かの天使は最強の人「…………」
ドクターは唾を吐き出した。血が混じった唾は床に染みを作る。
(まだ口の中で血が出てるな……)
鉄の味を感じたドクターは、小さくため息をついた。同時に後ろで両手首を縛っている鎖がギシリと鳴る。鎖は太く、しかも何重にも巻かれているので、ちょっとやそっとじゃ外れないだろう。どのみちドクターの力では絶対に外れそうにないが。
その音に気づいた、近くにいた顔の半分を布で隠した見張りの傭兵が、振り向いてジロリとドクターを威圧の眼差しで見下ろす。
「下手に動くな」
「そう言われても……この格好が少しキツくてね」
「黙れ。また殴られたいようだな」
冷たく言い放つと、傭兵は振りかぶり、剣の柄をドクターの頬に叩きつけた。
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