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    SALVA.

    一次創作、低頻度稼働中。
    小説、メモ、その他二次創作など。
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    SALVA.

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    テライが無くなった次の日の話。
    ちょいグロ。

    ビーフシチューテライが死んでから1日経った。

    僕は遺品の片付けをしながら何も考えることが出来ず、ぼうっとしていた。
    彼の友人だったり親戚だったりした悪魔たちが僕を慰め、一緒に悲しみ、何とか明るさを取り戻そうと今も一生懸命だ。

    ありがたいことだよね。本当に。
    もしも僕がひとりぼっちで、テライだけしか自分を思ってくれてる相手がいなかったらどうなってたのかと、想像するだけでも恐ろしいから。
    こんな悲しみに、独りで太刀打ちできる自信はなかった。

    テライの遺品の整理をしていた時、彼の部屋にあった机の引き出しの中に、彼がいつも身につけていた耳飾りがあった。亡くなった日に限って身に付けていなかったのだろう。
    灰となり、お墓に入ってしまって触ることが出来なくなったテライの、最後の形見だ。

    「…………………」

    僕は目の前にある小さな鏡の中に映る自分を見た。
    泣き疲れて、やつれた、目元が腫れた顔。
    昨日ほど泣いたことはなかった。
    誰かが死ぬことを、こんなに悔しくて悲しくて仕方ないと思ったことは無かった。
    カトラが亡くなった時でさえ、僕は悲しさよりも安心が勝った。
    最後まで一緒にいられたことが嬉しかったし、何よりカトラはそのからだで生きられる最大の寿命を生き抜いたから。
    色々なことがあったけど、僕はあの時、カトラのことをほんの少しでも守ることが出来たって分かって、それで安心してた。

    僕が悲しかった時、いつも寄り添ってくれていたテライ。
    今手元にある耳飾りを見つめれば、その思い出が鮮明に思い出される。
    僕はなんとなく、テライの耳飾りに付いた針を耳たぶに指した。
    ちく、と傷んで耳たぶを貫通した針に、留め金で蓋をする。
    バランスよく付けられた。遺物でふさがった傷穴が塞がろうと頑張ってるからジンジン痛むけど、気にする事はない。

    「…!」

    その瞬間、紫色だった耳飾りが、じわじわと赤色に変わった。
    血で染ったのかと思ったが、どうやらそうじゃないらしい。
    テライの色から、僕の色へ変わった。

    …結構いいものつけてたんだなぁ、テライ。
    悪魔一匹一匹が持つ精力の素質によって皮膚の染まる色は変わると聞いたけど、それによって色が変化する装飾品なんて、結構高いはずだ。どこで手に入れたんだろう。

    …というか、なぜテライは耳飾りを外していたんだろう。

    テライはここ最近ずっと放心していたし、僕の話なんてまるで頭に入っていないようなことが多かった。何か物事を頼んでも、頭で考えなくてはできないことをする時はいつも手が止まっていた。

    それを考えれば、いつもつけてる耳飾りをつけ忘れた、という理由にも納得出来る。

    …と思ったけど、よく考えたら彼はこの耳飾りを四六時中着けてた。暖場に行く時も、寝る時も。
    わざわざ外しておく必要なんてあったのだろうか。

    …もしかして、わざとだったりするの?

    あの天使に殺されることを予期してなかったにしても、そうだとしても。

    テライ、もしかして死のうとしてたの?


    …ダメだ。また悪いことを考えている。
    テライが死んでから、後悔ばかり頭を巡って、それで何も考えられない。僕がこんなんじゃ、また周りの人に迷惑をかけてしまう。

    僕は散々迷惑をかけて生きてきた。
    障害だろうがなんだろうが、僕は本当に色々な人に迷惑をかけて、助けられて生きてきた。

    もういい加減にしなきゃ。

    またここで誰かを困らせたくない。
    誰にも迷惑かけたくない。

    もう迷惑をかけないようにすると、テライに言ったばかりなのに。



    「ビャク、どう?」
    背中からチャジャに声をかけられ振り向く。そしてチャジャは僕の耳を見て「あ」と小さく言う。

    僕は慌てて耳に手をかける。
    「……ごめん、ちょっと付けてみただけだから…」

    テライのものだ。勝手に持ち出しちゃいけないよね。

    ところがチャジャは、少し沈黙して口元が隠れてても分かるほどに苦笑いをして言った。

    「…………もらっていいんじゃない?」

    僕がえ?聞き返すと、チャジャは僕に近づきながら言った。

    「テライさんはお前の親みたいなもんでしょ。息子同然の立場のお前が形見としてそれ持ってたってきっとみんな納得するよ。」

    そう言われ、僕は振り返りまた鏡を見る。

    「………………そう、かな」
    そう呟いて耳飾りを触る。
    「うん。それにあの優しいテライさんだよ?ビャクがそれつけててもきっと似合ってるって褒めてくれるよ。」

