検体グループβ10月の''そこ''は、酷く冷え込んでいた。
コンクリートの世界は真っ暗で、所々に入ったヒビの僅かな隙間から差し込む光だけが彼らにとっての太陽だった。
🧚♂️
「ボク、あの子とお話してみたいな〜!」
金髪の少年が指さしたのは明らかに壁に掛けられた写真の少年だった。
金髪の少年の首にはDANGERと書かれた首輪が巻かれていた。
ただし本人はその意味を理解していないようだ。
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「外の世界できっと会えますよ。」
もう既にここにいない人物だと知っている上で、そう返す者がいた。
彼らは必要最低限の衣食住のみで生活をさせられ、"そこ"を出ることは許されていない。
つまり、外部から扉が開かれない限りはずっと''そこ''にいることになるのだ。
"そこ"は下宿でもなくシェアハウスでもないが少年少女や青年らが沢山居る。
中には生まれたばかりの赤ん坊も。
錆び付いた鉄扉から大きな黒服の男が入ってきた。
黒服の男A
「No2568、来い。」
No2568と呼ばれた青年は、おもむろに立ち上がり黒服の男に連れていかれた。
🧺
「ねぇ、いつここから出られるの」
声を震わせながら、水色の髪の少年が言う。
少年の腕には複数の注射痕があり、足首には新しめの痛々しい傷が。
🧚♂️
「もうすぐ神様が助けに来てくれるよボク神様信じる」
🎹
「希望は持たない方がいい。ここへ来てしまったのが運の尽きだな...」
壁に寄りかかり座る黒髪の少年はそれだけ答えると、すぐに目を閉じた。
彼の言葉は現実的ではあるものの、神様がいるなら助けて欲しいと誰もが願っていた。
そんな彼は体中いたるところに打撲痕があった。
大人びた容姿をしているものの、彼はまだ10歳だ。
"そこ"での生活は虚無に等しい。
娯楽も無く、一日中寝て過ごす者もいる。
決まった時間に決まった場所へ呼び出され、とても苦いクッキーのようなものを食べさせられたり、その逆に甘ったるい紅茶を飲まされたり、薬を打たれるだけだ。
それらをそれらを除けば刑務所のようなものだ。
鉄扉が開かれ、黒服達からNo2568と呼ばれるオッドアイの青年が戻ってきた。
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「かこちゃん、次はあなただそうです。」
行きと比べると顔が青く、明らかに具合が悪そうだった。
それでも彼はにっこりと笑って、水色の髪の少年に語りかけた。
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「心配しなくても大丈夫ですよ。必ずヒーローは来ます。自分はそう信じています。その時まで生きて、一緒にここを出ましょう。」
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「...。」
母親が自分の子を慰めるように優しく抱きしめながら。
🧺
「うん、私頑張る」
🧚♂️
「またねつーちゃん」
青年の言葉に心を動かされ、覚悟を決めた水色の髪の少年は鉄扉の向こうへと消えていった。
水色の髪の少年を見届けると、瞬く間に青年は倒れた。
それを咄嗟に黒髪の少年が受け止めた。
顔色は先ほどよりも悪く、熱が上がっていた。
薬を投与されたことによる、反応が出たのだ。
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「すみ...ませ...迷惑......かけてしまって...。」
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「迷惑なんかじゃない。当たり前だ。」
タオルを水に浸しながら、黒髪の少年が言い放つ。
苦しそうに息をする青年を見て、黒髪の少年は唇を噛み締めた。
それはそれは血が出るほど固く。
🎹
「なんでいつも無理をするんだ。」
🧚♂️
「ねぇゆうちゃん死んじゃうのねぇ死んじゃうの」
黒髪の少年よりもはるかに大きな金髪の少年は落ち着きなく動き回った。
今まで投与されたことの無い薬なだけに、覚悟を決めたかのように青年はこう言った。
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「もし...私に...もしもの...ことが...あったら...」
その次の言葉は発せられる前に黒髪の少年によって掻き消された。
🎹
「一人で死なせるわけないだろ!かこと約束していたじゃないか」
黒髪の少年の左目から雫が零れ落ちた。
水色の髪の少年に対して言った言葉との矛盾には彼自身も気づいていた。
🎹
「かこは、"外の世界"を知らないんだぞ...。かこが外へ出た時に、寂しがるだろ。それに......」
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「あの子を...見つけま...た。地下に......います。」
吐息の合間に紡がれた言葉を黒髪の少年は聞き逃さなかった。
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「必ず...助けますから.........。」
🧺
「みんなただいま...ゆうあにい」
床に横たわる青年に部屋に戻ってきたばかりの水色の髪の少年が駆け寄った。
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「私は...大丈夫です。暁さんの...おかげでね。」
青年は起き上がって、時計を見た。
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「さて...そろそろ...寝ましょうか。」
時間はまだ正午すぎだったが、彼らはいつもこの時間には眠っている。
青年が声をかけると黒髪の少年と金髪の少年も青年の元へきた。
彼らは決まりとして寝る時は4人同じ場所に揃って寝る。
1時間ほど経った頃、水色の髪の少年が1人起きた。
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「かこちゃん、どうしましたか?」
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「気持ち悪くて...」
青年より症状が軽かったとはいえ、彼にも反応が出たようだ。
吐き気があっても吐けず寝れないのだと彼は言った。
青年はすぐに起き上がり、バケツを持ってきた。
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「私も起きていますから、大丈夫ですよ。」
他を起こさないように小さい声でそう言い優しく頭を撫でた。
数時間後、水色の髪の少年は青年の肩に寄りかかり寝ていた。
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「せめてこの子達だけでも助けられれば良いんですが。」