Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    okomegohan_don

    @okomegohan_don

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 10

    okomegohan_don

    ☆quiet follow

    半同棲の寛七。まだ寛が帰宅したところまでしかできてないです。

    半同棲寛七(書きかけ) ─今夜準備して待っていますので、
     
     年下の恋人からのメッセージはいつも簡素であった。しかしこれほどまでに衝撃を与えてくれるものもない。
     
     ─酷くしてほしいです。
     
     たった一文が日車の頸部から後頭部までぞくりとさせる。真昼だというのに心は既に夜へ飛んでいく。明日は日車と七海の休暇が二週間ぶりに重なる日だった。
     東京からは少し離れていたが、既に任務は終えている。駅で土産を購入、新幹線の中で報告書をまとめつつ移動、高専で報告書を完成させ口頭での報告とともに提出……書類の不備や追加の事務処理があったとしても夕方より前に帰宅できる完璧なシミュレーション。日車は乱れてもいない髪を上から覆うように掌で押さえて整えた。ハラリと小さな雪が甲に落ちては溶けていった。
     
     ***
     日車と七海は付き合ってから体を重ねるようになるまでに数ヶ月、そしてそこからさらに数ヶ月が経っていた。いい大人同士で八つもある歳の差。双方が遠慮しあうせいで付き合い始めても随分と足踏みをしていた。その状態に先に参った日車の方が手を上げ話し合いを求めたとき、さすがは弁護士ですねと言われたものだった。
     そうして実現できるかは別として、なるべく希望を提示することを努力目標としてから一ヶ月後、今度は七海の方が手を上げた。
     
    『私には人並みに酷くしてください。人並みと言っても程度は様々でしょうし、私も人並みなんてわかりませんが……。ただあなたは正しくあろうとしすぎです。もっと悪人になってください。あまりに悪人が過ぎたときは引っ叩きます。私もあなたに悪いことをしますので、おあいこです』
     
     七海からの「酷くしてほしい」という言葉は被虐趣味の誘いではなく許しであると日車は解釈している。恋人の肩口に触れることすら許可を得ようとするような、正しさにがんじがらめになっている不器用な男への最大の許容の提示。漠然でも許容範囲が広いと示してくれたのだ。制限なんて届かないところに設定されれば無いのも同然。七海という男はなんて自由で広々とした牢獄だろうか。
     その話し合いはすぐさま終わり、日車は事前許可なしで七海に口づけ、七海も日車のベルトを引き抜き、夜は初めて無言で始まった。唯一うるさいエアコンが冷気をゴウと吐き出していたが、体感温度は上がる一方だった。
     

     ──そうして今日もまた二人の夜が始まるはずであったが、この世の残酷とやらも許可は取らない主義のようである。
     
     日車が土産を選んでいる最中、イレギュラーな案件が舞い込んだ。七海の言葉を使うならば、時間外労働が予測される。吟味はやめて手にしていた地酒と先程棚に戻したご当地の乾物を再度手に取り会計を済ませる。
    「七海、すまん。急な依頼がきた。今日……いや、明日の昼も間に合わないかもしれない。本当にすまない」
    『謝る必要はないです。急がずゆっくり帰ってください。私の方は今日のご馳走を独り占めできますし、さっさと食べて寝ますので。お気になさらず』
     
     一般企業でさえ急いでる時ほど労災案件が多いんですから、と軽口も叩かれる。日車はスマートフォンを持っていない手の親指で眉間をゴリッとかいた。恋人への浮ついた気持ちと罪悪感が電波に乗って届いていたのだろうか。日車は年は先輩だが、術師としては後輩。ただでさえ慣れない業界で集中力の切れ目は命の切れ目。七海はよく知っているのだろう。
     手のひらの画面が暗くなるまで見つめ、深呼吸をふたつしたところで画面が再び光出す。次の案件担当の補助官の名が示された。
     
     ***

     相手が根性なしの馬鹿で良かった、その本人を締め上げてるときに煽るように言った言葉を今度は噛み締めるように心の中で反芻するほどには事がスムーズに運んだ。呪霊を祓うことはおまけで、本命は悪質な呪詛師を吊るして情報を得ることにあった。日車としては呪霊を祓うことの方が気が楽であったが、人を相手にすることに長けているせいで面倒な呪詛師案件を任されることがたびたびあった。時間外は避けられなかったが、相手を見つけてからはサッサと叩いてチャッチャと情報を吐かせることができた。頭の足りぬ相手であるとは言え、だからこそ短時間で必要な情報を要領よく十分に吐き出させることができたのはこの男の才能だろう。
     
     任務完了直後には夜はとっぷりと更けていた。連勤で目が半開きの補助官は帰して、拾ったタクシーを急かしに急かしてやっと七海と半同棲を始めた建物が見えた。窓越しにエントランスの煌々とした明かりを確認すると口の渇きに気がつく。
     釣りをもらうのも面倒になり札を運転手に握らせるなり逃げるようにそそくさと降りてからは、どうエントランスの鍵を開けたのかも覚えていない。見覚えのあるドアの前にいるということはちゃんと開けたのだろう。三〇半ばも過ぎてから、恋愛覚えたての青年のような体験をするとは思ってもみなかった。荒々しく鞄を漁って鍵を探すが焦るほどに見つからないものだ。
    「ただいま……」
     やっと最後の障害をクリアして、何でもない風を装いゆっくり体を滑り込ませる。唾液が喉にからんで掠れる語尾は咳払いでごまかす。
     返事はない。予告通り七海は寝ているのだろう。ほぉっと息を吐いて肩の力を抜く。今自分はどんな顔をしているのだろうか。さぞ情けない顔だろう。
     リビングと続くドアは開いたままであった。廊下は暖気が満ちており、電気も点いている。いつ恋人が帰るかもわからぬというのに……。いや、いつ帰ってもいいように準備したのだろう。本人の姿は見えずとも、恋人の心遣いが冷えた肌に染み込んで頬を緩ませる。きっと本人にそう言っても、疲れてそのままにしてただけですと照れてそっぽを向かれるだろう。七海は一見感情をあらわにしないわかりにくい人のようで、その実すごくわかりやすい。そういう奴だ。
     帰ってきた実感でやっと緊張の糸がほぐれた日車は玄関先に荷物を置き、コートを脱ぎながらバスルームへと向かった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏😭🙏👏💖👏💖💖💯💯💯💴💴💴💞💞💞☺☺☺💖💖😭💴💖💖💖💖💖💖💯💯💯💯💯🍌💒👍☺💘
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works