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    izaribi_desuyo

    @izaribi_desuyo
    いざりびですよ。

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    izaribi_desuyo

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    また明日「観覧車?」
    「うん。一緒に乗って欲しいんだ、委員長くん」
     転校生──類の誘いに、委員長くん改め司は首を傾げる。
    「構わんが、この辺りに綺麗な景色の見える観覧車はないぞ?近場のから見える景色は大体ビル街ばかりで……」
     そんな司の言葉に、それでいいんだと類は笑う。
    「実は、観覧車に乗ったことがないんだ。景色を見るのもいいけれど、観覧車自体を楽しみたくてね」
    「そうか……。なら、今からほかの友人たちも誘っていくか。きっと校門の辺りにまだ───」
    「ううん、君だけがいいんだ、委員長くん」
    「えっ」
     その頼みを聞いて、司の口からは素っ頓狂な声が漏れる。観覧車に2人はなんだか、そう思って類の方を見ても頼んだ本人にそういった意図はないらしく、そんなことを考えた司自身が恥ずかしくなってしまった。
    「嫌ならいいんだ、でももしいいなら2人で乗りたい。どうだい?」
    「……そういうことなら、2人で乗るぞ!早く行かねば運行が終わってしまう、急ぐぞ類!」
     言いながら鞄を持って教室の扉を開ける司に、類の顔が少し明るくなる。ありがとうと笑って、もう下駄箱へ向かった彼を追うように、類もからっぽの教室を後にした。



     なんとか閉まる前に着いた観覧車は、見た目の古さと夕暮れなのも相まって寂しそうに見えた。乗り込んで扉が閉まると、2人の荒い呼吸がゴンドラの中を満たす。
    「ギリギリ、だったな………………!」
    「係員さんがチェーンを掛ける前で、良かったねぇ…………」
     そうして暫く呼吸を整えて、ようやく司の口がまともに開く。
    「なにはともあれ、無事乗れたな!」
    「ふふ、そうだね。……なんだか、夢みたいだ」
    「いや、それは大仰すぎないか……?」
     たかだか観覧車だぞ、僅かに呆れも含んでそう言う司に、類は首を横に振る。
    「大仰じゃないさ。……本当に、夢なんじゃないかと思うんだよ。あの日君たちと友人になったことも、騒がしく日々を過ごしたことも、全部夢のように楽しかったんだ」
    「類……」
    「……見てご覧、委員長くん。夜のビル街も綺麗だよ」
     類の指さす先を見ると、そこには息を呑むような景色が広がっていた。
    「すごいな、地上の星みたいだ……!」
    「場所が変わるだけで、こんなに綺麗に見えるんだね」
     そうして夜景を眺めるうち、2人のゴンドラは丁度真上を指した。
    「………………ありがとう、委員長くん」
    「ん?」
    「あの時サンタクロースが贈り物をくれなかったら、きっと僕はこの景色を見られなかったんだ。だから、本当にありがとう」
    「…………オレの方こそ、ありがとう。こんなに綺麗な景色が見られると知れたのは、お前のおかげだ」
     2人の間にゆっくりと時間が流れていく。ゴンドラは静かに、そして確かに終わりへ近づく。
     ビルも見えなくなった時、最後に司が一言言った。

    「また乗ろう、絶対だ」

     はっとしたように類が顔を上げる。ほんの少し揺らぐ視界に写った彼はとても優しく笑っていて、本当なんだと分かった。勿論だよ、言葉の代わりに笑みを返して、観覧車はその日の最後を回りきった。



    「類はもう高校決めたのか?」
    「そうだねぇ、具体的な進路は向こうへ行ってからかな。家から近いところにするよ」
    「大事なことを家からの距離で決めるんじゃない!全く……」
    「そういう委員長くんは決まっているのかい?」
    「もちろんだ!1期生を募集している高校があってな、そこへ入って生ける伝説になってやるぞ!!」
    「へぇ、それはさぞ偉大になることだろうねぇ………………」
    「そうだろうそうだろう!!……って何を笑っているんだ!!お前より立派な志望理由だろう!!」
    「すまないねぇ、馬鹿にするつもりは無いんだ。頑張ってくれたまえ」
    「ぐぬぬぬ……絶対にお前の所まで天馬司の名前を轟かせてやるからな!!」
    「意気込みは十分だね。……ねぇ、委員長くん」
    「なんだ?」
    「もし、僕が…………………………いや、これはサプライズにしておいた方がよさそうだ」
    「本当になんなんだ!?」
    「フフフ、なんだろうねぇ…………?」
    「怖いぞ!?」
    「まぁ、何年後かに期待していて欲しいな。……もうすぐ青になりそうだ。ここでお別れかな」
    「……そうか」
    「改めて、今まで楽しかったよ」
    「…………」
    「離れてしまうけれど、進級してもお互い頑張ろうじゃないか、委員ちょ───」
    「さっきからずっと言いたかったことがあるんだが!」
    「え?」
    「修業式を終えた時点でオレは委員長ではない!!司と呼べ、類!!」
    「あ、あぁ……司く、」
    「あとこれは今言いたくなったことだ!!会えないのは自由が利かない中学の間1年だけで、その上メッセージでも通話でもなんでも出来るのに長い別れの時みたいなことを言うんじゃない!!」
    「いや、でもこれはなんかさっきの雰囲気的に」
    「とにかく!!!」


    「寂しくなること言うんじゃない、バカる、い………………っ」


    「っ、司くん、………………、ごめん」
    「本当に、お前は………………絶対に許してやるもんか……………………!毎日メッセージ送り付けてやる」
    「うん」
    「電話も毎日するし」
    「うん」
    「これから年賀状に付けるおみくじシール全部末吉にしてやる」
    「うん…………ふふ」
    「笑うなよ、本気で怒ってるんだぞ!!!」
    「ごめんね、本当に……ごめん」
    「…………………絶対、絶対にまた乗るんだからな、観覧車」
    「あぁ。約束するよ、司くん」
    「…………メッセージと電話だけにしといてやる」
    「ありがとう」
    「……信号、青だな」
    「そうだね」
    「それじゃあ類」
    「うん、司くん」


    「また明日」
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