<ネロさんには……>
「さっき見かけたんだけど、今日のネロさん、めっちゃ怒ってね?」
「おぉ……。ネロパンは野菜スペシャルだったぞ。ボス、何したんだ?」
「なんでもまた力試しとかで1人で大ケガして帰ってきたって話だぞ」
「肋骨折ったけど、勝ったって話だ」
「おぉ!」
「まじか!」
他の仲間達の感嘆や戸惑いの声が混ざるなか、俺自身も一気に複雑な感情が渦巻く。
流石ボス!という尊敬、ネロさんに何遍怒られても変わらない強さへの執着への呆れ、俺達も連れて行ってほしかったという悔しさ。
ざわざわしだした溜まり場に静かに声が響いた。
「なぁ、お前らブラッド見なかったか?」
話題の人物の登場に周囲に緊張が走る。一気に静かになった室内に答えようとするものはいない。仕方がないので一番近かった俺が答えた。
「……ボスは、今日はまだ見かけてないッス」
「そうか。もし見つけたら俺に連絡くれ。もし逃げようとしたらとっ捕まえとけよ」
「え、おれらには荷が重いかと……」
「あのバカ、絶対安静なのに逃げ出しやがったんだ。俺に言われたって言っとけ」
「は、はいッス!」
「頼むな」
笑顔で去って行くが後ろ姿には、明らかな怒りのオーラが見える。
普段呆れながらも笑っていることの多いネロさんだからこそ、たまの怒りは恐ろしい。ボスのこと以外は、食べ物を粗末にした時くらいしか怒らないのだ。
「目が笑ってねぇ……。ボス……」
心配からくる怒りであることは充分に理解しているつもりだが、きっと数時間後には見つかっているであろうボスのことを思うと気の毒だ。
でも……
「俺らはネロさんには逆らえないっスよ……」
こぼれ落ちた言葉にその場にいた全員が静かに、力強く頷いていた。