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    堕天に影響されし短いフシス

    信じれば救われる。
    この町に蔓延る考え方だ。
    所謂宗教の様なものが浸透しているこの町では、決まった時間に鐘が鳴り祈りを捧げる事を幼少期から教育され律儀にそれを守っている。実際自分がその教えを守るか否かは自由ではあるのが、人間の心理上多数派が正しく少数派は異端と見做される。この村では、その教えを守らざる者は紛れもなく異端であった。


    今日も鐘が町に響く、陽が落ち始めた夕暮れ時。
    自宅に置かれた煌びやかな、されど控えめな十字架に向かい膝をつき、手を組み、祈りを捧げる。

    馬鹿馬鹿しい。
    そんな事を思いながら首を垂れるこの光景は、そう、ひどく

    「滑稽だな。」

    頭上から低く重い声が聞こえる。
    その声を聴き流し、手順通り数十秒祈りを捧げて漸く声の元へ視線を向けた。
    見た目で判断してはいけないとは言うが、コイツだけは許してほしい。見るからに善人とは思えない全身に浮かび上がる紋様、掻き上げられた淡い紅色の短髪。そして何より、背中から伸びる大きく美しい翼は闇を吸い込んだかの様に真っ黒く染まっている。
    聖水や祈りを込めた十字架が豊富なこの町には似つかわしくない、悪魔。

    「この俺を無視して神に祈るとは良い度胸だ。」

    「うるせえ、邪魔するからだろ。」

    「さして信仰もしていないだろうに。」

    「習慣付いてんだよ。あと瞑想みてえなもんだ。」

    「はあ…くだらん。」

    この世界には、コイツの様な悪魔、天使、妖怪と様々な種が混在している。その中でもこの男は元は天使として生を受けたものの、その傲慢さと暴力性、更には冷酷性も兼ね備えており間も無くして堕天した悪魔らしい。らしい、というのもこの男から直接聞いたわけでは無いからだ。悪魔、堕天使の恐ろしさを説く教育上この町では誰もが知る悪魔。その代表例として上げられ宿儺の異名を持たされたのがこの男だと、知ってからまだ日は浅い。

    「もうすぐ五条先生が来る時間だ、津美紀も帰ってくる。今日はもう帰ってくれ。」

    「早々に追い返すとは何だ、人間なら茶菓子の一つくらい出せ。」

    「馬鹿言え、オマエが居るのがバレたら問い詰められるだろ。面倒臭え。」

    「遅かれ早かれ知られるというのに難儀な奴だな。気が乗らんオマエと居ても仕方がない、今日は引いてやろう。」

    溜息混じりにそうボヤいた宿儺は黒い煙に巻かれ姿を消した。一欠片の残穢も無く離席してくれるのは有り難い。誰もが恐れ慄く悪魔も気遣いは出来るらしい。
    程なくして玄関の鍵を開ける音が聞こえ、扉が開かれた。ただいまの声も無くこの家に自由に出入り出来る人物は一人しか居ない。

    「お、居た居た恵。今日も学校から直帰したみたいだね〜友達居ないの?」

    「揶揄いに来たんなら帰ってください。」

    「冗談冗談、今日は話したい事があるって言ったでしょ。」

    長身、白髪のこの五条悟という男は退魔師で覇権を握る御三家の内の一つ、五条家の当主であり学校の教員、且つ両親がいない伏黒恵と義姉である津美紀の後見人である。そんな五条は時間にルーズであり、約束の時間になど来ない事でも有名だが今日は不自然に時間きっかりだ。

    「話って何ですか。」

    「単刀直入言うよ。オマエ、悪魔と契約したでしょ。」

    「………。」

    近い未来どうせ知られるとは思ってはいたが、一昨日の不自然にしか思えない伏黒にとっての好転が引っ掛かったのだろう。

    「…そうですね。」

    「大体検討は付いてるよ。津美紀を治す為に契約したんでしょ。」

    その通りだ。津美紀は数年前、14歳という若さで不慮の事故に遭い植物状態となった。ウザったらしく感じていた程の善人だったその義姉が運転手の違反で事故に遭い人生を奪われた事がどうしても納得出来なかったのだ。
    そんな時に目の前に姿を現したのが宿儺だった。
    彼は言った、自分なら義姉を何の副作用も後遺症も無く治してやれると。
    信じれば救われる。そう真っ直ぐに神に祈りを捧げていた津美紀を救ったのは、神では無い。宿儺という悪魔だった。

