――クソつまんねぇ…。
夜景を見下ろすバルコニーで一条は煙草を燻らせていた。騒がしいだけで中身の無いパーティ…元来こういった場を好まない一条は一通り使えそうな人物に挨拶を終えると、逃げるようにバルコニーに足を運んだ。三月頭のまだ冷たい夜風がアルコールの入った身体に心地良い。
「店長」
聞き慣れた声に振り向きもせず、一条は設置の灰皿に灰を落とす。村上はその肩に彼のコートをそっと掛けると、薄く微笑んで隣に並んだ。都会の空は煙のように薄白く曇っている。
「夜はまだまだ冷えますから…」
「見たかよ、今日の奴らの顔」
「はぁ…」
「どいつもこいつもクズばっかだぜ、金だけは持ってやがる…良いのはそこだけだな」
「はぁ、」
仮にも自社のお得意様に悪態を吐く上司を村上はぼんやりと眺めた。眼下の夜景がきらきらと瞳に反射する。この上司の口からは、いつもお世辞にも綺麗とは言えない言葉が次々と出てくるのに彼の大きな瞳はいつも美しい光を湛えている。
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