星灯りの未来を(まおあん)街灯で照らされた道に、スーツケースのタイヤが転がる小さな音だけが聞こえる。駅前だというのにすれ違う人はまばらで、通りを埋める店は軒並みシャッターが閉められていた。時間は夜の九時。そんな、夜中でもないような時間に、全く人気がなくなってしまうような田舎の駅前を、あんずと真緒はお互いスーツケースを引きながら歩いているのであった。
「あっ、あれホテルだよ」
「んっ⁉︎あ、そ、そうだな!」
「真緒くん待ってて。聞いてくる」
あんずはその場にスーツケースを置いて、少し離れたところで煌々と輝くビジネスホテルへと駆け出していった。その後ろ姿を真緒はぼうっと見つめる。
ーーこれ結構、やばいんじゃないか?
事の発端は地方での仕事の依頼が入ったことにある。撮影地近くのホテルに前泊しようということになり、そのつもりで予定を練っていたのだが、真緒は急遽生徒会長の仕事で、身動きが取れなくなってしまったのであった。それをあんずが手伝う形で、夜に宿泊施設に到着できるように遅れて電車に乗り込んだ。それが、野生動物と衝突したとか何とかで止まってしまい、スーツケースひとつで見知らぬ田舎町に放り出されたのが三十分ほど前の話だった。
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