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    フシスです。宿が死んだところからはじまりますがハピエンです。妄想、捏造諸々好き勝手やってますのでご了承ください。

    今日も綺麗な朝焼けだ。
    橙色が黒を溶かすように青みがかった紫が滲む。
    幾度も見たその空。けれども水彩絵具のように全く同じものは二度無いのだろう。

    そんな空を、伏黒はぼんやりと自室の窓越しに眺めていた。
    考え出せば脳内を独占され、眠りさえも奪われる日々を過ごしてもう何回目だろうか。

    (宿儺が、死んだ。)

    その事実はこの朝焼けの様に溶かしてはくれずに、心と頭は黒く、暗く染まったままだ。







    宿儺が死んで一ヶ月が経とうとしている。
    宿儺が死に、虎杖は生き残った。指一本残さずだ。
    アイツがこの世から消えた事は大多数の呪術師や非術師、呪霊にとってさえも喜ばしい事だろう。何せ呪いの王と呼ばれた男だ。誰もが彼を恐れ、恨み、そして利用出来れば瞬く間に形勢が逆転する。そんな男だっただろう。
    ハッピーエンドだと思う。虎杖も釘崎も五条先生も、先輩達も生きてる。これ以上ない最善の結果だ。


    「──ろ、伏黒!」

    突然聞こえた声にはっと意識の靄が晴れ、声の方へ振り向く。

    「…虎杖か。ノックくらいしろよ。」

    「ええ…、したけど返事ないから寝てんのかなって。そろそろ準備しねーと遅刻するし。」

    その言葉に驚き再び窓の外に目を向ければ、先程までの朝焼けが幻だったかのように青空が広がっていた。
    最近はいつもこうだ、宿儺の事を考えている内にいつの間にか時間が進んでいる。

    「…あー…、悪い。すぐ準備するから先に行っててくれ。」

    「…マジで大丈夫?顔色悪いし隈もすげーぞ。休むなら五条先生に言っとくけど…。」

    そう言った虎杖の目元には、受肉していた頃の傷跡のようなものはもう無い。

    「大丈夫だ。少し寝不足なだけで支障はない。」

    「…わかった、じゃあ寮の玄関で待ってるからな。」

    パタリ、と扉が閉まり自室に静けさが戻った。
    伏黒が頑固なのは知っているのだろう、あっさりと引いた虎杖だが心配しているのは変わらない為寮から学校まで共に行くつもりらしい。

    (…しっかりしねえと。)

    そう己に言い聞かせ、伏黒は漸く身支度を始めた。


    宿儺が好きだった。
    きっかけなんてものは無かったように思う。気が付いたのは渋谷での戦いの後。聞いた話では、宿儺が仮死状態だった俺を治し家入さんの元まで運び、その行動理由として俺を利用しようとしていると。
    意外だった。思ってもみなかった。
    利用目的で生かす為だとはいえ、治癒のみならず運ぶまでするとは。運ばずに虎杖に戻ったとしても、自惚れ無しに虎杖の性格上俺を運んだだろう。自由がきく残り少ない時間を、誰かを殺すのではなく俺に使った。特別。そんな言葉が頭を過ぎってしまったのだ。
    アイツに特別扱いされている。そう思うと妙な優越感があった。遡ればアイツのたった一言、二言が強さの糧になっていた。受肉したあの日、月光に照らされた赤い瞳と目があった瞬間。恐怖の他にほんの少し、綺麗だと思った。
    ああ、何だ。俺は初めから惹かれていたのか。
    そう気付くと同時に、その感情に蓋をした。
    当たり前だ。アイツは生かしてはおけない存在、生かしておくだけで甚大な被害をもたらす言わば天災のような男である。その男と添い遂げようなど考えてはならない。
    そう厳重に蓋をしている間は良かった。
    けれどとうとう宿儺が死に、気が抜けた瞬間その蓋も消え失せてしまったのだ。
    自分が非術師でなくて良かったとつくづく思う。これだけ混沌とした感情を持て余していれば、相当呪いを生み出していただろう。



    身支度を終え、寮の扉を開けば爽やかな日差しが寝不足の目に沁みる。
    宣言通り扉の近くで待っていた虎杖と共に学校へと足を進めていった。彼の中にはもう、宿儺の魂は一欠片もない。