    本音を言えば、僕もこの耳飾りは手元に置いておきたい。
    もう、テライを確かめるものが何も無くなってしまったし。

    これだけでも、テライが一緒にいる気がするから。

    「…じゃあ、貰っておこうかな。」
    僕がそう言うと、チャジャは頷いて、羽織の内側から小箱を持っていた手を出し、それを机に置いた。

    「細かいもの出たらこの中に入れちゃって。壊れやすいものは入れなくていいよ。」

    「……ごめん、ちょっと休憩したい」

    「あ、うん。全然急がなくていいよ。ただ丸一日居なくなるのだけはやめてね?あと1時間くらいで整理担当のひと来るからさ。

    僕らはまだ向こうやってる。」

    「わかった。それまでには戻るね。」

    僕は笑って手を振り、1度家から出た。




    家から少し離れた所に、人罰堂を眺めることが出来る崖がある。大抵人罰堂を囲む崖には柵があるから落ちたりはしないけど、ここだけは違う。
    悪魔は子供だったり堕凶魔だったりしなければ落下死することも無いから、あんまりこの辺は整備されてない。
    ここから人罰堂を見下ろしたりする。あんまり広いところだから、下で何をやってるのかはあんまり見えないけど。

    暖かい風が吹き上げてくるから気持ちいいし、僕のお気に入りの場所だ。

    僕は崖の縁に腰を下ろして足を投げ出す。元々あんまり人が寄り付くところじゃないけど、今日は僕以外誰もいない。

    遠くに見える赤い衆合針山。巨大な岩壁に覆われ大きなドーム状になっているこの地獄の中心、柱殿のてっぺんから照らされる眩しい獄都心。どこからともなく聞こえてくる、マグマが泡を吹くような重低音。小さな町あかり。
    何一つ変わらない地獄の風景なのに、どこか寂しく見える。


    テライのことを思い出す。
    僕が悲しくなってここに来ると、いつもテライが迎えに来てくれる。そしてこうやって一緒に座ってお話してくれる。
    いつだって僕の味方だった。

    過剰性幼稚症を患って生まれた僕は、不定期で脳の成長が止まってしまう。
    その事で周りとうまくやれなくて、色々な人に迷惑をかけた。
    勉強もまともに出来なくて、会話も下手くそで、小さなことで直ぐに泣いて怒って…いじめられたり、喧嘩したりなんて日常茶飯事だった。
    それでもテライは僕の味方をしてくれて、ビャクニブは悪くないっていつも慰めてくれた。
    問題が起きれば、一緒に解決しようとしてくれた。
    辛いことは、一緒に乗り越えようとしてくれた。

    僕が13歳で家出して、うっかり獄門から出ちゃった時に出会ったテライ。僕の事情を理解して、精一杯守ってくれた。
    カトラに拾ってもらってからも、時々僕の所へ来て、僕が不安にならないようにいつも励ましてくれて、支えてくれて。
    テライが自分自身の問題で元気じゃない時でさえ、僕のことを優先して助けてくれた。

    羽を失って苦しんでいた僕が獄棟に入ってからも、テライはずっとそばにいて離れなかった。いつも僕を心配して、回復してからもしばらくはお節介焼いてくれて、ちょっとだけ過保護なところがあったかもしれない。
    それでもテライの優しさは本当に温かくて、いつも僕の心の支えだった。

    それなのに、僕は。
    テライが苦しんでることに気づけず、気づいたところで何も出来ず、ただただ迷惑ばかりかけて。
    こんなに大切にしてもらったのに、僕はテライのことを全然大切にしなかった。
    テライが言う「大丈夫」を、疑ってあげなかった。
    何を言っても、何をしても、テライを悲しませるばかりで。

    挙句、こんな形でお別れすることになって。

    もっと僕にできることはあったはずなのに。
    僕がもっと大人になって、テライを支えてあげることができていれば。

    そうだ。公正型になって、あのクソ天使をもっと早く片付けていれば。

    知恵遅れなんか、患ってなければ。


    「………うぅ、ううぅぅう…」

    涙が溢れてくる。散々泣いて、ショックで精力の回りが悪くてあまり回復力がないから目元の腫れが収まらないのに、また涙が出てくる。
    いつまで経っても泣き虫で、子供で…

    テライ、テライ。
    ごめんなさい。

    大人になれなくてごめんなさい。

    テライを失った悲しみを乗り越えられないよ。

    どうしようもなく悲しくて、辛くて。

    過去ばっかり気にして前を見れないよ。

    どうしたらいいの。僕どうしたらいいの。


    会いたいよ、テライ。

    テライに会いたいよぉ……………!





















