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    taka_gk3100

    成人済、金カム腐/杉尾+杉尾前提右尾/読む方はリバ含め雑食/本誌派/今後の予定などはプロフカードから→ https://profcard.info/u/s5gG9tBvI9QHk4U5WGzcZohFF5l1/マロ→http://marshmallow-qa.com/taka_gk3100U

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    taka_gk3100

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    のんびりお月見を楽しむ二人の小話。全年齢です。
    四季sgoの続きですが、単品でも読めます。

    まんまるな幸せ 帰り支度をしていると、ケータイがぶぶっと震えた。机の上に置いたそれに目をやると、杉元からのメッセージだった。
    『おがたぁ! 帰りにお団子買ってきて!』
     タップしてメッセージを表示させると、すぐにシュポンと音を立てて次のメッセージが届く。もじもじしながらお願いするポーズの、クマのスタンプだ。それには特に言及せず、俺は了解とだけ返すと、スーツのポケットにケータイを入れた。
     ペンケースを鞄にしまいながら考える。
     ——なんで団子?
     突然食いたくなるほど、あいつ和菓子好きだったか?
     不思議に思いながらも電車に揺られ、最寄り駅に到着する。駅近のスーパーに足を向けると、視界の端がいやに明るいなと気がつき、自然と空を見上げた。
     そこには、濃紺の中にまあるい月が浮かんでいた。

     ガチャリ、とドアが開く音がした。尾形が帰ってきたようだ。
    「おかえり〜!」
     廊下を小走りに、玄関まで出迎えにいく。尾形は小さく「ただいま……」と呟き、ピカピカに光る革靴を脱いだ。
     俺は上がりぶちに近づいて腕を広げる。朝より少しくたびれたスーツ姿の相方が、そこにスポンと入り込んだ。ゆっくり頭をなでてやると、強張っていたからだから力が抜け、くたりと身を預けてくる。猫だったら、きっとごろごろと喉を鳴らしていることだろう。
     ひとしきり愛でて(尾形は愛でられて)満足したので尾形を解放してやって、手に持っていたものを引き取った。いつものカバンのほかに、がさりと音を立てるスーパーの袋にピンと来る。
    「あ、これお団子? ありがとう〜!」
     にこにこお礼を言う俺に尾形はこくりと頷いて、そのまま洗面所に向かった。
     俺はキッチンに戻って晩飯の準備の続きをする。あともうちょっとで出来上がりだ。しばらくすると、手を洗い終わった尾形がすすすと近づいてきて、後ろから俺の様子を覗き込んだ。
    「いい匂いだな……なんだこれ」
     火を使ってるからか、触れるか触れないかの絶妙な距離で問いかけてくる。
    「へへー、今日はガパオライスだぜ!」
    「ガパ……?」
    「ガパオライス! タイ料理だよ」
     尾形は納得したような、していないような声でふーんと言って、テーブルのセッティングに向かった。俺はそれを横目に、オーバルのカレー皿の半分にご飯を盛り、残りの半分に炒めた具を乗せる。その境目に、油多めで揚げ焼きした半熟の玉子焼きを乗せて、ほら美味しそうなまんまる!
    「出来たよー!」
     聞いたことのない料理にハテナ顔だった尾形も、皿を受け取るやいなやその目を輝かせた(当社比)。俄然やる気を出したようで、いそいそと支度をする尾形の後ろ姿を微笑ましく見ながら、汁物のナンプラー入りもやしスープをよそって食卓に向かった。

    「あー美味かった」
     腹もいっぱいになって、丸くなった腹部を撫でる。けど、今日はここからが本番だ!
    「さー、お団子お団子! 買い物ありがとな」
    「まぁ、買ってこいって言われたからな」
     ニコニコお礼を言うと、尾形は照れ隠しにそっぽ向いて髪を撫でつけた。
     先ほどのビニール袋を台所に取りに行き、中身を取り出すと、思いがけないものが出てきた。
    「? みたらし団子?」
     俺が首を傾げると、尾形が少しムッとした。
    「なんだ、お前が買ってこいって言ったんだろ?」
    「え、うん。お月見のやつ」
    「月見? バーガーじゃなくて団子だろ?」
    「え?」
    「え?」
     そのまま二人は、怪訝な様子でしばらく顔を見合わせた。そこから俺はハッとして、恐る恐る尾形に聞いた。
    「えーと、尾形サン。おばあちゃんちにいたときに、お月見をされたりは……?」
    「ばあちゃんにハンバーガーはキツイから食べたことない」
    「なるほど……」
     つまり、尾形はいわゆる一般的なお月見はしたことなくて、月見バーガーのことを「月見」だと認識してるってこと……だよな? よし。
    「えーとね。お月見は、実はハンバーガー以外にもお祝いの仕方がありまして」
    「そうなのか?」
     尾形はきゅっと瞳孔を絞り、杉元の顔を見つめる。
    「で、お団子はそれ用だったんだけど。良かったら、俺と別のやり方をやってみない?」
     そう聞くと、尾形はほんの少しワクワクした顔(当社比)で、こくりと頷いた。