    「うっっっっわ…」

    「あ、釘崎おはよー!」

    「おはよう、じゃないわよ!何よコイツの死にかけの顔!」

    「だって伏黒行くって言うんだもん〜〜…」

    教室で合流した釘崎は伏黒の顔をみた途端、はああ…と大きな溜息を吐き伏黒を睨む。
    心配してくれているのは分かるが、何も睨まなくてもいいだろ。

    「まーあ言っても聞かないわよね、この馬鹿。こういうところは一番馬鹿よ。」

    「オイ、好き勝手言ってんじゃねぇ。オマエらだって頑固だろ。」

    「「一緒にしないでもらえますぅ〜〜〜??」」

    「腹立つ…。」



    こんなところで変に息合わせんな。
    そう思いながらも、理由や細かい事情を聞いてこない辺り気を遣ってくれているのだろう。
    俺があんな事を考えて眠れずに夜を明かしているなど、口が裂けてもコイツらには言えない。
    然しそんな気の遣い方をしない人間が一人。

    「おっはよー、今日は座学だけだから楽で良いよねー!…あれ?恵寝不足?何々どうしたの、AVでも観過ぎ…

    カキンッと鉄同士が当たる音で言葉が遮断された。
    教室に入るや否や俺に迫る五条先生に金槌で釘を飛ばしたらしい釘崎が怒鳴る。惜しくも釘は無下限によって止められたようで、バラバラと落下する音が聞こえた。

    「レディーが居る部屋でそんな事聞くんじゃねえ!!」

    「あはは、ゴメーン。」

    己の都合とは異なる箇所ではあるが、質問を止められた事により先程の質問から逸れていく会話を聴き流しながら、ほっと胸を撫で下ろす。話すわけにはいかない。この思考と気持ちは墓場まで持って行かなくては。









    「で、朝の話の続きだけど。」

    捕まった。完全に油断していた。
    授業が終わり、虎杖と釘崎に学校から追い出されるように休めと帰された自室でベッドに腰を落ち着けたのも束の間、ノックも無しに開けられた扉からずけずけと入って来たのは五条先生だった。

    「…寝たいんすけど。」

    「どうせ眠れないんでしょ。」

    これは逃げられない。
    深い溜息を吐けば諦めたのを察したのだろう、隣に来た五条先生の重みの分、ベッドが沈む。

    「ここ数日不眠が続いてるみたいだけど、眠れない原因は?」

    「……。」

    「…悠仁が心配してたよ。ちょうど祓ってからだし、宿儺が恵に何か術を掛けてたんじゃないかって。まあそれが無いってのは僕の眼で分かってるけどさ。」

    「…そうですね。」

    相槌を打ちながら、思考を占めるのは本当の事を言うか否かの迷い。嘘が通用する人では無い事は重々分かっている為、言うか黙秘を続けるかの二択にならざるを得ない。

    「宿儺が祓われた事、何か後悔があるとか?」

    「…無いです。」

    そもそも利用しようとしている人間を近くに置くわけにはいかない、という戦略要素もあり俺はその戦線に立ってすらいない。幸か不幸か、俺は宿儺の最期を見てはいないのだ。

    「……宿儺は、最後どう祓われたんですか。」

    「端的に言うなら鬼神らしく呪いの王らしい死に方だったよ。受肉当初もだったけど呪い合うのが楽しいんだろうね。」

    思い出すのは少年院。初めて宿儺と対一で戦った…いや、あれを戦ったと言えるかは分からないが、確かにあの時力を振るうだけでなく分析も楽しんでいたように思う。アイツは、最後の最後まで己の欲を最優先に楽しんだのだろう。

    「ああ、でも少しつまらなそうな顔もしてたかな。『何だ、伏黒恵は居ないのか』って。」

    「……っ」

    「…え?」

    ドク、と大きく心臓が鳴ると同時に歪んでしまった表情を慌てて両手で覆う。安易に想像出来てしまうその声に動揺してしまった。ヤバい。


    「…恵は、宿儺に死んでほしくなかったって事?」

    「…死んでほしかったですよ、…宿儺が死んだ方が俺の大事な人達が死ぬリスクを抑えられる。」

    「…なるほどね。僕もさぁ、親友には死んでほしくなかったよ。死ぬべきだったけどね。」

    「…五条先生…。」

    話は聞いている、五条先生の親友で呪詛師になってしまった人だ。想いの種類は違えど似た葛藤なのだろう。今になってよく分かる。
    表情を隠していた手をゆっくりと外した。