    つん、つん。



    ふと、涙があふれる目を抑えて俯いていた頭を、横から何かにつつかれる。


    「……?」

    僕が顔から手を離し、横を見る。

    ふわっ、と紅茶のような匂いがした。
    甘いのにさっぱりした、不思議な匂い。


    僕の隣にしゃがみこんで、僕を見つめる悪魔がいた。

    青い角、襟足だけミルクティーみたいな色をしたふわふわの黒髪、黒いシースルーの短いインナーの上に着た青い上着、その上着から出ている緩い袖、公正型がよく身につけてるような幕掛けの下から覗くくすんだ白色のダボダボしたズボン。そして、やけに大きな足。

    ギラギラと鋭く輝く、蛍光な黄色の目。


    「………………ラヴさん…」

    ラヴ・ランダさん。
    僕は彼を知ってる。公正型の有名な悪魔だ。
    アハがよく彼の話をしているし、何回か会っているから。

    今では珍しい古代種の体の作りが残ってるらしくて、少し変わった悪魔だ。

    僕は涙を拭い、多少裏返った声で答える。

    「…お久しぶり、ですね…っ、げほっげほっ」

    変なところに絡まってしまい、僕は噎せる。
    その僕を見て、彼は表情を変えずにいた。
    片方の口角が上がった不敵の笑みは、彼の最大の特徴かもしれない。

    「…ど、どうしたんですか?こんなところで」

    僕がそう聞くと、ラヴさんは言った。

    「見上げたらなんかいた」

    彼はあまり話してくれるひとじゃないけど、言葉には不自由がない。それにとても優しいと、アハが言っていた。

    「あぁ…なるほど…下から見えてたんですね」

    にや、と笑うラヴさん。
    人罰堂から僕を見つけて、わざわざ来てくれたんだろうか。
    だとしたらどんだけ素早いんだろう。
    瞬間移動でもしたんじゃないの?という速さだ。

    僕も笑う。
    彼はそんな僕を見て、隣にやっと腰を下ろした。
    そして僕の目元に裾で触る。
    目が腫れてることに気づいたのだろう。

    「あぁ…はい、昨日ちょっと悲しいことがあって…それで沢山泣いてたら…なんか、精力回り悪くなっちゃったみたいで」

    「痛そー。」

    「いやまぁ……はは」

    僕は笑って誤魔化した。
    心の方がもっと痛くて辛いから、目の痛みなんてそんなに気にならないけど。


    「腫れが引かないと嫌になっちゃいますね…目も開けづらいし」

    「…………」

    「まだ悲しくて涙出るから、これは当分ダメかもですね…はは」

    「………………」

    「…………えっと、あの……お仕事、大丈夫なんですか?」

    「大丈夫ぅ」

    さっき口をきいてくれたから安心してたけど、この様子だとやっぱりあまり話してくれないらしい。

    僕は言葉を失い、また俯いた。

    何も話さずじっとしているラヴさん。
    ただ僕の隣であぐらをかいて座って、眠そうに欠伸をしている。

    彼はめちゃくちゃ強いらしい。
    動きも早い上に力も強いし頭もいいから、悪い天使たちは彼のことをとても恐れてるとかなんとか。
    野性的な姿もあって公正型の番犬とも言われてる。
    今こうして見る分にはそんなに犬らしさは感じないけど。

    彼は背筋を伸ばして大きなしっぽをパタパタと床にあてながら人罰堂を見ている。
    一体何を考えているんだろう。

    ふと、僕はあることを思い出す。

    「………………あ、そうだ。

    これさっき貰ったんですけど、一緒に食べますか?」

    僕は懐からある物を取り出す。

    それは、昨日親戚に貰ったお菓子だった。
    食屋から取り寄せた、ビスケットという人間の食べ物らしいが、1度カトラと食べて美味しかったやつと似てたので受け取ってきた。

    ラヴはそれを見て、またにや、と笑った。

    僕は袋を開けて1枚取りだす。
    クリーム色の、少し硬そうな薄い円形のお菓子だ。ルウェンみたいないい匂いがする。

    ラヴさんに差し出してみると、躊躇もなく彼はそれを咥えた。
    あ、確かラヴさんの手は歩くものとして発達したままだから、あんまり物を掴むのに適してないんだっけ。

