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    ooxlll1

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    以前書いてた呪術師伏×一般人として生活している釘のお話。
    ちょっとだけ加筆修正した。釘の家族関連色々捏造してます

    両親はオカルトというものが嫌いだった。
    その手の番組が放送されれば嫌悪感を丸出しにしながらチャンネルを変えたり、ご近所さんでそういう所謂いわく付きのあれそれの話を振られては盛大な舌打ちと共に有り得ないと文句の一つ二つを添えて言葉を返している姿を幼い頃から眺めていた。

    そんなオカルト嫌いな両親に対して祖母は自らを呪術師と名乗り、お祓いだとか、それこそ幽霊退治等を行っていた。狭い田舎に住んでいた影響もあり、祖母の噂は皆に知れ渡っていた。その事もあってか母は一層祖母を嫌悪していた。
    だからお互い仲は険悪で、一緒に暮らしていた時はお互い干渉せず、万が一顔を合わせようものなら世界が終わるのではないかというくらい母の顔が凄いことになっていたのを覚えている。
    それに何度も祖母に対して小言をぶつくさ言っている姿も目に焼き付いている。
    故に野薔薇は悟った。
    自分が幽霊だとか、そういう物が゛見えている ゛という事は口が滑っても言ってはいけないと。
    そして小学校にあがった時に一度だけ祖母から教えて貰った゛呪術゛というものも心の内に秘めておかなければならないのだと。




    生まれた場所はクソみたいな狭い田舎だった。
    噂なんてすぐに広がるし、一つの噂は尾ヒレをつけて肥大化していく。
    そんな田舎を嫌った両親は私が小学一年になってから数ヶ月程経過した時私を連れて逃げるように田舎を去った。
    それからは自然と祖母とも縁が切れ、なんなら野薔薇が高校に上がる頃には両親も野薔薇を置いてどこかへ行ってしまった。
    もしかしたら薄々気付いていたのかもしれない。自分自身が祖母と同じ存在で、幽霊だとかそういったものに関わっているのだと。
    今となっては何故置いていかれたのか知る術は無いのだが。

    過去の記憶を脳裏で描き狭いアパートの一室でごろん、と寝転がりながら野薔薇は天井を眺めた。
    切れかかった電灯に舌を打ち、野薔薇はカーテンの隙間から外を眺めるが何かが見える訳もない。田舎とは違って都会の空はほんの少し濁って見える。そして何より空気が澱んでいる。

    別段、住んでいた田舎に思い入れは無いのだが正直、祖母の事は嫌いでは無かった。
    むしろ母親よりも好きだったのだと思う。
    田舎に戻りたいとは思はないが祖母の事は気掛かりで、何時か連絡を取りたいとは思っているがそれは当分先になりそうだ。
    兎に角、野薔薇は今一日を無事に終える事だけに必死になっている。
    自分自身の事で手一杯なのだ。連絡先を探そうにもその暇もなければ探す余力など残っていない。
    学生という事もあり常に金欠。
    バイトを増やそうにも学業との両立を考えれば中々難しい訳で、削る場所は食費一択。くぅ、と小さくお腹がなる音にじわじわと羞恥心が募る。
    空腹を少しでも紛らわそうと野薔薇は起き上がり、台所へと向かおうとしたその時だった。

    ぱち、と遂に電球が切れ部屋の中は闇に包まれた。微かな月明かりだけが野薔薇の住まう室内に差し込む。

    「…最悪。明日電球買いに行かなきゃな〜…。余計な出費は抑えたいとこだけど、必要だし仕方ないか」

    小さな溜息を零し、ぶつぶつと小言を漏らしながら月明かりを頼りに台所へと向かおうとゆっくりと足を運ぶ。
    足を動かす度にぎぃ、と床が軋む音。聞き慣れた音の筈なのに暗闇に包まれているからだろうか、やけに嫌な音となって野薔薇の鼓膜を震わせた。

    ふと、室内に寒気が充満した。
    その寒気の正体を野薔薇は知っている。
    幼い頃から何度も感じ、何度も見てきた幽霊が出たのだ。
    ああ、また出た、と心の内で唱えながら見知らぬフリをして野薔薇は溜息を零した。
    この部屋に住み始めた頃から何度か現れては消えてを繰り返す幽霊。
    野薔薇が借りているこのアパートは所謂事故物件と呼ばれるもので、格安で借りれる代わりに怪奇現象が起きるのだとこの物件を紹介してくれた人が言っていたのを思い出す。
    だから人も中々住み着かない。
    野薔薇にとっては良い居住地だった。多少のボロさと幽霊さえ目を瞑っておけばこの場所は住めば都というやつなのだ。
    幼い頃から幽霊という存在を知っていたお陰もあってか、特に恐怖心を抱く事は無く、ふらりと姿を現した幽霊になど目もくれず、野薔薇はコップを片手に、蛇口を捻りそのままコップに水を注ぐいでいく。
    気に停めなければ幽霊は此方に干渉しないと思っていた。
    だが今回ばかりは今までとは何かが違った。

    刺すような視線と、悪寒が野薔薇の身体をじわじわと責め立てていく。

    (……何これ、今までと何か違う…?)

