ごはんを食べよう17愛し気に自分を見るイソップを見るたびに、イライはこれでよかったのかわからなくなる。
あの日、最後のゲームで二人揃ってハッチに落ちた時、ナイチンゲールからの提案を受け入れたイライは、荘園のあった時代から百年ほど先の日本という国で目覚めた。
すぐにイソップを探して、見つけて、あれほどほっとしたことはないだろうと思った。
バグ、というらしい。ゲームの終わりで「ほんとう」に命の灯火を消しかけたから、イソップと共にハッチに入れたのだと。
このままだとイソップが死んでしまう、だから蘇生のためにその身体も魂も全てを遠くへ飛ばしましょうと、そう言われたのだ。あなた方が共にいられる道はそれだけです、と。
ナイチンゲールが対価として求めていたのは天眼だった。その天眼を使った膨大なエネルギーで荘園のバグを修正したかったらしい。
今となってはあの荘園がどうなっているのかわからないけれど、天眼を差し出したことでイライとイソップが荘園のループから抜け出したのは事実だった。
イライはイソップが好きだった。愛してさえいた。
と同時に、それが婚約者への裏切りだと分かってもいた。
そうだったのに、時代がこんなにも変わってしまえばそもそも彼女は生きていなくて、イライは言い訳にする材料を全部失ってしまったのだ。
イソップはイライの想いを信じてはくれない、当たり前だ。イライだって、イソップの立場ならおかしいと思うだろう。
それでもこの想いを抱えてずっと生きていくには、イソップから受け取った心が重すぎた。
あの、荘園の中、ループする魂の一つでいたままなら、こんな想いをしなくても済んだのだろうか。そんなことをずっと考えてしまうのだ。
マグカップケーキは甘い、甘いだけで、まるで自分に対するイソップみたいだった。