    ザクザクと音を立ててビスケットを食べたラヴさんは、特に顔色を変えるでもなく無言だった。
    それを見て僕もビスケットを食べてみる。

    案外そこまで固くなくて、ほんのりとバニラの味がして、優しめの甘さが口いっぱいに広がる。

    あぁ…美味しいなぁ。

    地球で色々なものを食べたけど、やっぱり甘いものっていいなぁ。
    心が落ち着く。

    「どうですか?」

    「んまぁ」

    口の周りをぺろっと舐めてラヴさんがそう答えてくれた。
    やっぱり誰かと一緒に何かを食べるのって落ち着く。

    誰かと…………



    …昨日、テライに手料理を食べさせる約束をしてた。
    僕がカトラに習ったビーフシチューを、作ってあげて。
    もうすぐ出来上がるって時にテライ、出ていっちゃって。

    …それで、戻ってこなかった。

    昨日のビーフシチューは結局そのまま置いてある。
    蓋をして、「腐る」をしないように。
    でもカトラは1晩置いた方が美味しいとも言ってた。

    ………………………。



    また、涙が出てきた。
    テライに食べさせてあげたかった。
    一生懸命作った手料理を。
    カトラみたいには作れないかもしれないけど
    テライに喜んでもらえるように頑張って作った手料理を。

    お菓子の袋に涙が垂れる。
    僕は震えて歯を食いしばった。


    「……………テライ………!」

    思わず、掠れた声でそう言う。

    その時。

    「テライ?」

    隣にいたラヴさんが、聞き返してきた。
    僕はハッとしてラヴさんを見る。

    「…テライのこと、知ってるんですか…?」

    そう聞くと、ラヴさんは答えてくれた。

    「朱撈が仰ってた」

    朱撈…ブバダおじさんが…


    僕は震えながら答えた。

    「………昨日、テライさんが天使に殺されたんだ。

    テライさんは…僕の親みたいなものでした。
    ずっとふたりで暮らしてましたから。

    いつも僕を支えてくれる、優しいひとで…

    昨日なんかも、僕の手料理を食べる約束を楽しみにしててくれて…

    僕、本当にテライが大好きで…!

    なのにあのクソ天使…あのクソトワイラのせいで…!」


    僕の手に力が入る。
    持っていたお菓子の袋が中身ごとぐしゃ、と潰れる。

    「あいつさえ…あいつさえいなければ…!


    テライは死ななかったのに…!!」


    僕は甲高い声を押し殺して泣いた。
    持ち上げた膝に顔を埋めて、収まらない怒りと憎しみを涙に変えて。

    そんな僕をただじっと見つめているラヴさん。
    彼はただそんな僕から離れず、少しだけ僕に体を僕に寄りかからせて、ただ黙っていた。

    それが、とても安心した。

    ただそばにいてくれてるだけなのに、僕の心が少しづつ温まる気がした。
    ひとりでいると暗いことばかり考えるけど、誰かに話を聞いてもらうだけでこんなに変わるものなんだと、改めて実感する。



    「ごめんなさい、ラヴさん。もう大丈夫です。」

    少しした後、僕は目をこすって顔を上げた。
    ラヴは寄りかからせていた体を元に戻し、僕に向き直った。
    またあの不敵の笑みを浮かべているが、それはどこか優しげに見えた。


