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    清 川

    伏右固定、虎伏メインにまったりゆったり

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    清 川

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    アイドル虎杖くん×作詞家?伏黒くん
    まだ出会ってない

    伏黒恵が虎杖悠仁の曲に歌詞を書くことになったのには、影よりも暗く、マリアナ海溝よりも深い理由がある。
     それは芸能人であり伏黒恵の後見人である五条悟が今話題沸騰中のアイドル、虎杖悠仁と学園を舞台とした推理ドラマで共演した事が全てのきっかけだった。
     ドラマのメインキャストとなった五条は、主演の虎杖と撮影中なにかと話す機会があり、このドラマで初対面だったのにも関わらず二人はすぐに意気投合。撮影の合間を縫ってはご飯に行ったり遊んだりと交友関係を深め、さらにはプライベートでも頻繁に連絡を取り合うほどの仲となり、ドラマの撮影現場ではよく二人が楽しそうにしている姿が目撃されていた。
     それ以外にも今まではあくまでも営業的な投稿しかされていなかった二人のSNSが、虎杖と五条が相互状態となってからは仲良く会話のやり取りをしている姿が目立つようになり、そのせいもあってか二人のファンの間でも彼らの仲の良さが認知され始めるのにはそう時間はかからなかった。
     そうして五条が教師役、虎杖が生徒役で出演した学園推理ドラマは回を重ねる毎に高視聴率を記録し、視聴者に惜しまれながらも最終回を迎える事となる。
     それから数ヶ月が経ったある日のこと。
     それは急に、突然と、五条のプライベート用スマートフォンに虎杖から送られてきた一通のメッセージから物語は始まった。

     ◆

     連日重なったドラマの地方ロケも無事にクランクアップし、セーフハウスのひとつである都内のタワーマンションに五条が到着したのは、夜も更けた0時前のこと。
     マンションコンシェルジュの疲れを感じさせない笑顔と「おかえりなさいませ」と言うにこやかな声の出迎えに片手を上げて挨拶をした五条は、足早にエレベーターへと乗り込んだ。
    (ったく、仕事入れすぎなんだよ)
     ここ最近の鬼のようなスケジュール。五条は虎杖と共演したドラマを皮切りに出演オファーが以前にも増していた。元々そのルックスから読者モデルとして人気の高い五条ではあったが、連続ドラマに出演したのはこれが初めてだった。そのお陰かドラマからファンになったという層が格段に増えた。旬、というのは言葉のとおり食材の味が最も美味い時期の事を指している。虎杖も五条も世間からの注目度は今やまさに旬。仕事があると言うことは大変喜ばしい事ではあるのだが、ドラマに映画にCM撮影と少々詰め込み過ぎたのかもしれない。
     エレベーターが時間をかけて行き着いた先はマンションの最上階。この階には五条とそれからもう一人、向かい合うようにして作られた部屋には住人がいた。その一人とはいまだに出会ったことはないが、そもそも出会うような時間帯に五条は帰宅していないし、ほぼ寝るだけの部屋なので会うことも、挨拶を交わすこともないだろう。それに出会ってここに住んでいるのが五条だとバレてサインを強請られるのも面倒臭い。 ――自意識過剰とはいってはいけない。五条は人より優れていることを隠さない性格なのだ。それに多分きっと、機嫌がよければノリノリでサインをしてあげる事だろう。
     ――相手が男でなければ、だけれど。

