それは穏やかな日だった。「さっきまでいたあの子は誰だい?」
鶴見くんとの盛り上がる会話もひと段落つきふと気になっていたことへの疑問を呈した。会話の盛り上がるさなかで私は構わず話し鶴見くんも答えていたが、月島軍曹から呼ばれ鶴見くんに視線で促され渋々といったテイで離れた、それまでずっと、鶴見くんの傍にいた若者がいた。身なりから見て上等兵。
「宇佐美上等兵です」
どうかしました?ときょとんと尋ねるような瞬きは少しあざとい。
「その上等兵は、どういう子なのかね?」
鶴見くんの傍にいる間中ずっと、そのウサミ上等兵は鶴見くんを見ていた。一挙手一挙足すべてをひとつも逃すまいとするほどに。熱いあつい眼差しだった。
鶴見くんを慕う部下は多いがあれ程熱烈なのは流石に珍しいだろう。
「私に愛を教えてくれた子です」
戦争では上官と部下の絆がより良い戦果を導く軍を作るのです。
鶴見くんがそれを考える契機に何かその上等兵がかかわっているらしい。端的に述べられたそれは私がもってくる銃火器を讃えるときと似ていた。
けれど。
その目が一瞬。鶴見くんはわかっているだろうか。
とても優しかったのを。
家内が私に、たまに向けてくるのに似た、目だった。
ウサミ上等兵の熱い視線をそのままにしていたのは彼からの愛を兵として使うためだと、言葉は語る。
けれども。
その愛がそんなものは関係なくただだだ嬉しいのだと、その目は語ったのだ。
「良かったね!」
鶴見くんの背中を叩き笑う。
技術者としては楽しいがともすればすぐ頭の狂ったことを言い出すこの子が、人並みの愛に生きていると知れたのだ。それを上官として何をも言うことはないが、人生の先輩として「良かった」と思う。
鶴見くんも、同じように笑った。
「海に沈んだ、か」
簡潔な訃報は詳細を語らない。
わかるのは鶴見くんが列車を切り離したおかげで同じように沈まなかった部下がたくさんいた、ということくらいだ。
そうして思う。
愛に生きた君のことを