    幽霊に背を向け、必死に見て見ぬふりを続けようと意識をコップに注がれていく水へと集中させる。
    脳内では絶えず警鐘が鳴り響く。
    早くどこかへ行ってくれ、そう心の中で唱えるがその願いは叶う事は無かった。

    ひたり、野薔薇の肩にどろりとした何かが触れた。触れた、と言うよりも垂れてきた、という表現が正しいだろうか。
    一気に全身の肌が粟立つ。驚きのあまり手の中のコップはするりと抜け落ち、シンクへと落ちていった。
    見て見ぬふりなどもう出来はしない。
    慌てて振り向けば幽霊は野薔薇の眼前に迫っていた。

    「………ひっ」

    思わず零れ落ちた悲鳴。振り向きざまに目と目が合い、この幽霊がぴたりと野薔薇の背後にくっついていたという事を理解した。
    理解した所でなんだと言う話ではあるが。
    逃げなければ、と心が叫ぶが身体が言うことを聞いてくれない。
    足に力が入らず、ずるずると床に座り込みながら、野薔薇は必死に思考を回転させた。だかこの状況を抜け出す為の回答等出せる訳が無い。


    『──────…、!』

    汚い雄叫びをあげながら、幽霊は確実に野薔薇に害をなそうとしている。

    今まで見て見ぬふりをしていた幽霊が敵意を持って牙を向き野薔薇に襲いかかってくる。
    幽霊を見てきた事はあったが、この様に襲いかかって来た事は今まで経験したことが無い。
    恐怖心が一気に募り、頭の中が真っ白に染まっていく。

    脳裏に過ぎるは幼い頃、一度だけ両親に黙ってついて行った祖母の仕事現場での光景だ。
    釘を空に放ち、金槌を振りかざしそれを穿つ祖母の後ろ姿。瞼の裏にこびり付いて離れない勇猛果敢な背中。もしかしたら今、自身に襲いかかってきている目の前の幽霊も、あの時のように倒す事が出来るのだろうか。
    だが今、祖母は居ない。
    居るのは自分一人で対処しようにも出来ない。
    一度しか見てこなかった、一度しか教えられなかった。
    不気味な呻き声をあげながら確実に野薔薇の元へと忍び寄る魔の手。
    死を覚悟し、ぎゅう、と硬く目を閉じたその時。

    扉が激しく壊れる音がその場に響いたのだ。
    そしてその音と同時、不意に野薔薇の身体を何か暖かいものが横切っていった。
    例えるならそう、犬の毛のような感覚。
    身体を掠めた正体が視界に飛び込み、野薔薇は瞬きを何度も繰り返した。

    「………い、犬?」

    野薔薇の双眸に映り込むそれは紛れもなく犬だった。
    綺麗な白色の毛並をした犬、そしてもう一匹は対黒色の毛並。お互いの存在が対になっているような二匹の犬が突然現れたことに驚きを隠せず、野薔薇はただその場に留まることしか出来ずにいた。
    ぐるる、と小さく唸りながら確実に目の前に佇んでいる幽霊を睨みつけているこの犬は一体何なのか、疑問ばかりかぐるぐると脳内を駆け巡る中、野薔薇の鼓膜にもう一つの音が届いた。

    「ちょっと五条さん、人が住んでるとか聞いてないですよ」

    この状況に似つかわしくない程落ち着いた声で言葉を紡ぎながらその人物は携帯電話片手に遠慮無く敷居を跨いできた。
    端正な顔立ちとツン、と立つ黒髪の男。
    その人物がちらりと野薔薇へ一度だけ視線を寄越すがすぐ様その視線は幽霊と犬へと戻っていった。

    「後で掛け直します。…玉犬、喰っていいぞ」

    その男の一言で二匹の犬は目の前で蠢いている幽霊目掛けて食らいついた。

    一体何を見ているのだろう、目の前の光景が信じられず、映画の世界にでも飛び込んでしまったのだろうかと疑いたくなる光景に、野薔薇は目が離せなくなっていた。


    □□□

    まるで映画やドラマの様なワンシーンを垣間見て、野薔薇はただ呆然とその場に座り込んでいた。
    先程まで居た幽霊は突如として現れた二匹の犬によって呆気なく霧散していき、部屋の中に立ち込めていた重く冷たい空気も何時しか薄らいでいた。
    静寂が蔓延る空気を断ち切る様に不意に男が言葉を紡いだ。

