肩にかかる重みをベッドに下ろし、ひとまず制服を脱がせる。他人の服を脱がせる行為が不本意にもすっかり板についてしまった自分に溜息が出る。路上に寝ていた制服でベッドを汚すことなど、この家主は絶対に気にしないのだから放っておけば良いのに、俺にはどうしてもそれが出来ない。
――俺も末期だな。
買っておいた水のボトルを枕元に置く。無防備に眠る姿を見下ろすと、いつも何とも言えない心地になる。
――お前はどこまで気付いているんだろうな。
ディノが生きていると、最近キースが確信に近い思いを持って情報収集に奔走していることは俺の耳にも入っている。そこまで辿り着いたのなら、自ずと俺の偽りにも思い至っているはずだ。
こんな距離を許されることも、もう無くなるのだろうな。
最近キースを迎えに行く度にそんな感傷に囚われて自己嫌悪に陥る。初めから覚悟していたことだ。それなのに俺はこの男を迎えに行くことをやめられないし、この男が遠ざかって行くことに言葉に尽くし難い痛みを覚えている。
――勝手なことだ。
キースが深く眠っているうちに帰らなければ。分かってはいるのにただ離れ難くて、眠るキースから目が離せない。空が白む少し前、鳥の囀りが聞こえ始める頃に、漸く俺は立ち上がる。ただ離れれば良いのに、言うことを聞かない身体はキースの前髪を分けて額に唇を落とす。どうしようもない悪癖だ。
◇ ◇ ◇
ガンガンと痛む頭に極力振動を与えないようにしながらのろのろと廊下を歩く。角を曲がって見えた景色に、思わず足が止まった。
遠目で見てもわかる、まっすぐ伸びた背筋。
メンターリーダーで司令部とも関係の深いアイツには、オレには想像もつかない色々な仕事があるのだろう。今も司令と誰かと会議室の前で話し込んでいる。
アイツとオレの進む道は今、明らかに分かれつつある。組織のど真ん中で昇り詰めて行くだろうアイツと、組織のルールすら踏み外して離れて行くオレと。こうすることに迷いなどないし、アイツとオレの生きる世界が違うことなど出会った時からわかっていたけれど、下手に十年以上傍で過ごして、少なからず情が移ってしまった自覚はある。いや、そんな甘っちょろいモンじゃねぇな。
オレがブラッドに向ける想いは、拗れてドロドロに煮詰まった重苦しいもので、とてもじゃないがアイツには見せられない。こんなものを知っているのはオレだけでいいし、墓場まで持って行くつもりだ。ただ、アイツには、どうしても幸せでいてほしい。濁り切ったオレの胸の内で、唯一その想いだけが綺麗なものだと思う。まあ、アイツの幸せを願うヤツなんて五万といるだろうから、オレなんかが何かしようとする必要もないのだが。
傍にいたいなんてとても言えない関係の癖に、オレが酔い潰れると律儀に迎えに来るアイツに、ヒーローの体面を保つ以上の理由はないと知っていても、仄暗い満足を覚えてしまう。とことんオレはクズだな、と思いながら、ブラッドに背を向けて歩き出す。アイツの凛とした声がやけに耳に残った。