    「そんな事だろうと思ったよ。で?契約には代償が必要なのは知ってたよね。何を受けたの。」

    苛立っているのだろう、語尾を強めて問答を繰り返す五条が発する張り詰めた空気に思わず伏黒は視線を下に落とした。

    「…不老不死です。」

    「は?…不老不死?願いじゃなく代償が?」

    多くの人が望むであろう不老不死を何故代償としたのか。理解に苦しむ五条に、伏黒は悪魔の意図を伝える。その悪魔曰く、津美紀がこのまま死んでいくのを見たくはないという願いの元治癒を望んだ伏黒に不老不死を与える事によって自分が生かした人間や親しい人物全員の死に顔を拝むまで生きなければならない。加えて自身の生には無頓着で、治癒という願いを叶えられさえすれば死んだとしても大した代償ではないと考えていた伏黒にとっては、誰よりも永らく生きなければならない方がよっぽど重荷であり、皮肉めいた代償だろうと。

    「…それで不老不死?それにしては何か…、いやそもそも人の生死を直接左右する程の契約を結べる悪魔なんてそうそう居ないでしょ。…恵、オマエ何と契約した?」

    「何とは物扱いか?このままオマエの生気を食ってやっても良いんだぞ。」

    「「!」」

    2人しか居ない筈の部屋に3人目の声が響く。
    伏黒にとって聞き馴染みのあるその声は自身の背後から聞こえ、先刻見た黒い煙から姿を現した宿儺に眉根を寄せた。

    「オイ、今日は帰れって言っただろうが!」

    「知られたのだろう、なら帰る意味もない。」

    「まだ津美紀が帰って来るんだよ!」

    「知った事か。不老不死のオマエは老いも無ければ成長も無い、いつまで経ってもその身体のままだ。何れ気が付く。」

    「分かってる、だからって病み上がりにする話じゃねぇだろが。」

    理解出来ない、とまたも溜息を吐く宿儺の重い身体が伏黒の背後からのし掛かり首に腕を回される。
    見るからに筋肉質なこの体は見た目より重量がある。重い。

    「…ちょっと待って、整理させてくれない?コイツが恵の契約した悪魔?」

    「そうです。オイ、重いからどけ。」

    「断る。」

    「…くっ付いてるのは何で?」

    「コイツがくっ付いて来るから…重いしこんな筋肉ゴリラ退けられる筋力ないです。

    「ゴリラとは心外だ。」

    「うるせえ、帰らねぇならちょっと黙ってろ。」

    五条の困惑は続く。伏黒が契約したというこの悪魔、自身の知る限りこの紋様を持つのは宿儺であり、宿儺と言えば目撃証言や記録上契約もせず無差別に人を甚振り殺すか生気を食い殺す悪魔だった筈だ。その悪魔が殺さず契約を結び、危害を加える事無く伏黒の傍に居る。契約の内容も相まり膨大な違和感と理解の及ばない状況下に置かれた五条は、宿儺が伏黒を殺さないという判断だけを確定させ残りの思考を持ち帰る事とした。

    「妙な事もあるもんだねー…人にこんなにベタベタする悪魔、初めて見たよ。」

    「俺もです。五条先生に警戒しない悪魔初めて見ました。」

    「取り敢えず今日は帰るけど、何かされかけたら直ぐに連絡する事。良いね?」

    「分かりましたけど、俺不死ですよ。」

    「死なないだけで他に色々あるでしょ。じゃあね。」

    立ち上がり玄関へ向かう五条を伏黒は見送った。
    死なないだけで色々、色々…。何だろうか、拷問でもされるのだろうか。不思議と、宿儺にそんな事をされるとは思えなかった。伏黒の肩に顎を乗せ、無言で此方を見る宿儺に首を傾げる。
    …ああ、黙ってろって言ったままだった。

    「もう喋って良いぞ。」

    「ケヒッ」

    これが宿儺の遊びの一環だとしても、従っていてくれた彼の頭を撫でる。大人しく撫でられる様をこうも見せられては、拷問などされる想像がつかなかったとしても不可抗力と言えるだろう。
    契約を交わしてから毎日の様に顔を見せる彼と過ごす時間は、きっと途轍もなく永い。
    それならば萎縮し続けるよりも良いだろうと開き直ったのは正解だったようだ。
    津美紀が帰るまで、友人や先生が来るまで。1日の中では有限としているその時間を徐々に楽しめるようになるまで、あと数日…。












































    そして千年と生き退屈し始めていた宿儺が唯一の好奇として伏黒を見つけたと知り、不老不死を代償とした表向きの理由付けを剥がされるまであと、____年。

    【終】
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