     冷暖房、空調もしっかりときいたホテルライクのような廊下を重い足取りで歩き、自宅のカードキーが入っている財布ごとドアセンサーにかざして部屋のドアを施錠した。
     誰に向かって言うわけでもなく心の中で「ただいま」と呟き、ぴかぴかに磨かれた真っ白な大理石の玄関で荒らしく靴を脱ぎ散らかして大股でリビングへと向かう。
     五条は今年29歳になるがいまだに独身である。芸能人ということはもちろんのこと、その容姿から何度もスキャンダルされてきたのだが、その殆どが事実とは異なる嘘ばかりであった。酒の飲めない五条を酔い潰そうとする女優を何度も見てきて、何度も売名行為で写真を売られてきた。五条の性格が少々意地悪く荒っぽいのは、過去のスキャンダルや腐った芸能界のせいかもしれない。
    (……ん?)
     白を協調とした部屋はもう何ヶ月も留守にしていたはずなのに先程歩いた廊下も、リビングも、ダイニングも、思いの外塵ひとつなく綺麗になっている事に気が付いた。
     五条が各地に所有するセーフハウスの中でもこの部屋の合鍵を持っているのはマネージャーである七海建人と、それからもう一人――
    「……恵、かな?」
     マネージャーの七海はずっと自分と一緒にいたため、五条の被後見人である伏黒が部屋の掃除をしに何度かこの部屋に訪れた形跡があることに自然と口角が上がった。常に五条の前では素っ気ない態度で「なんすか」なんてぶっきらぼうに言う彼であるが、なんだかんだで後見人の五条の事を心配してくれるし、根は優しい性格なのだ。あとでお礼のメールとご褒美に彼が大好きなアイドルのコンサートチケットを貰って送っておこう。
     鼻歌を歌いながら広いリビングを抜けて次に五条が向かったのはバスルーム。
     手違いで飛行機のチケットが取れなかったという理由から帰りは新幹線になった。九州からの長旅で凝り固まった体を解すためにも早く体を温めたい。
     浴槽に湯を張るために蛇口を捻ると白い湯気と共に勢いよくお湯が出始める。浴槽に一定の量が入ると自動的に止まる仕組みとなっている。お湯はそのままに、今度は洗面台で手を洗い、水が跳ね返ることも気にせず顔を洗った。前髪が濡れて水が滴るままにゆっくりと顔を上げて目の前の鏡に映る自分の目の下に薄らとできた隈を見付け、それを指先でゆっくりとなぞった。
    「……はぁ」
     ――七海のやつ、やっぱり仕事入れ過ぎなんだよ。
     吐き出した重い溜息は渦を巻いて排水溝に流れ落ちていく水と共に深く、そして暗い穴の中へと落ちていった。

     ◆ 

     疲れ切った体と気分を癒すためにのんびりと入浴を楽しみ、綺麗さっぱりと風呂から上がった五条は、ダイニングテーブルの上に置きっぱなしにしていたプライベート用スマートフォンを濡れた髪をタオルで拭きながら片手で持ち上げると、今まで仕事でチェックできなかったメッセージを確認するためにメッセージアプリを立ち上げた。その未読通知一覧の中に見慣れた虎のアイコンが上がっている。五条は戸惑うことなくそれをタップした。