    「……五条先生、前に自分を越える術師になれるって言ってくれましたよね。」

    「…?うん。」

    「俺はその時、俺がアンタみたいな術師になれるわけないだろって思ってたんです。けど少年院で宿儺と相対した時に、アイツに宝の持ち腐れだって言われてそれが自信に似たもんになりました。呪術全盛期に呪いの王とまで呼ばれたコイツが言うなら、俺に出来る事はもっとあるんじゃないかって。アイツには見えて俺には見えてないものがあるんじゃねえかって。」

    「…恵…。」

    「……けど、それでもアイツは悪です、俺にとっても。だからこれで良かったんです。落ち着くまでに時間がかかるだけで。」

    「…そう。分かった。けど寝不足の状態で任務には行かせられない。とりあえず本調子になるまで休みな。」

    「すみません、ありがとうございます。」

    隣のベッドの形が戻り、軽く手を振った五条先生が部屋から出れば深く息を吐き後ろへ上体を倒す。
    端的且つ断片的ではあるが、胸の内を話した事によって少し気持ちが晴れたような気がした。このまま、徐々に胸が軽くなり忘れていくのだろうか。そうなってしまえば良い。自分が宿儺に対してどんな感情を抱いていようと、宿儺はもう居ないのだ。いや、居たとしても利用されて殺されていたに違いない。

    (…そういえば、宿儺は俺をどう利用しようとしてたんだ?)

    あの呪いの王であれば全て己で熟せるだろう。呪力操作が難しい反転術式でさえも容易に使える程なのだから。宿儺に無く俺にあるもの、とすればやはり術式だろう。然し現在調伏している式神で宿儺が利用しようとするものなど思い当たらない。

    (なら、まだ俺が調伏出来ていない式神…?宿儺と戦ったあの時魔虚羅は出そうとしていたが、それも利用要素が見当たらねえ。)

    あの時、他の要素があっただろうか。影を媒介にする術式、消滅した式神の術式の引継ぎ、布留部…。

    (布留の言…?)

    以前書物で読んだ事がある。調伏時に唱える言葉に似た布留の言は、死者蘇生の言霊でもある。となれば、調伏時のみかは定かではないが影は黄泉と繋がっていると仮定しても良いのでは無いだろうか。
    その仮説に思わず飛び起き影を見下ろせば、普段と変わりない影が無性に異質に思え、ゾワリと身の毛がよだつ。
    宿儺は、俺に自分の蘇生を期待して利用価値を見出したのだろうか。そうだとすれば納得もできる。

    (宿儺を、生き返らせられるかもしれない…。)

    そこまで走った思考を遮断する。それでは振り出しに戻るだけだ。そもそも器はどうする?死体に魂を受肉させられたとしても、宿儺が好き勝手に動ければ最悪だ。

    (出来る事なら、俺の管理内で…。…流石に都合が良すぎるか。)

    夢物語の様な発想に自嘲めきつつ再びベッドに身を沈めた。宿儺と繋がっているかもしれないと思えば先程まで異質に見えていた影も愛しく感じ、辿るように指先で撫でる。
    …そういえば、領域展開をした時には自分の分身を作る事が出来た。人を形取る事は出来る。それに魂を定着させる事が出来れば…。

    「……宿儺…。」

    寝惚け眼で彼を呼ぶ。死後の世界とはどういう場所なのだろうか。そこでオマエは、独りなのか。それとも唯一居た従者と共に彷徨っているのか。…もし後者なら、俺はきっとオマエを…、

    呪力を流した影が、ざわついた気がした。











    「あ、先生ー!伏黒どうだった?」

    五条が伏黒の部屋から去り共同スペースを通ればやはり心配だったのであろう、彼の同級生2人がソファで過ごしていた。不安定で自己犠牲の節がある伏黒にとってこの2人は精神的に大きな支えになっているだろう。過去の大きな戦いで欠ける事なく生き残ってくれた彼らに、五条は感謝をも感じている。