    「僕、そろそろ行きます。ありがとうごさいました。」

    僕は立ち上がり、軽く会釈した。
    ラヴさんも立ち上がって、肩をあげる動作をした。

    「…あの、お礼と言ってはなんですけど、もし時間あったら僕の家に来てください。昨日作ったビーフシチューが残ってるので、良かったら食べてほしくて。



    ラヴは有無のどちらか分からない顔で笑った後、そのまま崖を飛び降りた。

    「わっ…!?………………すごいなぁラヴさん…」

    噂は本当らしい。

    この高さを飛行無しで躊躇なく下るラヴさんは、どこか並外れていて、とても野生的だった。



















    その足で、ラヴはとある場所へ向かっていた。


    人罰堂の一角にある獄牢だ。
    東側が魂専用、西が悪い事をした天人用。

    逮捕された場所によって入る牢獄が決まる。

    天国で逮捕されれば天国の牢屋、地獄で逮捕されれば地獄の牢屋。

    トワイラが逮捕されたのは、地獄の三途の川下流、金麦畑のところ。

    ラヴが向かっていたのは、トワイラが入れられている厳重な獄牢だ。


    ラヴは牢屋の列を進み、1番奥へ行く。
    薄暗い牢屋を沢山通り過ぎて、奥に見えてくる巨大な牢屋。




    その牢屋の前に立つ。





    「………………………わお、公正型のペットじゃねえの。」

    嫌に透き通った声が聞こえた。
    中性的で、聞き取りやすい声だ。

    牢屋の一番奥であぐらをかいていたトワイラが笑って手を叩く。

    「どうしたぁ?構ってくれるやつがいねえのかぁ?
    可哀想にwまともに餌貰えなくて可哀想だなぁw

    俺が撫でくりまわしてやろうかぁ?
    今日もおすわりできて偉いでちゅねぇ〜つってさw」

    トワイラが立ち上がり、鉄格子のギリギリまで迫ってくる。
    鉄格子に額をつけるくらいの距離でトワイラは隙間から手を出し、ラヴの頭に触ろうとした。


    その手を、ラヴが素早く噛んだ。


    「」

    トワイラの声を無視して、ラヴは噛み付いた状態のまま腕を使ってトワイラの腕を固定する。

    そのまま思いっきり体重をかけて捻る。


    ゴギュッ、という音がして腕の骨が折れる音がした。

    「っが」

    その腕を離すと、力なく重力に負けて腕が垂れ下がり、鉄格子に強く当たってまたトワイラが悲鳴をあげる。

    その場に座り込んだトワイラの頭に強く手を置く。不器用ながらに頭を手全体で固定する。


    そして、ゆっくり力を入れる。

    「…っ…………、まで、前」

    硬い指先が、頭の皮膚を突き破る。
    トワイラが動く方の手でその腕を掴んで抵抗するが無意味だ。

    「、で、べ」

    口から泡を吹くトワイラが白目を向きそうになっている。

    そのまま頭蓋骨を砕き、脳みそを


    「」



    グヂュ、と潰す。


    「っ──────────…」


    頭がグチャグチャになったトワイラは、正座のまま後ろにゴチャ、と音を立てて倒れた。




    ───頭を破壊したところで、こいつは死なない。


    また数日で回復してヘラヘラ笑ってるだろうから。


    単に気持ちの問題だけど
    これは、あの子を泣かせたお返しだよ。

    本当はこんなんじゃ足りないけどね。

    あんまりやると法とやらに俺も怒られちゃうから。



    「……きったねー」


    ラヴは血と脳髄で汚れた手をトワイラの膝元で拭くと、その場を去った。











    その夜。

    「…やっぱ来ないでしょ、ラヴさん」
    机を囲んで座った悪魔たちが話をしていた。

    「ビャクニブ、そもそもラヴさんは来るって言ってたん?」
    ホッパーがそう聞くと、ビャクニブはシチューをお皿に盛りながら答える。
    「ううん。でも笑ってた。」
    「あー…それは…どういった意味の反応だろうw」
    「あのひといつも笑ってるじゃん」
    チャジャがお茶を飲み、そう言う。

    「てかあのひと食べれんの?スプーン持てなくない?」
    お皿を机に置きながら僕は答える。

    「そしたら僕が食べさせてあげようかなって」

    「ならビャクは自分の分どうやって食べんのさ」

    「僕は振る舞う側だからその辺は気にしないでいいよ」

    「一緒に食べた方がいいでしょ」

    「いや、そうだけど…でも…」

    「チャジャ、お前少食なんだし早く食べ終わるんじゃね?
    したらラヴさんに食わしたれば?」

    ホッパーがそう言いかけると、食い気味でチャジャが答えた。

    「うるせえなてめぇは黙ってろよそもそもなんで居るんだよ」

    「ひぃん…」


    その時、ドアがコンコンと鳴る。

    「!」

    ビャクニブは手を拭いて玄関に向かう。







    扉を開けると、サンゴがいた。


    「ぅえ!?サンゴさん!?」

    「ん。久じぶり」

    サンゴは頭をポリポリかきながら答えた。

    「ぃやちょちょ!!なんでサンゴさんがここに!?」

    「ぢょいど付き添いで…ごいづの」

    そう言って目線を右にやると、ひょいと顔を出したのはラヴだった。


    「あっ、ラヴさん!」

    サンゴは呆れたように言った。

    「お前ごいづに家の場所教えながっだろ…ごいづがお前んどご行ぐ約束じだっでんで、朱撈に相談しだら連れでっでやれっで」

    「あ…そういえば教えなかった…ごめんなさい、お手数おかけして

    どうぞ、ラヴさん。」

    そう言うと、ラヴはにやっと笑って家に上がった。
    鼻をクンクンさせている。


    「…ええと………サンゴさん、お見送りありが……」


    「………………………………」



    「………………………………………サンゴさんも食べます?ビーフシチュー」


    「食う」




    そうして、賑やかになったビャクニブの家に、また少しずつ明るい空気が漂い始めていた。
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