     ――先生に相談なんだけど、今度発売されるアルバム曲の歌詞を書いてほしいんだけど……。

     申し訳なさそうな書き出し文と共に可愛くデフォルメされたトラが泣いているスタンプがひとつ、メッセージと共に送られてきていた。
     ドラマの影響で未だに自分の事を〝先生〟と呼ぶ、友人で後輩に当たる虎杖からメッセージがきていたのは三日前の朝方。連絡に気付かず放置してしまった事に一瞬だけ五条の中で罪悪感が生まれたが、そんな事でくよくよする五条悟ではない。〝まっ、悠仁だし大丈夫でしょ!〟と開き直るし、なんなら〝そういえば、悠仁の本業ってアイドルなんだっけ?〟なんて暢気に考えながら髪を拭いていたタオルを椅子にかけ、スマートフォンと共にダイニングテーブルの上に置かれていた現場の差し入れでもらった有名パティシエの洋菓子店で作られた人気すぎて現在手に入れる事が難しい貴重なシュークリームを乱雑に扱いながら口に運び、そんな事を思う。なんとも失礼な話であるが、それだけ虎杖に対して気を許しているということなのだろう。
     それにこっちだってずっと地方ロケ続きでホテルに戻れば疲れて泥のように眠り、多忙を極めていたためまともにプライベート用のスマートフォンをチェックできなかったのだ。
     五条は再びスマートフォンに目を向けた。
     はてどうしたもんかと顎に手を当て、虎杖から送られてきていたメッセージを何度も頭の中で読み返し、シュークリームを頬張る口をもぐもぐと動かした。
     アルバムに入れる曲の歌詞を書いてほしいという虎杖の要望は可愛い後輩のためにも叶えてあげたい。しかし五条が芸能活動を続けている中で作詞をした事は一度もなかった。作詞することは面白そうだし楽しそうだ。それにもし五条が虎杖の曲に歌詞を書く事になれば話題にもなるだろう。
     けれど虎杖が主演で五条が教師役で出演したドラマの続編が決まった今、とてもじゃないが時間を取れそうにもない。ドラマだけではなく、同時期に映画の撮影と写真集の撮影も入っている。それに何と言っても専門外。そう思い断ろうとメッセージアプリの入力画面をタップしたところで五条の手はぴたりと止まった。
     いや、ちょっと待て。歌詞って、あの歌詞のことだよな……?
     歌詞か……。
    (歌詞、ねぇ……)
     何かを忘れているような気がする。それが何かをすぐには思い出せず、喉に小骨が刺さったような違和感に持っていたスマートフォンを指先で弄ぶようにくるりと回した。なんだっけ? 多分何かを知っている気がする。と、いうよりもどこかで見たような……。
     うーんとしばらく考えたあと「あ!」と、ある事を思い出して漫画のようにぽんっとぐーにした右手で左掌を打った。
     そうだった、忘れてた! 僕とした事がなんて失態……! 
     軽口を叩いて書きかけだったメッセージアプリを一度閉じてすぐに見慣れた名前を着信履歴から探し出し、電話をかける。すぐに聞き慣れたコール音が鳴って早く出ないかな、と子供のように五条は胸を躍らせた。
     しかし、3コールを過ぎても一向に相手が出る気配はない。4コール、5コールと続くがやっぱり電話先の相手が電話に出る気配はなく、こうなったら出るまでかけてやる! と、意地になったところでふと部屋の壁掛け時計を見て驚いた。
     虎杖からきていたメッセージが朝方四時過ぎならば、今し方五条が電話をかけている時間は深夜の一時半を過ぎていた。しかもド平日の木曜日である。普通の人間であればもうぐっすりと夢の中であり、翌日に備えて寝ている時間帯だろう。
     それに、普通の人間であれば相手を起こすまいとこんな時間にわざわざ電話をかけたりしないものなのだが、やっぱり五条悟も芸能人なので時間の感覚がおかしくなっているのである。何度も鬼の様にコールしては掛け直す。しまいには「早く出ろよ」なんてイラつきながらシュークリームを頬張る姿は、到底彼のファンには見せられない顔をしていた。
     そうして鬼の様な五条からの電話は、朝方まで続くのだった。
     
     ◆

     伏黒恵は起きてすぐに自分のスマートフォンに表示されている五条からの鬼のような着信履歴に肝を冷やした。
     なにか事件に巻き込まれたり、なにか命に関わることだったり、もしかしたらスキャンダル的な何かを週刊誌に撮られたのかもしれない。そう思うと居ても立っても居られず直ぐに折り返し電話をかけるも五条が電話に出る気配はない。電話がだめなら、とアプリを立ち上げでメッセージを送る。返信はないかもしれないが目を通してくれるならそれでよかった。とりあえず、本人が生きているのかどうかの確認も含めて伏黒は、最低限の支度をして慌てて家を飛び出した。
     伏黒にとって五条は、ネグレクト状態であった自分と擬姉を引き取り、育ててくれた命の恩人でもある。擬姉である伏黒津美紀の大学費用だって支援してくれている。いつもは素っ気ない態度で冷たくあしらっているが、本当は感謝もしているし、信頼もしている。あとは単純に彼のことが心配なのだ。
     確か今日の五条さんのスケジュールは、と頭の中で何度もスケジュールを確認してマンションの地下に設けられている駐車場からピカピカの初心者マークのついた車をいつもより早く荒々しく走らせた。

     〝おはようございます。深夜の電話気付かなくてすみません。なにかありましたか? 今から五条さんのマンションに向かいます〟

    「……って、いねぇし!」
     しかし、伏黒が五条のマンションに着く頃にはすでに五条はマネージャーの七海建人と共に仕事に向かっており、もぬけの殻となっていた。
     なんとも間の悪い伏黒である。
     その日の機嫌が最高に悪かったのは言うまでもない。
     
    (あの鬼電話はなんだったんだ……?)
     
