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    恋人だった近衛リンゼルとその百年後。プロット形式。本当は書架の梯子でもっとこうイチャイチャさせたかった。

    素振り25●恋人だった近衛リンゼル。●

    姫様の私室の書架。
    そこに書物を返す用事を請け負った近衛。
    すぐ横の文机には所定の位置に返されるのを待つ革張りでずっしり重い貴重な本が積まれてて、一冊。また一冊と、手渡しされては、丁寧に戻されていく。
    姫様は本を両手でさし出し、近衛はそれを片手で受け取る。
    さほど背丈も体格も変わらぬ彼だけど、やはり退魔の騎士になるだけの人なのだと改めて思う姫様。
    ついぽーっとして近衛から「姫様、これはどちらに?」と聞かれて「それはあちらに」、「それはそこです」と慌てて指示を出す。最後に手渡され全て戻されて、「ありがとう。こんな事までさせてしまって…」と姫様。
    「些末な事です。また何なりと」言いながら、上まで続く梯子からおりた近衛。
    姫様が梯子すぐ近くに立っていた為、互いに驚く程近くで視線が交わる。
    梯子の手摺にある彼の手に、そっと触れる。絹と皮ごしでは、その体温はわからない。
    「扉は閉めてあります……」
    瞳の奥と奥。互いに宿す感情をみとめてから、ふっと新緑の瞳が伏せられた。
    「……はい」
    欲を抑えた近衛の声は、わずかに掠れていた。
    近衛の手が、手摺ごと姫様の手を握る。
    そっと唇と唇が重なる。
    瞬間、待ち焦がれていた姫様が、きゅっと手摺を強く握りしめた。
    それに気づいて、近衛は優しくその手を指先で擦る。
    触れ合った唇もまた柔く、ふわりと柔らかいその感触で優しく触れる。
    離れそうで、離れない。
    焦らすような口づけだった。
    近衛本人はそんなつもりはない。
    姫様の気持ちを確かめるつもりなのだが、結果として姫様により強く求めさせ、その可憐な唇が縋り付く様にどこまでも追いかけてくる。
    それが喜びと共に胸に一抹の背徳感を産む。
    甘いが、半分苦い。けど、他には代えられない。
    そんな味がした。




    ●その百年後の二人●
    記憶を全て取り戻しつつも、それ以外の事、二人の関係を忘れてる様子のリンク。


    「リンク、気をつけて。その梯子も傷んでいるみたいです」
    百年後。同じ場所。同じ書架の前。
    「大丈夫。それより離れてて。すごい埃だ」
    梯子の上。一、二度咳をしながらリンクは下のゼルダに返す。
    「本当ですね」
    小さくくしゃみをして、ゼルダは応えた。
    「ほら。やっぱり!もっと窓の方へ」
    「大丈夫です。だって、求める本は、私にしかわかりません」
    「そうだけど」
    言って、くしゃみを一つ。
    「まぁ!おそろいですね」
    ゼルダはハンカチを口元に微笑んだ。
    そんな些細な事さえも、ただ無性に嬉しい。
    リンクも同じ気持ちで、鼻先を擦りながら笑い返した。
    「あ、リンクそれです!貴方の右の、その緑の」
    「これ?」
    よっと、と声に出してリンクは一冊の背表紙を指さした。
    「そうです!本も傷んでいます。慎重にお願いします」
    リンクはそっと背表紙を指先でたどり、天の部分に指をかけ表紙を掴むと、慎重に取り出した。
    綴じが甘くなっているのか、表紙が嫌に動いて、一瞬リンクはひやりとした。
    ぐっと挟むように力を入れる。
    「はい。やっぱり傷んでる。気をつけて」
    梯子まで駆け寄ってきたゼルダに差し出す。
    布で隠されてもわかる。大判の重い本を難なく持つたくましい腕。盛り上がる筋の流れをたどる。
    あぁ、そうだあの時も、と。そう思い出しながら見惚れる。
    「ありがとうございました」
    大切な思い出ごと、そっと胸に抱え込む。
    ずしりと重いそれは、少し埃と黴のにおいがした。
    「他は?」
    「今は、もうこれで」
    リンクはひらりと梯子から飛び降りた。
    「まだ持てるよ」
    「そうですか?」
    ゼルダは梯子の手摺を手に、書架を見上げた。
    その横顔を見つめる。
    理知的なそれが、リンクの心をつかむ。
    思う間もなく、その手に自分の物を重ねた。
    指先と指先。何にも覆われていない肌と肌が触れ合う。
    驚いて、ぱっと振り向くゼルダ。
    「リンク?」
    「あ……ごめん」
    触れ合った手を離すリンク。
    名残惜しいと、ゼルダがそれを目だけで追う。
    かつての恋人の抜け落ちた記憶。
    それを求めて。
    「謝らないでください。どうか……」
    彼の瞳を見つめられず、ゼルダは瞳を伏せた。
    「今日は……」
    リンクの緊張に掠れた声がした。
    絞り出すような。
    やっと言葉にできたといった様子。
    それにゼルダは顔をあげる。
    「扉を……気にしなくていいね」
    「っ?!」
    頬を染めたリンク。
    初めてみる表情だ。
    何かを押し殺す様な。堪えきれず何かが顔を出してしまった様でもない。
    ただ純粋に想う相手への恋慕。照れ臭さ。恥じらい。そんな素直な年相応の物が浮かんでいた。
    つられてゼルダも同じ表情になる。
    「まだ……覚えてる?」
    「それはっ!私の台詞です!」
    「そうかな?」
    「そうですっ!」
    「そっか。ごめん」
    昨日交わしたささやかな約束を、つい忘れてしまった。
    そんな何でもないように笑うリンク。
    失った物は何にも代えがたい。
    しかし、今ここにある奇跡もまた何にも代えがたいから。
    「でも、やっぱり難しいよ……」
    また手摺ごと手をつなぎ合う二人。
    沈黙が渡る。
    うつむいたままの瞳と瞳。
    リンクは額を重ねる。
    柔らかな髪とその香りを感じてから、鼻先で額から瞳へと辿る。
    ゼルダも誘われ、応える様に鼻先と鼻先を合わせた。
    閉じた新緑の瞳から一粒、涙がこぼれる。
    それを唇で拭い、瞼に口づけた。
    頬に、鼻先に、そして唇に。
    一瞬、触れ合った後、すぐに離れる。
    伏せた瞳と瞳が絡み合い、確かめ合う様に深く覗き込む。
    互いの奥に変わらぬ感情を認めると、リンクは繋がれた手を逸る様子で解いて、そのままゼルダの腰にまわすときつく抱き寄せる。
    ゼルダもまた、大切に抱えた本を忘れ、彼の首や背に腕をまわす。
    息をするのも忘れて強く求め合う唇。
    百年ぶりの口づけは、喜びの涙の味がした。
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