     急いで近くの花屋に行き、クローズ寸前に滑り込む。入り口付近に残っていた、最後のすすきをゲットした。(ギリギリなことを詫びたら、むしろ買ってくれてありがとうと礼を言われた)
     上機嫌の俺の手には、柔らかそうな黄金色の穂。歩くたびにさわさわと揺れるそれを眺めながら、尾形は俺のななめ後ろをついてくる。なんでわざわざこんなもの買いに行ったんだとでも言いたげな顔だ。その様子が幼い子どものようで、俺は小さな笑いを噛み殺した。
    「気になる?」
    「ああ。なんだこれ」
    「すすきっていうんだよ」
    「その辺に生えてる雑草と違うのか?」
     尾形の身も蓋もないことを言うから、今度はしっかり吹き出してしまった。
    「あはは、雑草かぁ。土手とかにもあるし、この時期以外はそうかもなぁ」
     ふたりでぽくぽくと夜道を歩きながら、他愛もないことを話す。不思議そうな顔の尾形がこちらを見つめている。大事なだいじな、俺の相方。
    「ほら、尾形見て。満月だよ」
     曲がり角を曲がると、目の前に大きな月が現れた。空に向かって指をさすと、尾形もつられたように顔を上げる。
    「ああ、本当だな」
     心なしか嬉しそうな瞳が、月明かりに照らされてわずかに煌めいた。

     うちに帰って、花瓶の代わりになりそうなものを探す。いろいろ探し回って、最終的に、もう使われていない大きめのマグカップを引っ張り出してきた。だが、マグカップでは口が広すぎて、すすきが上手に生けられない。コップのふちに沿って、茎がバラバラと広がってしまう。俺がコップをクルクル回しながら苦戦していたら、尾形が横から顔を出した。
    「ちょっと寄越せ」
     うまく出来ないことに少し不貞腐れて尾形に渡すと、あいつはセロハンテープを持ってきた。なんだ?
     そのまま黙って眺めていると、尾形はコップの口にペタペタとテープを貼り出した。口を横断するように水平方向と垂直方向に二枚ずつテープを渡す。コップの口に、井の字のような四角い仕切りが出現する。その仕切り部分にすすきの茎を差し込むと、上手い具合にまとまって生けることができた。
    「なにこれ、すげー! よく思いついたな!」
    「ばあちゃんが、口の広い花瓶でよくやってたから……」
    「尾形のおばあちゃんに感謝だな!」
     そう言うと、尾形は髪を後ろに撫で付けながら、照れたようにもごもごとつぶやいた。
    「じゃあ、早速飾り付けしようぜ」
    「飾り付け?」
     俺はすすきを生けたコップを手に持ち、もう片方の手で尾形の手を取ってベランダに向かう。カーテンを開けてベランダに出ると、幸運にも先ほどの月が目の前に見えた。
    「やっぱすげー!」
     煌々と輝く月に改めて感嘆していると、尾形も感心したようにつぶやいた。
    「仕事の帰りにも、いやに明るいなと思ってた」
    「綺麗だよな。この時期の満月は、一年で一番綺麗って言われてるらしいぜ」
    「へぇ……」
     視線を上げて月を眺める尾形に、先ほどのなんちゃって花瓶を託し、俺は一旦部屋に引き返した。部屋を見渡して、棚の代わりに使えそうなものを探す。目に留まった小さな段ボールとかけ布を手に取って……あ、そうそう。皿に載ったアレも忘れずに。
    「おがた、お待たせ」
     ベランダに戻り、床に段ボールを置いた。その上に布を被せ、それっぽい台を作る。
    「おい、そんな簡単なもんでいいのか」
    「うーん、まあ最善ではないだろうけど。他にないからなぁ」
     そうのんびり返事をしながら、簡易台の上にすすきと、持ってきた丸い皿を置く。皿の上には、尾形が買ってきてくれたみたらし団子が載っていた。
    「団子は、これのためだったのか?」
     尾形はしぱしぱと目を瞬かせて、俺に尋ねた。
    「そうだよ、お月見にはお団子が欠かせないんだ。お月見は、一年で一番綺麗な月を愛でる日で、お月様に見立ててだんごを供えるんだって」
    「そう、なのか……」
     尾形は小さくそう呟くと、そろりと髪を撫でつけた。その様子は、知らないことを知ることの出来た子どものような喜びと、みんなが知っているはずのことを知らなかったバツの悪さが滲み出ていた。それを分かっているから、俺はあえて明るい雰囲気で言葉をつけ足す。
    「そういえば、知ってる? すすきって尾花とも言うらしいぜ。てことは、尾形の花だな」
    「……何言ってやがる」
    「花言葉は、『心が通じる』だってさ」
     そう言いながら尾形に笑いかけると、ぷいっと横を向かれた。晒された首元が少し赤くなっていた。
     照れ隠しをやめるタイミングが分からなくなってきた頃に、俺はわざとふざけた声を出した。
    「おがたぁ。俺、お腹空いてきちゃった。早くお団子食べない?」
    「お前な、さっき供えたばかりだろうが……」
     尾形は心底呆れた顔をしてこちらを見ると、俺のことを嗜めた。
    「それにお前さっき、月見用のだんごは? って言わなかったか? これ、なんか違うんだろ?」
    「うーん、まあ一般的なやつとは違うんだけど。せっかく尾形が買ってきてくれたから、うちの月見団子はこれがいいなって」
    「そうか……」
     俺がそう言うと、今度は少し嬉しそうに髪をなでつけた。口をむずむずさせた尾形の横顔が愛おしい。
    「また来年もしような、お月見」
     そう言うと、気が早いなと尾形が苦笑いした。
    「まずは今年のを終わらせないとだろ」
     そうして俺らは、のんびり中秋の名月を愛でたのだった。


    おまけ
    「ちなみに、なんでみたらし団子だったの?」
    「前に鶴見さんが買ってきてくれて、美味かったから」
    「えっ」
     その一言に一気に嫉妬心が湧き上がり、思わず声が漏れてしまう。俺の絶望的な表情を見た尾形が、思わずと言った感じで吹き出た。顔を背けて肩を振るわせている。
    「ちょ、ちょっと! 笑いすぎ!」
     ぷるぷるする尾形を見て、過剰反応した自分が恥ずかしくなる。けど、尾形が笑ってくれるなら、まあいいよな? ……たぶん。
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