    「時間が解決するかなーって感じ。呪術的に何かあるわけじゃないから、心配しなくても大丈夫だと思うよ。」

    「そっか、良かった。」

    「アイツ根暗だから悩まなくて良い事でも考え過ぎちゃうのよ。ちょっとはこの馬鹿を見習うべきね。」

    「え?この指俺差してる??」

    「え?悠仁の前には誰か居るの?僕には見えないけど。」

    「私にも見えないわね。」

    「つまりそういう事じゃん!!!」

    わきゃわきゃと戯れるこの2人が居る限りは大丈夫だろうと五条は一人密かに笑む。

    (これからも宜しく頼むよ。)

    そう願った矢先、濃く異様な呪力を感じ3人は弾かれた様にその方向へ目を向けた。その呪力はまるで混沌や畏怖、哀情、鬱憤…全ての負の感情を凝縮させた様な。
    その呪力の元を探るべく五条は目に被さる布を取り外し目を凝らす。一等に濃くドス黒く渦巻くその呪力は、先程まで己が居た生徒の部屋だ。
    再び足早にその部屋へ向かい開いた扉の中、視界に映ったのはベッドに座り鼻や耳から血を流しながら一点を見詰める伏黒と、そして約ひと月前祓った筈の人物。


    「何だ、もう来たのか。」

    「宿儺……!!」

    血を流す伏黒を眼で捉え状況を断定した虎杖が宿儺に拳を振るう、その直前に五条が制止した。止められるとは予期しておらず、困惑した虎杖が五条に問いただす。

    「先生!何で止めんだよ!!」

    「妙だからだよ。もう消えてはいるけど、さっきの異様な呪力で宿儺が生き返ったとしても妙だ。」

    「妙って、何が…?」

    「宿儺、オマエ…何で恵と呪力で繋がってる?…いや、これじゃ寧ろ宿儺が恵の呪力で出来ているような……
    「ッげほ、エ"ッ……」

    迂闊に戦うのは危険だと判断した五条が状況を整理する為に呟いていた言葉を遮り伏黒が内部から上がった血で咽せる。近付く事の出来ない虎杖と釘崎が伏黒の名を叫ぶも反応が無く、表情を歪めていれば見兼ねた様子で宿儺が口を開いた。

    「やれやれ世話の焼ける奴だ。まあ良い、オマエの呪力を借りるぞ。」

    そう声を発すると同時に伏黒へと翳した手に纏うその特殊な光は家入や乙骨と、そして渋谷での記憶と同様の光だった。

    「反転術式……。」

    ぽつりと虎杖が零した。
    その呟きは正しく、先日行った演習で負った小さな擦傷でさえもみるみる内に消えていく。内側の損傷が完治し疲労感だけが残った状態の伏黒は目の前に再び現れた想い人の背に手を回し強く抱き締め、顔を埋めた。

    「…すくな。」













    「影に宿儺の魂を定着させた!?」

    「…ああ。」

    いくら実体を影で模せると言っても、そんな事が出来るのかと驚く彼らに伏黒は言った。自分も本当に出来るとは思っていなかったと。
    然し経緯を知った五条はその六眼で見た呪力の流れと宿儺に宿る伏黒の呪力に納得する。

    「で、肉体じゃない影からは呪力は生み出せないから恵の呪力を使ってると。さっきの"借りる"ってのはそういう事ね。」

    「そうみたいです。俺の意思で貸した呪力しか使えないし、そもそも形を維持するのも疲れるくらいですけど。」

    「燃費の悪い式神みたいだね。」

    「…それ多分聴こえてますよ。」

    「こっわ!」

    やはり聴こえており怒っているのか影の中からザラつく様な気配が感じ取れると、伏黒は影を撫で宥める。
    そうしていればいつもの影に戻り始めた。意外と単純な奴だ。

    「それにしてもホント、よくこんな蘇生みたいな真似出来たわね。結局宿儺以外は出来なかったんでしょ?」

    「ああ…試してはみたがそもそも影に黄泉も何ももう繋げられねえし繋げた感覚も分からなくなってる。」

    「逆に何で宿儺だけ定着出来たん?呪いの王だから?」

    「愛ほど歪んだ呪いは無いからね〜。」

    「「え??」」

    「やめろ馬鹿!!」

    影からも笑い声が聴こえた気がして笑うなと殴る。これから先はこうやって笑い合いながらコイツと過ごす事が出来るのだろうか。
    今度は文字通り、死ぬまで一緒だ。










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