     ◆ 

     それから数日経ったある日の事。
     なんと昨日まで五条の専属マネージャーであった七海建人が事務所が引き止めるも虚しく突如退社してしまい、五条のマネージャーが不在となってしまったのだ。これには五条が所属している大手芸能事務所「夜蛾プロダクション」の社長である夜蛾正道も頭を抱える事となる。五条ほどの売れっ子ともなると五条一人でのスケジュール管理は難しい。だが、誰か人一人雇おうにもすぐに仕事を覚える事もそれ相応の人材が集まるとも思えない。その間にも時間は止まってはくれず、五条に与えられた仕事は毎日分刻みでやってくる。

    「じゃあ、次の人が決まるまで恵が僕のマネージャーになってよ」
     七海が辞めたその日の夜の食事会。多忙を極める五条が時間を見つけて伏黒を連れ出したのは、都内でも有名な高級料理店だった。
     和食をメインとしたこの料理店は伏黒も気に入っており、完全個室、店内の雰囲気もスタッフも落ち着いている、料理がとにかく美味しい、と欠点を見つける事が難しかった。コースではなくアラカルトで注文した数々の料理の中から伏黒は、丸々とキツネ色に揚げられた海老しんじょ揚げに箸を伸ばしていた手をぴたりと止めて五条に目線を向ける。
     それも至極嫌そうな顔で。
    「嫌ですよ。なんで俺が五条さんの面倒みないといけないんですか」
    「えー? 本当に? この前は心配してマンションまで来てくれたじゃん」
     サングラス越しにでもわかるほどにやけた顔をする五条の姿に伏黒はカチンとする。この前、とはあの鬼電話事件の事だろう。結局あれがなんだったのか伏黒は五条からいまだに何も聞かされていない。なんとも傍迷惑な話である。
     その前に、保護者で芸能人……それも五条悟ともなれば誰だって心配ぐらいするだろう。あの日の事を思い出して伏黒は、海老しんじょ揚げを荒々しく箸で掴むと小さな口に勢いよく頬張って目線を逸らした。もくもくと頬張る姿はまるでリスのよう。それから行儀よくこくんと飲み込んで――
    「あれは心配して損しました」
    「ひどいなぁ。それより恵がもし僕のマネージャーになってくれたらさ、恵の大好きな虎杖悠仁君に会えるかもよ?」
    「……、別にアイドルなんて興味ありません」
    「へー……。まっ、それはそれとして。恵、趣味で歌詞書いてたりしてるよね?」
    「は?」
    「――確か、あれは机の二番目の引き出しの中にあった悠仁のファーストライブで販売したオレンジ色のリングノート」
    「ッ!? なん、なんで知ってんですか!?」
     言葉を遮るようにして伏黒が机を叩いて立ち上がる。個室なので誰にもその音は聞こえていないが、店内にかかっている大人でムーディーな曲を一瞬かき消すほどの大きさではあった。
    「悠仁のファンなら僕に言ってくれればよかったのに♡」
    「〜〜っ‼︎」
     誰にも言わず、ひっそりと趣味として楽しんでいた秘密が実は五条に見つかっていた事への羞恥心と勝手に人の部屋を漁った事への怒りで耳まで真っ赤になる。同性でありながらアイドルの虎杖悠仁のファンである事もそうであるが、もう一つの趣味である歌詞についても知られてしまっている事がとにかく恥ずかしい。好きとか嫌いとか愛しているだとか、そんなポエムのような事を書いていたような気もする。穴があったら入りたい。例え書いていなくとも恥ずかしいものは恥ずかしい。
     ――と、いうか
    「まさか! あのノート開いたんじゃ……」
    「いやー、僕はすごくいいと思うよ。特に3ページ目の――」
    「今すぐその頭から記憶消してください!」
    「それじゃあ、僕がアレを見た事は金輪際口にしないとして代わりに恵は僕のマネージャーになってくれるよね?」
    「……っ!」
     ずるい……! そんな事を言われてしまっては断れるはずもなかった。
     鬼のように電話をしてきた事を心配してしまった自分はなんだったのか、と悔しそうに伏黒は五条を睨む。生憎当人にはまったく効いていないようではあるが。
    「これから宜しくね」
    「……ずっとじゃないでしょ。期間限定です」
     こうして弱み(?)を握られ、無有を言わせないまま新しいマネージャーが見つかるまでの間、伏黒が五条のマネージャーとなる事となってしまった。五条が破天荒な事は幼いころから知っているが、まさかマネージャーを押し付けられるとは思ってもみなかった。伏黒は重い溜息を吐き出して明日からの生活に頭を抱えた。
     いや、だって――
    (本物の虎杖悠仁に会っちまったら死ぬ)
     ずっと隠れてファンをしてきたのだ。その応援しているアイドルが今から自分が期間限定とはいえ面倒をみることになった保護者で後見人で芸能人の五条とファン公認で仲が良いことは勿論伏黒も認知している。だからもし本当に五条の言う通り面と向かって虎杖と会ってしまったら……。
    (死ぬ…! 確実に死ぬ……っ!)
     きっと伏黒が「会いたい」と言えば五条は喜んで虎杖と会わせてくれるだろう。けれど伏黒はそれを望んではいなかった。あくまでも自分は、本人の知らぬところで応援する立場でいたいのだ。影からひっそりと応援して推し活を楽しみたい。虎杖が急に売れていってしまったのはちょっぴり寂しかったけど、彼の魅力に気付かない方がおかしいのだ。サイリウムを振って応援するのは自分の役目ではない。影から応援し、支援するのが生きがいだった。それを邪魔されるのは由々しき事態である。
     虎杖悠仁公式ファンクラブ会員ナンバー一桁の伏黒恵は、虎杖悠仁に関しては少々……、いや、結構面倒臭い拗らせオタクである。