    「…おい、アンタ。こんな所で何してた」

    止まっていた思考が男の声によって漸く動き出す。
    そして今しがた起きていた事は夢では無く現実だと思い知り、改めて背筋がふるりと震えた。未だ足に力は入らず立つこともままならない。
    だが口は動く。問われた問にゆっくりと野薔薇は返答をした。

    「…っ、何、って。此処に住んでんのよ」

    野薔薇が紡いだ言葉に男は瞬きを一つ。
    驚きを隠せない様子で野薔薇を一瞥した後、乱雑に頭を掻き毟りながら大きな溜息を零した。
    俄には信じ難い、とその男は言いたげな表情を野薔薇へと向ける。

    「それより、今度はこっちが質問する番。さっきの何?」

    「…見えてたのか。あれは呪い…呪霊だ。普通は見えないもんなんだがな。まぁ、死に際とかこういう特殊な場合は別だが…」

    男の話を耳にしながら、嘗て一度だけ祖母から教わった事を擦り合わせていく。

    「まぁいい。怪我は」

    「してない、けど」

    「ならいい。いいか、今日の事は忘れた方がいい。つーか忘れろ」

    「は、何それ!忘れろって言われて忘れられるわけ無「お疲れサマンサー!恵、無事に祓除終わった?」

    野薔薇が言葉を紡ぎ終わる前に唐突に降り注いだ第三者の声。
    この場に似つかわしくない程の明るい声色にその場は一気に凍り付いた。
    躊躇うことなく敷居を跨いできたその人物は顔の半分を目隠しで覆い隠していた。装いも全身黒。闇に映える鮮やかな白髪に目を奪われるが、一瞥すれば唐突に現れたその人物は正しく不審者という言葉がぴったり一致する。
    その人物を見た野薔薇は思わず口にしてしまった。

    「ふ、不審者…!け、警察…!」

    「五条先生」

    野薔薇が小さな悲鳴と共に紡いだ単語と被せるように伏黒はその言葉を訂正するように言葉を被せる。先生という単語に耳を疑いながら、野薔薇は瞬きを何度も繰り返した。

    「えっ、先生!?嘘でしょ!この身なりで!?不審者じゃないの!?」

    「ドーモ!グッドルッキングガイ五条悟先生だよ。いやはや災難だったねぇ。…ところで君、いい術式持ってるね」

    五条と名乗った男は遠慮なしに野薔薇の元へと近付けば一気に距離を縮めた。
    鼻と鼻がくっつきそうな程の距離。
    目隠しで視界が覆われているはずなのに、何もかも見透かされている様な感覚にぞわりと肌が粟立ち、思わず息を飲んだ。
    口元はゆるりと弧を描いている。野薔薇に対して何か害をなそうとしている訳ではないのは理解出来る。だが、何処か恐怖心を覚えさせるこの男は一体何者なのだろうか。

    「五条先生、そいつ怖がってます」

    「えっ、嘘。メンゴメンゴ。怖がらせるつもり無かったんだけどなぁ」

    ふ、と重たい重圧が消えていく。
    五条は先程と全く変わらぬ様子でからりと笑いながら、それでいて視線は野薔薇へと向けたまま、仕切り直し、と言わんばかりに再度話を続けた。

    「君さ、僕らと同類なんだよね。呪霊を祓う術を持っている。どう?呪術師になるつもりはない?」

    「じゅ、じゅつし…?」

    「そ。僕は呪術を学ぶ学校…呪術高等専門学校で先生してんだけどさ、君みたいな若い才能眠らせておくには勿体ない訳。一緒に学んでさ、呪術師やらない?」

    突拍子もない事を急に言われ、野薔薇の思考は既にキャパシティを超えていた。
    色々な事が一気に起きたせいで上手く情報が纏まらず、ぱち、ぱちと何度も瞬きする事に必死になっている。

    「五条先生」

    「なに、恵。今大事な話してるんだけど」

    「そう一気に話されても困るんじゃないですか。現実離れしている話をしてる訳ですし。つーか、時間も時間なんで出直すべきだと思います」

    「ま、それもそうだよね。答えが決まったら此処に連絡して。僕らは何時でも大歓迎」

    そう言って五条は懐から一枚の名刺を取りだし野薔薇の掌に握らせた。
    そしてそのまま踵を返し、野薔薇に背を向けてその場を去っていく。野薔薇はただその背中を眺め、先程の光景を脳内で反芻させた。
    反芻させながら、野薔薇は掌の中にしまわれている名刺へと視線を落とす。名刺には先程五条が言っていた『呪術高等専門学校』と記されている。

    (呪術…おばあちゃんが昔、一回だけ見せてくれたあれを、私も出来るって事…?)

    彼らが去った後、野薔薇は暫く名刺を眺めていた。
    そして、一日の終わりにとてつもない騒動に巻き込まれていたせいで部屋の扉が壊されている事を野薔薇は忘れていた。
    彼らが去った後、その事に気付き盛大な悲鳴をあげたのは言うまでもない。
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