小説家五×デりヘル七ss 性欲。
面倒なことをすっとばして解消できるならしたい。それも仕事が滞っているときは特に問題となる。
——東京都在住、20代後半男性、職業小説家。ごくごく平凡な……うっそ〜! 僕は超売れっ子印税生活いやっほーいグッドルッキングガイ五条悟。絶賛別宅仕事部屋監禁缶詰め引きこもり中! でも今日も6時間で3文字しか書けてないねぇ〜! 最後ビシッと編集部に偉大な存在を改めて感じてほしくて本文のあとに付け足してる五条悟の3文字を先に書いたのみだねぇ〜!いや、五条と悟の間のスペース入れたら4文字だね!
そしてこの3もしくは4文字の男、別段いやらしいものを見てもなければ考えてもいなかったが、ゆるいムラつきがずっと続いていた。
——溜まってるな。
多忙のためしばらく抜いていない。しかし抜こうという気にもなっていなかった。疲労が思考と処理への意欲を鈍らせていた。
しかしここで閃きは訪れた。小説のネタではない。
「デリヘルを呼んでチャチャッと解消しよう!」
その後の五条の行動は早かった。風俗自体初めてのため未知への好奇心と仕事の煮詰まりによる謎のハイテンションがそうさせた。
「一番人気の七海ちゃん!急なキャンセルで空き!? しかも急だからオプションはサービスあり!? え、これ運命?呼ぶでしょ!」
顔は掲載されていなかったがSNSでの利用者による感想がすこぶる良く、その感想にいくつもの賛同コメントが寄せられていた。そこには初心者から玄人までどんな趣向の人でも七海ちゃん大正解とあった。呼ぶ選択肢しかない。
——ピンポーン
はい、呼んだ!
歯磨きも済み、下着も替えている。
「お待たせ。待ってた……よ?」
「夜分遅くに失礼します」
「え?運転手さん?」
「五条悟様ですね、この度はご指名ありがとうございました」
どこからどう見ても男であった。五条は視界全体がまるでテレビ画面を見ているかのような現実味のない感覚で、男のかっちりと七三分けにした髪から眉根、さらに淡々と自己紹介をする唇、白いスーツの上からでもわかる張りのある胸、スラリと伸びた脚、そして革靴を眺めた。やはり実際どこからどうみても男であった。七海の説明はご指名というワード以降遠くぼんやりとして脳が処理できていない。何か契約関係の事前確認のようだが、疲労が溜まったところに初めてのデリヘルで体格の良いリーマン風(こちらは秘密の副業で実際サラリーマンの可能性はあるが) が来たことでもはや何も考えられなくなっていた。はい、はい、あ、はい。五条が生返事を連発すると七海はそれではと大きな荷物とともに中に入る。
——なにこの荷物。もしかしてサービスのオプションの道具? もしかして僕いきなり抱かれる? いやいや嘘でしょ!? 僕? え!? じゃ、抱く!? 抱ける!? そもそも抱くとか抱かれるとかやめられないの!?
キャンセルやチェンジの一言も言えないまま硬直する五条。しかし転んでもただで起きない男でもあった。これはいつか小説のネタになるのではと。
——ええい、ままよ! 僕のアナルグッバイもしくは僕の息子よ頑張れ! どっちかわからないけど、ヤッてやる! ヤッてヤッてヤりまくり取材だ!
30分後。
「ンまァ〜い! ブロッコリーってこんなにうまいもんだったっけ?」
テーブルの上には所狭しと並ぶ出来立ての料理。それらを挟んだむこう側にエプロンを着けたままの七海が控えていた。
そう、七海建人は「いつでも味良し健康に良し」を掲げる『デリバリーヘルシーフード』の派遣シェフだった! 大きな荷物は調理器具と食材(予約客のキャンセルのため食材が選べない代わりの割引サービス♡)が詰められていた。
「五条さま、ご満足いただけたようで何よりです。普段はすぐにお暇するところですが、初回のためご感想のご協力までありがとうございます」
表情は相変わらず変化乏しい七海は感謝の意とともに小さくお辞儀をする。上げた顔の高い鼻梁にハラリと七三から少し崩れた金色の前髪が落ちた。
「んぉっ……」
息を飲むとは文字通りだが、実際には大きめゴロゴロブロッコリーを思わず飲み込んでしまう五条。
「お気をつけを…ふふっ」
「えっ……」
食欲が優しく満たされたことでいつの間にかいなくなっていた性欲が忍び足で戻ってきた。
「あの、さ……。今夜はもうお仕事終わりだよね? 良ければこれ一緒に食べない? 僕、小説家なんだけどさ。もうここ2週間お家を出てないの。会うのも編集者か宅配だけ。だから、あの……」
初めて顔を合わせた時から迷いもなく見つめ返してくる緑がかった双眸が一瞬揺れた。
「それでは……。お言葉に甘え、いただきます」
忍び足の性欲よりずっと速く恋が駆けてきた。
そして五条悟はデリバリーヘルシーフードの七海建人固定年契約を結んだ。