     ◆

    「今日は有難う御座いました」
     お会計も終わって外に出ると、外はすっかりと暗くなっていた。東京の澱んだ夜空の下で五条が「僕、これから用事があるから」とタクシーを捕まえて颯爽と一人乗り込み、後部座席の窓が下がって顔を出す。
    「そうそう、恵に早速仕事なんだけど」
    「……もうですか。まだ夜蛾社長にも話通してないのに仕事振らないで下さいよ」
    「それは追々。で、恵に頼み事なんだけど、悠仁のアルバム曲の作詞もう頼んでおいたから」
    「………は?」

     五条は今、なんと言っただろうか。

    「締切は二週間後だって。あ、ちゃんと僕の紹介ってことで恵の名前も伝えといたから」
    「え?」
    「あと、デモテープの郵送先は恵のマンションでよかったよね? あ、これマネージャーの仕事じゃないか、ウケる」
    「は……? あ?」
    「でも恵、悠仁の事大好きでしょ? それにさぁ、歌詞書いてる人って僕恵以外知らないし。丁度良かったんじゃない? 悠仁とも会えるだろうし。 そんじゃ、宜しく!」
    「ちょっ!」
     ――ちょっと待て! ちょっと待てよ、白髪サングラス!! 
     五条の言う悠仁って、あの虎杖悠仁のことだろうか。後見人の五条が推しの虎杖と親しい間柄なのは知っているが、めんどくさい拗らせ虎杖オタクの伏黒はそこから繋がって知り合いになりたいと思った事は一度もない。
     彼を遠くから見るだけで、それだけでよかったのに。それなのに五条は今、なんと言っただろうか。
     ――虎杖の曲? 
     ――作詞…?
     ――作詞ってなんだ?
     ――歌のこと?
     ――その前に、聞いてない。
     頭が真っ白になって店の前で呆けた顔のまま立ち尽くす伏黒に五条は悪戯が上手くいった子供の様に舌を出して笑い、尚も唖然と立ち尽くす伏黒を置いて非情にもタクシーをさっさと出発させたのだった。

    「はぁああああ!?!?」

     賑わう夜の街に伏黒の声が虚しく響いて木霊した。
     滅多に声を荒げない伏黒も、この時ばかりは声を荒げるしかなかった。だっていくらなんでもあんまりすぎる。驚いて「なんだ、なんだ」と振り返る通行人から不審な目を向けられていたとしても、それに気を回す余裕など今の伏黒にはなかった。
     ――今度マジで殴ろう……!!
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