舞った。
投げられた先はゴミ箱。見事投球は成功し、缶はホールインワンした。その綺麗なフォームに感嘆の声をロイドは漏らす。
「そろそろ帰るか?」
ディーゼルの声にセリカが怪訝そうに睨む。
「仕事かー」
「今日はないよ。」
ディーゼルのその言葉にセリカは驚愕。ロイドの後ろに隠れた。
「何もないで迎えに来たー???」
らしくない言葉に警戒の色が浮かぶ大声で疑問を口にする。
そう言われるとらしくないことをしているような気持ちになる。あまりの気まずさにディーゼルは頭をかく。
「おかしい?」
「おかしい」
即答だった。
「芸術家ってのも大変ですね」
ロイドはセリカを見つめながらそんなことを口にする。そして、ディーゼルは少し目線を逸らして笑った。
「ああ、まぁね」
「あ、ソニア」
その微妙な空気はセリカが見つけた意外な存在が呼ばれたことでなくなった。
セリカよりも小さい蒼い身体がそこにはあった。黒いベールに黒いドレス人の形を模った人形の様な姿のそれは、明らかに人ではない。セリカに向けて小さくて細い手を振っていた。
「ヴィクターのアホはいねぇようだな」
キョロキョロとヴィクターを警戒しているセリカにソニアと言われた子はコクコクと小さく頷く。
「ソニア、最近魂の取引はあったか?」
凄むようにソニアにディーゼルは問いただす。
ソニアは小さな笑みを崩す事なくこくりと頷いた。
ロイドとセリカが目に入る。とめどない焦燥感と苛立ちで、二人に吐き捨てた。
「そこにいろ!!」
「待ってください」
声に振り向くとロイドが自分の後ろを追っていた。呼ばれてディーゼルが足を止めている最中に乱れた呼吸を整えようと、肩で息をしている。
「待ってろつったろ」
「いや、うん。そうもいかなそうだから」
「お前。セリカを殺した俺を見たよな」
「ああ、あの行動は気に食わない」
「驚いてんだ。なんでそんななのに俺と普通に会話する?」
「俺にお前を責める資格がない。今も考えてるんだ。お前の事をどうするかって」
その言葉にディーゼルの顔には呆れた笑みが浮かぶ。
だが、こちらも時間はない。ディーゼルは踵を返して、教会へまた走り出す。
ロイドもそれ以降は何も言わずディーゼルの後ろをついていった。
廃教会が見え始め、さらに走るスピードを上げていく。
「ヘカテちゃんが負けるとは思わないけど...」
小さなディーゼルの呟きが聞こえ、ロイドはディーゼルの顔を見る。その横顔は険しかった。
キリキリキリと軋むような音が聞こえ、ロイドは肩に下げていたバッドを引き抜き、直感のまま振り上げる。人形はデカい千枚通しのような鋭利な腕をしていた。眼球目前まで迫っていたそれを払いのけてバッドで殴りつける。硬い音を立てて人形は倒れた。
ロイドは人形の腕を見て思わず息を呑む。
「まだだよ」
冷静なディーゼルの声。ディーゼルと向かい合う形で六体の機械人形がこちらを見つめていた。