落杏流水何故、私はここにいるのだろう。
目が覚めると、知らない……いや、先日までは知らなかった天井、見慣れない部屋。朦朧とした意識の中で寝返りを打ってみれば目の前には自分の顔には一億の価値があるのだと宣う、転校してからお世話になっている嫌味な先輩。…の眠り顔。
すぅすぅと小さく寝息を立てながら、一億の顔はこちらの存在など忘れたかのように安眠していた。
事の発端はどこだっただろうか。
「えっ、フィレンツェ、ですか」
「うん。よろしく頼んだよ」
美しく儚げに微笑む天使の顔をした皇帝は、有無を言わさない圧力をかけながら唐突にそう言った。
しかし、彼女、あんずは一年もこの圧力を受けていれば多少慣れも出てくるようで。
もちろん、仕事を断るという選択肢などない彼女は、YESと答える気ではあるが海外なのだ。戸惑いを隠せないあんずをさすがに気の毒に思ったのか、苦笑しながら一言謝罪して内容を教えた。
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